スポーツによる“アクティブな”まちづくり最前線!風光明媚なまち倉敷市はなぜスポーツが盛んなのか?

笹川スポーツ財団
チーム・協会
笹川スポーツ財団は、「スポーツによって長くアクティブに生きられる社会」の実現に向け、調査研究活動を中心にさまざまな取り組みを行っていますが、自治体がどのようなスポーツを通じたまちづくりを実践しているのか、創意工夫されている自治体のリーダーに当財団理事長の渡邉がお話をうかがっています。今回は、岡山県倉敷市・伊東 香織市長との対談をご紹介します。
※YouTubeでも公開しています。

風光明媚なまち倉敷市はなぜスポーツが盛んなのか? 【写真:倉敷市】

瀬戸内海に面した人口約47万人の倉敷市。歴史的な景観が美しい美観地区のある倉敷地区、国内有数の規模を誇る水島コンビナートのある水島地区、鷲羽山からの景観や瀬戸内海の多島美などの眺望が美しい児島地区などがあります。

これまでの日本のスポーツ政策

渡邉理事長  市長とお目にかかったのが2012年ということなんですが、その間の日本のスポーツ政策を見渡してもいろんな動きがありました。まず、2013年にはアルゼンチンのブエノスアイレスで2020年の東京オリパラ大会が決定したんですね。そして2015年には文科省の外局としてスポーツ庁が設置されました。
そんな流れの中で東京2020大会を迎えるんですけれども、実はスポーツ界ではゴールデンスポーツイヤーズっていう言葉があったんです。

伊東市長   はい。

渡邉理事長  これは何かと言いますと、2019年のラグビーのワールドカップ、それから2020年の東京オリパラ、そして2021年は関西でワールドマスターズゲームズが予定されていたんです。ところがですね、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で(東京オリパラ)2020年は2021年になりました。ワールドマスターズゲームズもこの先の招致開催ということにまた移行しちゃったんですね。

ここでちょっと流れが途絶えてしまったんですけれども、振り返って倉敷市のここ10年くらいのですね、スポーツの振興、あるいはスポーツの振興が街づくりにどのような影響を与えてきたのか、ちょっと総括だけでもしていただけませんでしょうか。

伊東市長   倉敷の方でもスポーツの振興、また街づくり等々頑張ってきておりましたが、その間でですね、2018年(平成30年)に大変大きな西日本豪雨災害がございまして、倉敷市でも真備町で大変大きな水害がございました。多くの全国の皆様にご支援をいただきまして、何とかおかげさまで災害から6年でほとんどの多くの皆さんが家を復興されましたり、事業を復興されたりということで大きな節目を迎えることができましたこと 皆様に心から感謝を申し上げたいと思っております。

これまでの倉敷市の成果

【写真左:渡邉、右:伊東市長】

伊東市長   東京オリンピックパラリンピック2020だったですけど2021になったわけでございますが、それに向けて市でも「する 見る 支える」という大きな計画のもと、まず一つはスポーツを週一回以上「する」人口を増やしていきましょうということで、最初の計画をつくりました。

当時は30%弱ぐらいだったのですけれども、今それが40%を超えるようになりまして、それから国体に倉敷市関係選手団が何人ぐらい出ているかという目標などもつくりまして、取り組みをしてまいりました。倉敷市からもオリンピックそれからパラリンピックにはですね、選手がおかげさまで出ていただいております。

夏のオリンピックでいいますと2020東京(2021年)でも倉敷からは女子バレーボールで荒木絵里香選手、石井優希選手、それから女子のハンドボールでですね、まさに児島の角南唯さん果帆さん姉妹。それからですね、競泳女子で増田葵さんと5人 オリンピックに出られました。

祝!倉敷市職員初のパラリンピック選手

【大江佑弥選手】

伊東市長   そして2024のオリンピックパラリンピックでございますが、今回は私どものちょうど倉敷市の職員である大江佑弥選手がパラリンピックでアーチェリーの男子で国の出場枠を自力で獲得しまして、本当にすばらしい競技をしてくれまして、みんなに元気をもらったところでございます。

渡邉理事長  実は今朝ですね。大江選手にお目にかかりました。彼も星野さんと一緒で倉敷商業の野球部でレギュラーだったっていう話ですね。

伊東市長   はい、そこで脳出血ということを経験しましてですね、右半身が麻痺ということになりまして。でもそこから絶対頑張っていくぞということで、本当に倉敷市始まって以来のパラリンピック選手であり、倉敷市の市役所の職員です。窓口にも出てね、パラリンピックが近づいてきましたら、「市役所で仕事しとっていいんかな」とか、市民の方から心配されたりして、比較的直前ぐらいまで仕事もして日頃からいい青年ですし、それからパラスポーツの普及にも講演だったり、子供たちと一緒にパラスポーツの普及にも当たってくれているので、本当にありがたいなと思っております。

