エールディビジに蔓延するクラブ格差=オランダサッカー

中田徹

低迷する本命、躍進する伏兵

首位を独走するAZと優勝候補の本命PSVの対戦は2−2のドローに終わった 【Photo:PICS UNITED/アフロ】

 今季のエールディビジは、第23節を終えて「トラディショナル・ビッグ3」と呼ばれるアヤックス(3位)、PSV(4位)、フェイエノールト(12位)の不振に対し、サブトップを形成するAZ(首位)、トゥエンテ(2位)、ヘーレンフェーン(5位)、フローニンゲン(6位)の元気の良さが目立つ。

 2月14日のPSV対AZは2−2の引き分けに終わったが、ホームのPSVは選手、観客、さらにスチュワードまで大喜び。一方、AZは2−0のリードを守り切れず、ファン・ハール監督も「とてもがっかり」とため息をもらした。これではどちらが格上のチームなのか、もう分からない。アヤックスは今年に入ってフローニンゲン、ヘーレンフェーン相手に0−1と連敗したのが響き、ほぼ優勝争いから脱落した。
 そんなわけで、今季のエールディビジは1980−81シーズンのAZ以来、久しぶりにサブトップのチームからチャンピオンが生まれる可能性が高い。

 今季、AZ、ヘーレンフェーン、トゥエンテの年間予算は偶然にも2800万ユーロ(約32億円)で並ぶ。この予算はアヤックスの6500万ユーロ(約75億円)、PSVの6300万ユーロ(約73億円)、フェイエノールトの4590万ユーロ(約53億円)に次いで4番目から6番目を占める。しかし、何より特筆されるのは、その年間予算の伸び具合だ。
 5年前、AZの予算は1500万ユーロ、ヘーレンフェーンは1700万ユーロ、トゥエンテは1170万ユーロにすぎなかったが、スタジアムの新設や拡張により収容人員が飛躍的に伸びた。人気選手の獲得、充実したトレーニングスタッフ、チームの勝利・成績の上昇、熱狂する大観衆、チームの地域のシンボル化。こうしたポジティブな連鎖が起こり、スポンサーの獲得も簡単になった。

 フローニンゲンの今季の年間予算は、1670万ユーロ(約19億円)。先に挙げた3クラブに比べると見劣りするが、それでも5年前の予算がわずか800万ユーロであったのを思えばものすごい成長の勢いである。これも2006年に新スタジアム、ユーロボルフが完成したことが大きい。5年前は13位という平凡な結果に終わったフローニンゲンだが、最近3シーズンは5位、8位、7位と安定した結果を残している。

好調なオランダ北部の4クラブ

 この中堅4クラブに共通するのは、本拠地がすべてオランダ北部にあること。その最北部にあるフローニンゲンは、「トロッツ・オップ・ノールト(北部の誇り)」がチームスローガンだ。スウェーデン出身選手が多いため、「フローニンゲンはスウェーデン最南部の都市」とも言われている。

 フローニンゲンと「北部ダービー」を戦うのがヘーレンフェーンだ。4クラブの中では最も息の長いサブトップで、1999−2000シーズンにはリーグ2位になった。
 ヘーレンフェーンの本拠地フリースラント州は、独自の言語を持つ特殊な地域で、州都はレーワルデン。しかし、州都を本拠地とするカンブール・レーワルデンは2部リーグに沈み続けており、ヘーレンフェーンとは大きな実力差がある。ダービーを戦う機会もなく、サッカー界においてはヘーレンフェーンこそがフリースラントの州都として認知されている。
 フローニンゲンの近くにもフェーンダムという小クラブがあるが、やはり万年2部のクラブ。そのため近年、100キロ近くも離れたフローニンゲンとヘーレンフェーンの対戦がダービーとして認知され始めている。

 トゥエンテは名門クラブであり、地域の人気チームでもあるが、スタジアムの収容人員が1万3000人にすぎず、成長に限界があった。しかし、今季からスタジアムは2万4000人収容で、すでに3万5000人収容に拡張へと青写真ができあがっている。ライバルチームはヘラクレスだが、両チームのクラブ規模の差は大きい。
 また、AZはアムステルダムから北へ45キロほどのアルクマールにある。国土の小さなオランダでは、この距離は「離れているな」と十分感じさせるものだ。比較的近いチームとしてハーレムやテルスターがあるが、AZからすれば、ライバルとしてはまったく視野に入っていない。

 ヘーレンフェーン、フローニンゲン、トゥエンテ、AZはその地域において「1人勝ち」とも言える状況下にある。ヘーレンフェーンを除けば、過去に合併して作られたクラブだ。今季好調のユトレヒトも3つのクラブをひとつにし、ユトレヒト地域のシンボル化に成功した例である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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