エールディビジに蔓延するクラブ格差=オランダサッカー

中田徹

FCリンブルフ構想の実現へ

FCリンベルフ構想の実現を訴えるフェルホーセン 【Getty Images】

 オランダを南に下ってリンブルフ州まで行くと、そこはプロサッカークラブの過密地域となっている。北リンブルフ地域はフェンロにあるVVVのみだが、南リンブルフ州に至っては15キロから20キロの距離の中にローダJC(ケルクラーデ)、MVV(マーストリヒト)、フォルトゥナ・シタルト(シタルト)がひしめきあっている。この3つの町の人口を合わせると約20万人。周辺地域の人口を足してもそれほど大きな数字にはならないだろう。

 近年、この地域最強チームであるローダJCの凋落(ちょうらく)ぶりが目立つ。94−95シーズンは2位になり、97年、2000年にはカップ戦を制し、UEFAカップの常連でもあったローダJCだが、成績、観客動員、予算がいずれも伸び悩んでいる。
「このままでは、リンブルフ州からトップフットボールがなくなってしまう」。これがリンブルフ州の3クラブ(VVV、MVV、ローダJC)で指揮を執ったフェルホーセンの危惧(きぐ)していたことで、すでに2000年ころから「この地域のクラブを合併し、FCリンブルフを作ろう」と提唱していた。
 フェルホーセンは「あのとき、FCリンブルフ構想は議論だけだった」と語っているが、近年あまりにローダJCがさえない上、最近5年間の年間予算が横ばい(5年前が1100万ユーロ、今季は1200万ユーロ/約14億円)気味であることにさらなる危機感を覚え、来季からローダJCとフォルトゥナ・シタルトを合併させ、FCリンブルフ誕生を実現させようとしている。

 フェルホーセンは、FCリンブルフ構想を解説する。
「ローダJC、フォルトゥナ・シタルト、MVVは互いに(本拠地が)近くスポンサーが分散し、AZ、ヘーレンフェーン、トゥエンテ、フローニンゲンに比べると資金繰りが難しい状況にある。ヘーレンフェーンなどの予算は2800万ユーロ規模だが、ローダJCが1200万ユーロ、MVVが250万ユーロ(約3億円)、フォルトゥナが200万ユーロ(約2億円)で、3クラブを足しても1650万ユーロ(約19億円)にしかならない。
 今、わたしたちリンブルフの人間が議論しているのは、いかにこの予算をトゥエンテやヘーレンフェーンのレベルまで引き上げるかということだ。FCリンブルフにスポンサーを集約し、3000万ユーロ(約35億円)、できれば4000万ユーロ(約46億円)にまでして、この地域を象徴するようなサブトップのクラブ。言い換えれば“リンブルフのヘーレンフェーン”を作りたい。しかし、われわれがこの予算を達成しても、トゥエンテなどは年々予算を増やしているから大変だ。しかも今は、経済危機。予算を増やすには最悪のタイミング。でもこのままだとやがてローダJCは2部へ落ち、フォルトゥナはアマチュアに転落するだろう」

オランダサッカー協会の思惑

 MVVがFCリンブルフに参加しないのは、彼らがそれを望まないから。実際にはローダJCのファンも、フォルトゥナ・シタルトのファンも望んでいないのだが、この両チームはキャッシュフローが回らず、すでに単独での生き残りは不可能な状況に陥っている。
 リンブルフ州にはさらなる問題もある。この周囲にはベルギー(スタンダール・リエージュ、ゲンク)、ドイツ(1FCケルン、ボルシア・メンヘングラッドバッハ、アーヘン)、PSVという人気クラブがあり、リンブルフ州の住民も足しげく通っている。さらに、オランダ企業も国境を超えてそれらのチームのスポンサーになってしまう。
「その逆のパターンはないんだよ(苦笑)」とフェルホーセン。FCリンブルフには、国境を超えるファンやスポンサーを引き止めるだけの求心力が期待されているのだ。
 フェルホーセンは、こう続けた。
「スポンサーの興味を引き付けるためにも、この地域にビッグクラブを作ることは重要だ」

 KNVB(オランダサッカー協会)は、FCリンブルフ構想に大賛成だ。南リンブルフ州はプロクラブの過密地帯だが、もっと広くオランダ全体で見ても「この狭い国にプロのクラブが38もあるのは多すぎる」とKNVBは考えている。オランダは九州ほどの大きさしかないのだ。
 すでにKNVBは、万年2部クラブのひとつ、FCアイントホーフェンに来季からのアマチュア行きを勧告済み。FCリンブルフ誕生によって、フォルトゥナ・シタルトも消える可能性が大きい。

 しかし、抵抗勢力はしぶとい。トロッツ・オップ・フォルトゥナ(フォルトゥナの誇り)という団体が、「オランダ最古のプロクラブのひとつ、フォルトゥナの火を消してはならない。フォルトゥナは2度、カップ戦を制した歴史もある。ユース育成は素晴らしく、トップチームだけでなく、オランダ代表にも多くの選手(ファン・ボメルら)を供給したことを忘れてはならない。今後、フォルトゥナは単独で“2部リーグのサブトップ”を目指す」という目標を立て、スポンサー探しと募金活動をしている。しかも、それが結構順調に進んでいるのだ。
 すでにチーム間合意に達したFCリンブルフ構想だが、まだまだ実現間違いなしと言える状況ではない。今はただ、北部のサブトップ4クラブとの差が開くばかりである。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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