大リーガー・秋信守が待ちわびた日=WBC韓国代表リポート

室井昌也

秋信守と韓国を苦しめた“徹底管理”

守備に就くことが許され、ついに本来の輝きを取り戻した秋信守。決勝でも活躍が期待される 【Getty Images】

 強豪ベネズエラを破り、決勝進出を決めた韓国。韓国にとっては、快勝したことに加え、決勝戦に向けた意味のある一打があった。それは初回に飛び出した、秋信守の3ランだ。
 
 今大会、韓国代表の目玉のひとつが「チーム唯一のメジャーリーガー」秋信守だった。しかし、彼がメジャーリーガーであるために、本人、そしてチームにとって悩ましい日々が続く。それはメジャーリーグの秋信守への徹底管理だ。
 昨年、左ひじの手術を受けた秋信守に対し、所属チームのインディアンスは、東京ラウンドでは「指名打者で3試合のみ出場」と守備に就くことを認めなかった。それだけではなく、打撃練習の球数まで制限した。これには金寅植監督も「秋信守を3人の医者とトレーナーがいつも監視している。どういうことだ」と不快感をあらわにしていた。
 
 秋信守の起用制限は2次ラウンドでも続き、成績も10打数1安打と低迷する。しかし、金寅植監督は「守備をしないと打撃に影響が出る選手もいる」と秋信守をかばった。ところが、準決勝が行われる当日(22日=日本時間)、メジャーリーガーが集結するベネズエラ戦を前に「秋信守を守らせてもよい」とメジャーリーグ側から伝えられる。秋信守が待ちわびた日がやって来た。

信頼と守備を手に、決勝へ

 秋信守は試合前、ベネズエラの先発、カルロス・シルバについてこう話していた。「彼がツインズにいたときに対戦したことがある。シンカーが武器の投手で、直球は140キロ台とそんなに速くない。ボールに動きがあるのが特徴だ。低めには手を出さないで、高めに浮いたところを狙っていきたい」。
 
 1回表、四球とライトのアブレイユのエラーで無死一、二塁のチャンスをつかんだ韓国は、タイムリーとピッチャーゴロの間の得点で2点を先制。なおも1死二、三塁。打席には、6番の秋信守が入る。秋信守は初球を見送り、ストライク。続く2球目、シルバが投じた初球よりやや高めの、真ん中に入ってきたムービングファストボール。これを秋信守がとらえる。打球はセンターへと一直線に飛び、バックスクリーンへの3ラン。秋信守の狙い通りの一打で、韓国は初回に大量5点のリードをした。

 2回表には4番・金泰均にも一発が飛び出す。試合後、金泰均はこの一打についてこう話した。「(秋)信守とシルバをどう攻略するか、たくさん話した。その分析の中で、内角の直球が多いということで、それを逃さなかった」。秋信守の同級生へのアドバイスが、ダメ押し弾を呼び込んだ。

 決勝戦の相手は米国か日本。対米国となれば、秋信守のメジャー経験がチームに役立つ。そして対日本ならば、1次ラウンド・順位決定戦(9日=同)では出場制限により対戦できなかった岩隈との顔合わせが待っている。
「ここまでつらかった。しかし、つらい時も信じてくれた首脳陣とチームメイトに感謝している」と話す秋信守。秋信守が信頼と守備を手にしたことで、韓国は決勝戦に向けての態勢が完全に整った。

<了>
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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