マンC入り早大生・大山笑美#3 英国サッカーデビューを果たした覚悟
「ミデマー、一番プレーが合います」 英国デビュー果たした大山が覚悟語る「まずは試合に出るところから」
そんな大山がここ1年間、課題視していることがある。「ディフェンス力」と「持久力」だ。
もうコンディションは万全のように見えたが、課題はそのおよそ1カ月後に露呈した。
「日本でやっている分にはブランクを感じなかったんですけど、2月のアジア予選(AFC U20女子アジアカップ2024)で海外選手を相手にした時に、90分間自分の体力が保てていないことに気付いて。ずっと守備は苦手でしたし、メニーナ時代にはあまり守備をやる機会がなくて目を背けていたんです。この大会で、守備を頑張らないとボランチとしてやっていけない、ということを痛感しましたね」。
本大会までの期間は半年。シーズンも始まるが、一度感じた課題を放ってはおけなかった。体幹や身体操作に加え、持久力を高めるためのバイクやラントレーニング、高地でのプレーに照準を合わせた低酸素トレーニングまで。試合当日も体が重く、成果が出ない日には涙を流すこともあるほど、自らを追い込んだという。
とはいえ大山は、ただがむしゃらに体を強くしようとしたのではない。「自分は強さやアジリティに自信を持っているタイプではないので。頭を使って足りない部分を補って守備ができるように、練習の中で試行錯誤し続けたのが一番大きかったですね」。フィジカルな選手になろうとするのではなく、頭で戦う選手として必要なフィジカルを求めた、というイメージだろう。
半年間の“修行”を終えた大山は、本大会でその努力の成果を存分に発揮した。ハイライトに残るのは、大山の代名詞とも言える鋭い縦パスやミドルシュートばかり。それでもボールを触っていない時、そして守備時にも多くの好プレーがあったことは、大山の中で確かな手ごたえとして記憶された。そしてその手ごたえは、本人の内にとどまらなかった。大会終了後、海を越えてマンチェスターから代理人に連絡が届く。あとは前述の通り。今に至る、という訳だ。
クラブに日本人の先輩がいることも、安心材料の一つとなっているかもしれない。「(元ベレーザの日本人選手たちとは)考えが似ているんですよね。練習でも同じチームになれると楽しいです」。ピッチ外でも色々と世話になっていると話すが、アスリートとして、サッカー選手として目指すべき選手が同じクラブにいるのは心強いだろう。
そんな日本人選手たちの中でも、チームの戦術の核として活躍するのがMF長谷川唯だ。大山と同じボランチやアンカーの位置でプレーし、日本代表でも司令塔としてチームを牽引している。「チームメイトとして身近でプレーして、練習中にマッチアップすることも多いですけど、やっぱり上手いです。目標とすべき選手だと思いますし、唯さんはもう1個前のポジションでもプレーできると思うので、自分が頑張って一緒に試合に出られたらと思ってます」。
そしてもう一人。「ミデマ―、一番プレーが合います」。昨年夏、アーセナルから移籍したオランダ人FWフィフィアネ・ミデマーのことだ。スーパーリーグの歴代最多得点記録保持者であり、女子サッカー界では知らぬ者のいない、文句なしのスーパースターである。「自分が欲しいタイミングでパスを出してくれるし、自分が欲しいところにいてくれる。背が高いだけじゃなくちゃんと技術もあって、一緒にやっていて楽しい選手ですね」。いつか近いうちに、「ミデマ―とのホットライン形成!」なんてことにもなるのでは、と妄想は膨らむばかりだ。
タイトルへの意識を尋ねると、「もちろん取りたいですけど、まずは試合に出るところからだと思うので。自分のプレーを皆に知ってもらって、周りのプレーを自分が知って、監督たちだけでなく周りの選手にも信頼してもらうこと。シーズンは半分ほど残っているので、今季はチームの結果どうこうよりは、自分ができる限り多くのチャンスを得られるように頑張っていきたい」と謙虚に語った。
取材の最後に、日本でサインをもらっておけばよかった、と愚かしくも嘆く筆者に、大山は笑って言ってくれた。「また、東伏見に行きますよ」。これから世界を舞台に戦っていく大山の胸には、エンジのユニフォームを纏い戦った2年間が確かに刻まれている。
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