"レヴズコール"と"ボムスコッド"

静岡ブルーレヴズ
チーム・協会

サインの声もかき消すレヴズコール

試合後の会見。
ワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督の第一声が素晴らしかった。

「ここヤマハスタジアムに戻ってくることができて、プレーすることができて嬉しいです。ここは日本のなかでも指折りのグレートなスタジアムです。ここで試合をするときにはイベントもたくさんあって楽しい雰囲気が作られている。本当に素晴らしい」

そして指揮官は、付け加えるように言った。

「要約して言うと、レヴズのみんなはレスリングがとても好き。私たちはプレッシャーを受けて思うようにプレーできなかったし、レヴズの出来は素晴らしかった。ここにいるゲームキャプテンの(山沢)京平はきっとしゃべりたくないと思うけど、そうはいかない、しゃべらせます(笑)。さ、京平、どうぞ」


勝ったレヴズの藤井雄一郎監督は、ブレイブルーパス戦に続き、昨季のプレーオフでファイナルを戦ったリーグのツートップをともにホームで破った決め手を聞かれ「サポーターのみなさんのおかげだと思います」と答えた。

「移動がないとか、慣れているとかいうこともあるけれど、一番はファンのみなさんの後押しがあるから。何点差かで勝てたのはそのおかげだと思います」

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】


敗れた直後にこんな言葉を口にできるとは、さすが世界に知られた指揮官ロビー・ディーンズ。しかし、両指揮官の言葉を聞いて、改めて思った。このスタジアムは素晴らしい。

まず、スタジアムそのものが素晴らしい。もともとサッカー用に設計されているから、陸上トラックがなくピッチと客席が近い(でも欧州や南米のスタジアムによくある乱入帽防止の掘やネットもない)。インゴールの狭さはラグビー的にはちょっと辛いけど、観客席が近く、急角度だからファンにとっては見やすく、ファンの声が反響する。

この日、初めてヤマスタでプレーしたワイルドナイツのスーパールーキー、早大前主将の佐藤 健次は「応援の声がすごくて、ラインアウトのサインの声がかき消されるくらい。本当に全然聞こえなくて出てしまったミスもあった」と話したが、その表情は、何というか、嫌そうではなかった。

敵地とはいえ、この熱の中でプレーできたことが嬉しい――そう感じているように見えた。この日、ヤマスタの観衆は5,302人。それでも、佐藤が早明戦の4万観衆の中でも味わえなかった熱気が、ここにはある。

そんな感想を持つのはルーキー佐藤だけではない。ヤマスタの雰囲気の素晴らしさは、ブレイブルーパスのリーチマイケル、サンゴリアスの流 大といった日本ラグビーの看板プレーヤーたちも口にしていることだ。自然発生的に沸き上がる「GO!GO!レヴズ!」の大合唱。絶えず飛び続ける子どもたちの声。どれも、ヤマハ発動機ジュビロの時代から、サックスブルーのジャージーがこの地で培ってきたラグビー文化だ。

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

流れを変えたレヴズの”ボムスコッド”

もちろん、ピッチの中のパフォーマンスも素晴らしかった。

なにしろ無敗のワイルドナイツを破った試合だ。良かったところをあげはじめたらキリがない。

その中で、あえてヒーローをひとりあげるなら、プレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞した作田駿介の名をあげたい。

前半は押される場面もあったレヴズのスクラムは、後半8分に作田が入ったのを機に攻勢に転じた。作田は振り返った。

「相手の佐藤健次は自分よりも一つ学年が下だし、1年リーグワンでやってきた身として負けられない。自分はスクラムが一番の強みなので、そこでしっかりプレッシャーをかけていこうと思ったし、実際にかけられたと思います」

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

記者会見で、藤井監督は「作田は派手な選手じゃないけど努力家で、首の太さが56cmあるんです。だったら身長も3mなきゃいけない」と笑った。

ミックスゾーンで本人に聞くと、本人も苦笑した。
「去年、入部したときは48cmくらいだったんです。そこから1年、首のトレーニングを重ねて10cm近く太くなりました」

首のトレーニング法は?と訊ねると「普通に、昔からあるようなトレーニングです」と答えた。「横になって、田村コーチに頭を押さえつけてもらいながら、その頭を持ち上げるんです。うつぶせになって、仰向けになって、右を向いて、左を向いてと4方向全部、10秒間×10セットずつ、ほぼ毎日」

その結果が、成人女性のウエストを超えようかという破格の首回り56㎝だ。
「ワイシャツは店にはないです。練習着も最近、首がキツいなと感じます」

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

その成長にはフッカーの先輩にしてレヴズの看板、日野も目を見張る。

「作田はシンプルにスクラムが強いんです。首はチームで一番太いし、(リーグワンデビューとなった)昨季のワイルドナイツ戦には1番のリザーブで出ていたくらい。だから前半、僕が相手の(佐藤)ケンジの足を削れば、後半に作田が絶対に押してくれると思った」

前半はワイルドナイツがスクラムを押す場面もあった。中には「レヴズが押されるの?」と気を揉んだファンもいたかもしれない。だがそこはベテラン日野だ。押されたり、反則を取られたりしても致命傷にはならなかった。あるときは全力で押してペナルティーを奪い、時には相手に足を使わせて疲れさせる――後半の逆転劇の伏線にはそんな、陸上競技の長距離ランナーがスピードを上げ下げするような、老獪なスクラムマネジメントもあった。

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

かように、スクラム戦は奥が深い(なにしろこれに左右両サイドのプロップのストーリーも加わってくるのだ)。

「学生時代から、なんでかスクラムは好きでした」と23歳が言えば、35歳は「作田のおかげで、久しぶりにプレッシャーを感じながら練習できています。ありがたいです」と笑う。FW最前列の真ん中でチームを引っ張る笑顔のベテランと首の太いルーキーのリレーは、初のプレーオフを目指すブルーレヴズの新たな注目ポイントとして、レヴニスタの胸に刻まれたはず。

これを見たファンはきっと、またスタジアムに来たくなる。そして、スクラムに今まで以上に熱い視線をそそぐはずだ。

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

(大友信彦|静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。
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著者プロフィール

JAPAN RUGBY LEAGUE ONEに参戦している静岡ブルーレヴズ(旧:ヤマハ発動機ジュビロ)の公式アカウントです。 「静岡ブルーレヴズ/SHIZUOKA BlueRevs 」というチーム名には、変わらない為に変わり続ける、伝統を受け継ぎ、なお「革新」を恐れない精神を象徴する “Blue” と、困難な目標にワクワクして挑み、高ぶる「情熱」を象徴する “Revs”が、一体として込められています。また、ホストエリアとなる「静岡」に貢献し、愛されるチームとなるべくその名を冠しています。 いままでヤマハ発動機ジュビロとして築き上げてきた伝統や技を活かしながらも、新たな挑戦とともに静岡から、心躍る最高の感動を世界へと届けていきます。 静岡ブルーレヴズの活躍にぜひご注目ください。

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