2002年のインパクトをもう一度=W杯招致アンバサダー、宮本恒靖インタビュー(前編)

宇都宮徹壱

22年に再びW杯を開催する意義とは?

宮本は、選手のステータスを改善する意味でも、再び日本にW杯を招致する意義があると語る 【宇都宮徹壱】

――大会後、ガンバ大阪の選手として、サッカー選手としての日常に戻られたわけですが、この国でW杯があったんだと実感することはありましたか?

(Jリーグを見に来る)お客さんが増えましたね。02年の4月は1万人を切る試合もあったと思いますけど、夏の試合では1万3000〜5000人位入っていたと思います。それまで全くサッカーを知らなかった人が「興味を持ちました」とか「鼻をけがしながらもマスク姿でプレーしている姿に感動しました」ということで、ガンバの試合を観に来てくれるようになって。それは大会の成果だと思っています。(関西は)どうしても阪神が強いですし、その状況は今でも続いていることですけど、ある時からサッカーの情報量も増えましたね。

――「夢をもう一度」という理由だけではないと思うのですが、22年に日本で2度目のW杯を開催する意義をいくつか挙げるとしたら、どのようにお考えですか?

 Jリーグの認知度は(以前に比べて)上がっていると思うんですね。でも、本当にサッカーが、いわゆる文化としてあるかというと、残念ながらまだない。22年に日本開催されれば、そういった部分で大きな効果を生むと思います。
 それと、サッカー選手のステータスという部分が――認知度は高いのかもしれないですけど、社会的な、いわゆる経済的に恵まれているかと言うと、まだそれほどでもない。優秀な子供たちがサッカー選手になりたいと思うときに、保護者の方々がサッカー選手にさせたいと思うかどうかは、やっぱり経済的なところがかかわってくるから、もう少し改善しなければいけないと思います。そのための議論を深めるという意味でも、22年のW杯はいいきっかけになると思います。

――確かに、そういった議論を深める契機にはなるでしょうね。一方で、スポーツをする環境面については、いかがでしょうか?

 やっぱり、サッカー専用競技場が作られないといけないと思いますね。それは観客動員にもかかわってきますし。もちろん「陸上競技もできる環境を」というのは理解はできますけど。

――確かに観客としては、専用スタジアムの方が見やすいし、ピッチとの一体感も感じるんですが、選手にとっても同じ感覚でしょうか。つまりサッカー専用の方が、よりモチベーションが高まって、いいプレーができるような雰囲気ってありますか?

 もちろん。サッカー専用のほうが、お客さんの熱さは感じられますね。陸上競技場だと「見られている感」が少ないんですよ。そこ(ピッチ)だけが隔離されているというか、ベンチからも遠いですし。僕は長い間、万博(競技場)でやっていましたけど、やっぱりホムスタ(ホームズスタジアム神戸)とか、ザルツブルクのスタジアムとか、サッカー専用のスタジアムでやっている時の方が楽しかったですね。

22年に必要なのは「ステータスのあるサッカー人」

――今、ザルツブルクの話題が出ましたが、オーストリアのクラブのスポーツをする環境は、日本と比べていかがでしたか?

(ザルツブルクの)プレシーズンの練習試合なんかで、3部や4部のチームと対戦するわけですが、遠征のバスが住宅街に入っていくと、パッと広場が出てきてスタジアムが現れるんですね。町ごとにチームがあり、サッカー専用のホームスタジアムがある。もちろん、いいスタンドを持っているクラブもあれば、そうでないクラブもあるんですけど、そういうものが地域ごとにあるんですよ。当然、地域ごとにアイデンティティーというか、強い帰属意識がある。それは全く日本では考えられないと思いました。ただ、それを知ることができたのは、今後、自分がサッカー選手のキャリアを終えた時に、何かしらサッカーに携わっていくときには有効だなと思っています。

――22年は、恐らく宮本さんは現役選手としてのキャリアを終えて、違った形でサッカーにかかわっていらっしゃると思うんですけど……

 指導者も面白そうだとは思います。でももう少し、ちょっと離れたところから、ということも考えています……。

――でも宮本さんは、中田(英寿)さんみたいに離れすぎてはいないと思いますけど

 そうですね、違うと思います。まあ彼も、いつかはサッカーの方に戻ってくるのかな、とは思っていますけど。

――02年のW杯は素晴らしいイベントでしたし、スタジアムはたくさんできたんですが、どうしても箱もの行政的なものが先行してしまい、そこに魂を入れるのに時間がかかってしまった。この次にW杯を開催するのであれば、もっとサッカーを知っている人間の意見を取り入れるべきだと私は思うんですけど、宮本さんのお考えはいかがですか?

 今はいろんなところでいろんな意思決定機関があると思うんですけど、そうじゃなくて、サッカーを知っている、サッカー文化も分かっている、ヨーロッパや南米のいろんな知識もある人がスパッと決められるようなスピード感が求められているように思います。

――つまりUEFA(欧州サッカー連盟)会長のプラティニのような……

 そうですね。なぜプラティニに発言権があるかというと、いろんな経験を積んだサッカー人のステータスがヨーロッパでは高いからですよね。まだ日本では、そうした重みはない。そこまでいくには、どれくらいかかるかは分からないですけど……。

――その意味でもぜひ、宮本さんには「日本のプラティニ」になってほしいです(笑)

 いや(笑)。まあでも、それは本当にそう思いますけどね。

<後編に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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