五輪中間年に見るフィギュアスケートの勢力図=ソチに向けた世界各チームの戦略とは

野口美恵
 五輪への折り返し地点となる2012年世界選手権が終了した。日本は男子の銀、銅、女子の銅、ペアの銅と4つのメダルを獲得する快挙だったが、五輪メダルのためには2年後へのかじ取りが大切になる。今シーズンの大会から浮かび上がる、各国・各選手の戦略とは――。

2013年世界選手権で日本は男女3枠 佐藤組は苦しいシーズンに

世界選手権ではトリプルアクセルに強いこだわりをもって臨んだ浅田真央。ソチ五輪の金メダル獲得へ、どのような青写真を描くのか 【坂本清】

 2013年世界選手権の出場枠は、2012年同選手権の順位で決定する。男女ともに最大の3枠を獲得できたのは、日本だけ。来季の同選手権に3人ずつ送り込めるならば、五輪3枠獲得の可能性も広がるため、日本は最高の折り返しを切ったといえる。

 そのなかで、佐藤信夫コーチ組の浅田真央(中京大)と小塚崇彦(トヨタ自動車)は苦しい試合となった。佐藤が求める理想は「なんといってもスピード。滑らでパワーのあるスケーティングと、そのスピードを使って大きく跳ぶジャンプ」だ。

 その教えを理解した今季の浅田は、大技のトリプルアクセルをダブルアクセルにすることで、伸びやかでスピードのある滑りを追求。NHK杯2位、ロシア杯優勝と結果を出した。しかし世界選手権では、「たくさん練習してきたので(トリプルアクセルを)跳びたかった」と戦略に迷いが出て、ショートとフリーで挑戦。成功はならず、6位に終わった。

「来季の方針を先生と相談したいです。なかなか上手くいかないな、と感じたシーズンでした」と唇をかんだ。

 小塚は、ショートで4回転トゥループを転倒、フリーは1本目が2回転になってしまったが、2本目は4回転+2回転を成功させた。ここ2カ月の練習で調子が落ちていた4回転を1本決め、本番力は示したが、ほかのジャンプミスも響き11位。「銀メダリストらしい演技をしなければと思ったができなかった」と話すなど、昨季の快挙が重圧になっていた様子。また靴が合わず、思うように練習に集中できなかったのも大きい。

「まずは靴を変えたい。僕の場合は、練習をしっかりできて、それが自信になるタイプ」。新たな気持ちで挑める来季は、持ち味のスケーティングを生かした演技を期待したい。

 初のメダル獲得と活躍した鈴木明子(邦和スポーツランド)も、4位と健闘した村上佳菜子(中京大中京高)も、3回転トゥループ+3回転トゥループを成功。女子トップ入りの必須要素をクリアし、今季はジャンプ力を確認できた。これからの2年間は、ジャンプ以外の持ち味を磨くことに、より集中できるステップへと歩を進めた。

高橋、羽生はアイスダンスをヒントに

日本男子初のダブル表彰台を達成した高橋大輔と羽生結弦は、ともにスケーティングの強化が好結果につながった 【坂本清】

 高橋大輔(関大大学院)は、昨年に現役続行宣言をし、ソチ五輪までの3年計画1年目。世界選手権ではショートとフリーで4回転トゥループを決め、優勝したパトリック・チャン(カナダ)に6.45点差にまで迫り銀メダル。躍進の原動力となったのは、アイスダンスコーチの下でのスケーティングの見直しだ。スケートの安定が、ジャンプの安定性にもつながった。

 長光歌子コーチは「まだ伸びしろがある。今季は4回転に頭が集中していた。普段の練習を見ている私からすれば、もっと演技や滑りを出せる。体から音が出るような滑りは、教えてもできるものではない、彼だけの感性。みんなが引き込まれるような演技へ、あと2年間でピークを持っていきます」という。

 一気にソチ五輪のメダル候補まで駆け上がったのは羽生結弦(東北高)だ。ショートは4回転トゥループ+2回転トゥループを成功しながらもルッツが1回転になる痛恨のミス。しかしフリーではジャンプはノーミスで、激しい情熱あふれる演技に会場が沸いた。高橋の振付師であるパスカーレ・カメレンゴは「ユヅほどに観客を取り込める才能がある選手なんていない」と絶賛。表現力が世界に認められた。

 羽生も昨年秋にロシアに渡り、アイスダンスコーチの元で演技やスケーティングを磨いたことが、今季の演技構成点の高さにつながっているという。「僕にとって阿部奈々美コーチはいてくれるのが当たり前の必要な存在。でも引き出しを増やすためには、海外に習いに行くこともある」とバランスを取っていく考えだ。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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