渡邉理事長  お話を伺ってますと、ちゃんと就業時間は市の職員として仕事をされて、終わった後に約2時間位毎日練習されていると。いい意味で障害の有無にかかわらず、彼はロールモデルでいろんな人のベンチマークになるような方でしょうから、ぜひこれから先のパラリンピックも活躍していただくと。そのベースにはやはり市の職員として倉敷市に尽力されてほしいなと改めて今日思いました。

倉敷市は国民的フィギュアスケーターの出身地

伊東市長   ありがとうございます。それからスケートでも、フィギュアスケートで高橋大輔選手、それから田中刑事選手、二人とも倉敷市出身で倉敷市内のスケートリンクで育ってそれぞれオリンピック出場。メダルをとられたり、入賞されたりということで頑張っていただいております。

競技力向上に貢献する「桃太郎カップ」

【桃太郎カップ】

伊東市長   もう一つ 倉敷市独自ですごく力を入れておりますのが日本水泳連盟さんと一緒になりまして、水球のユース世代の競技育成を図っていくということで、「桃太郎カップ」という男子女子の水球の全国大会を毎年開催させていただいております。ここからはこれまで申し上げましたオリンピックにも全日本のチームとして、この桃太郎カップ出身の選手がたくさん出ていらっしゃいます。

渡邉理事長  水球も最近は競技力が随分向上して、世界と対峙できるところまできたらしいですね。

伊東市長   そうなんです。うちが桃太郎カップを始めましたのが平成20年でございます。この十何年でぐっと日本が強くなったと言っていただいておりまして、これからも頑張っていこうと思っております。

渡邉理事長  やっぱりオリンピックパラリンピックもそうですし、先ほど星野さんとか松岡さんとかプロ野球選手の名前が出ましたけれども、ああいった一流アスリートが出てくると、また子供たちの励みにもなりますよね。

レジェンドが集まるマスカットスタジアム

【レジェンドが集まるマスカットスタジアム】

伊東市長   そうですね。それで先日倉敷市の倉敷マスカットスタジアムというプロ野球の試合をしていただけるスタジアムがあるんですけれども、そこで原辰徳先生をはじめといたしまして、10人近く来てくださいまして、倉敷市内の少年野球の子供たちに指導をしていただきました。その時 原監督がおっしゃっていたんです。「ここは星野監督のところなので、自分たちも星野監督が見ていらっしゃるので、しっかり子供たちを指導して頑張ります」と。本当に大変いろんな流れが先輩方から来ているので、ありがたく思っております。

倉敷市スポーツ基本計画

――倉敷市では、2011年にスポーツに関する計画を策定。2011年から2020年、そして2021年から2030年という形で現在第2期を迎えています。

渡邉理事長  それではここからは、これからのスポーツによるまちづくりの基本になる「倉敷市スポーツ基本計画第2期版」、この概要をもとに市長からお話を伺っていきたいと思います。

伊東市長   これは第1期の計画からそうなんですけれども、「非常にスポーツが競技スポーツとして得意な方」、それから「日ごろから健康のためにスポーツに取り組んでみたい方」、でも「なかなか自分は難しいけど見たり応援したりして支えていきたい方」、それから「支えるみなさん達」ですね、このみんなが一緒になって進めるというのが最も大事だと、特にこの1期から2期にかけて思っております。

スポーツ環境の整備

【スポーツ環境の整備】

――倉敷市では市民の心身の健全な発達を図ることを目指し、平成30年度から水島緑地福田公園の再整備に着手。身近なスポーツ環境の整備充実に取り組んでいます。

伊東市長   倉敷市のこれまでのスポーツ施設の老朽化をしたもの、それから今の時代に合ったものをつくるという時に、倉敷市で一番最大の「水島緑地福田公園」では、例えばサッカーもグラウンドゴルフもゲートボールもラグビーもできるような多目的の大変広い約2ヘクタールの人工芝のこの競技場を一つ。それから同じ2ヘクタールの自然の天然芝の競技場を一つという形で、その一つの施設の中にいろいろなスポーツがそこで対応できるという形にするように場所を整えることで、いろいろな競技の皆さんにも使っていただけるようにしております。

市としての場所の環境の整備ということにも力を入れておりますし、またそれ以外にやはり年長の皆さんが非常に今グラウンドゴルフの人口も多いということがございまして、市で専用のグラウンドゴルフ場をこれは1ヘクタールなんですけれども、一つ設けまして。そこもすごく皆さんに使っていただいておりまして、年配の方を元に若い方も使っていただいた。

今、年会費の年間の会員制度をつくったり、いろんなスポーツに触れていただけるような環境の整備や、市の水泳の水泳場も非常にちょっと年数も経ってきましたので、それも今建てかえをするということで取り組みをしております。

やっぱりこれからの健康長寿社会で皆さんがこのスポーツをしていただけるのと、それから競技が発展していくような部分と両方に観点を置いた整備をしているということがございます。

渡邉理事長  環境整備は本当に大事ですよね。芝生があると気持ちが全然変わるんですよね。同じスポーツをやるのでも。

伊東市長   ちょっと違うですよね。

渡邉理事長  いろいろな動きを覚えるためにも芝生ってすごく大事ですね。

伊東市長  実は倉敷市でも小学校の校庭でなかなか全面はちょっと難しいんですけれども、フィールドの外側の部分で芝生を地域の方たちと一緒に植えて、そこで子供たちが裸足で遊んだりすると。風邪をひきにくくなったり、土踏まずが発達しやすいとかいろいろ健康にもいい面がございます。

渡邉理事長  あと市長のお話を聞いていて思ったのは、世代間交流ができる環境が整いつつあるかなと。若い人も参加するっていうお話があったと思うんですけど。

伊東市長   そうですね。

ボートレース児島

【ボートレース児島】

――倉敷市では、老朽化した児島ボートレース場の改修工事を始めています。高潮被害が発生した際、周辺住民らの避難場所として活用できるようにするなど、地域の人が交流できる施設を目指し、約166億円をかけて改修します。

渡邉理事長  今日は市長と私の対談の間に3つのアイテムがあるんですけど、まずこの真ん中ですね。これは一体何のキャラクターでしょうか?

伊東市長   これは私どもの児島ボートレース場が誇るマスコットキャラクター「ガァ~コちゃん」です。

渡邉理事長  私も実は笹川スポーツ財団のボートレース業界の一員なんですけれども。

伊東市長   ありがとうございます。

渡邉理事長  倉敷におけますボートレースの存在。これはいろいろな価値をたぶん見出されていると思うのですが、市長からご覧になってどのような価値を見出されているんでしょう?

伊東市長   一つはやはりボートレースが児島にあることによってですね、本当に多くのボートファンの皆さん、現場に行って選手を応援したいという方もいらっしゃるので、レースの時に応援に来られる方もそのボートツーリズムじゃないですけど、それはもちろんございます。それからボートレースはその収益金の中から、地域の私ども自治体に対する財政の大きな運営の支援をしていただいているということで大変ありがたく思っておりますし、またボートレース自体からこの社会に対する笹川財団さんを通じてのさまざまな社会貢献というところ、それを我々のボートレースが一回1億として担っているということは大変本当に素晴らしいなというふうに思っております。

渡邉理事長  今日、ちょっとボートレース場に行ってきたんですが、今度施設改善も控えているらしいですね。

伊東市長   はい。 今まで以上に友達同士、家族子供さんから大人の方まで、それからスポーツなんかもできるようなところも設置いたしましたし、海の目の前にありますので、防災の観点では地域の皆さんがいざという時にボートレース場に逃げていただけるような場所もつくってまいりました。地域の皆さんから頼りにされる、そういう場所になるようにしていきたいと思っております。

スポーツを通じた地域社会の活性化

【瀬戸内倉敷ツーデーマーチ】

――倉敷市では、スポーツイベントと観光や文化などを融合させたスポーツツーリズムにも力を入れています。

伊東市長   倉敷市の最大のスポーツイベントというのが毎年3月に行っております「瀬戸内倉敷ツーデーマーチ」というイベントでございます。これは天候とかにもよりますけれども、約1万8000人とか1万人近くの方が参加をしていただいて、ずっと最短美観地区まで歩く何キロから40キロまで複数のコースをみんなで歩くわけです。所々でその地域の方が、コロナの時は難しかったんですけど豚汁を振る舞っていただいたり、甘酒を振る舞っていただいたりということもあったり、そこで写真を撮って写真のコンテストもしたりっていうことなどを行いました。やっぱり多くの方ができるスポーツというのは歩くウオーキングだと思いますので、そこからまず入って、健康になっていただこうということで、倉敷ではこの瀬戸内倉敷ツーデーマーチを37回続けております。

スポーツに「取り組む 携わる 応援する」

【伊東市長】

渡邉理事長  最後になりますけれども、市民の皆様に対してこれからのまちづくりにおけるスポーツの役割、市長の思いを一言いただけませんでしょうか。

伊東市長   はい。倉敷市では子育てするなら倉敷でというまちづくり。それから素晴らしいいろいろな特色がある地域やまた産業があります。皆さんが住みやすく働いていただきやすいまち、そして健康長寿のまちづくりを目指しております。この中で大きく根底に流れているのは、これからの健康長寿社会、スポーツに「取り組む 携わる 応援する」こういうところについて、私たちもスポーツ財団の皆さんと一緒になって頑張っていきたいと思っております。

渡邉理事長  はい、長時間に渡りまして市長から貴重なお話を伺うことができました。

伊東市長   どうもありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

渡邉理事長  よろしくお願いします。ありがとうございました。

伊東市長   ありがとうございます。
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著者プロフィール

笹川スポーツ財団は、「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進するスポーツ専門のシンクタンクです。スポーツに関する研究調査、データの収集・分析・発信や、国・自治体のスポーツ政策に対する提言策定を行い、「誰でも・どこでも・いつまでも」スポーツに親しむことができる社会づくりを目指しています。

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