「もう一度、甲子園を目指せます」。埼玉大・山中達也学生委員長が準硬式を推す理由
高校野球を引退した時、そう思った選手はどれだけいるだろうか。
怪我で思うようにプレーできなかった者、あと一歩のところで敗れた者、スタンドで仲間を見送った者。高校野球には「最後の夏」がある。甲子園という舞台を夢見て戦い、勝ち取った者は歓喜し、届かなかった者は涙を流す。そして、多くの選手が卒業とともに、野球人生に区切りをつける。
しかし、もし「もう一度甲子園を目指せる道」があるとしたら?
それが、準硬式野球だ。
全国約1万人の大学生がプレーする準硬式野球は、
毎年秋に「全日本大学準硬式野球東西対抗日本一決定戦」という全国大会がある。
過去3年、この大会が甲子園球場で開催されている。
「高校時代に果たせなかった甲子園への夢を、大学で叶えられる。そんな場所があることを、もっと多くの人に知ってほしい」
そう語るのは、関東学生準硬式野球連盟の学生委員長を務める埼玉大・山中達也(新4年=県川越)だ。
山中自身も、甲子園は夢の舞台で終わった。
本気で夢を追いかける野球に区切りをつけたが、高校の先輩が教員免許取得と両立して
準硬式野球をしている姿を見て「もう一度野球をやりたい」という思いで、準硬式野球を選んだ。
「準硬式は、ただの『第二の選択肢』じゃないことを言いたいです。ここにはもう一度夢を追いかけられる場所があります。
そして、学生委員という仕事には誰よりもやりがいを感じています」
「用意された舞台」と「自分たちで作る舞台」
大会が整備され、運営も全て用意されている。選手たちはその中でプレーに集中し、力を発揮する。甲子園を目指す。
しかし、準硬式野球は違う。
「ここは『自分たちで力を発揮する場を作る』という言い方が解りやすいと思います。試合をするために球場を確保し、スポンサーを募り、大会の運営を計画し、SNSで情報を発信しながら、リーグを成立させます。試合をやるために、まず球場探しから動くのです。私のような選手兼任で学生委員をしている学生も多く、プレーしながら運営の役割も担うところに、準硬式の面白さがあります」
今年は初の合同チームが参加。「新入生へのアピールをつなげたい」
大会史上初めて合同チームの参加が認められた。
「茨城大学は部員不足でリーグ戦に出られない予定でした。そこを、帝京大学宇都宮、横浜薬科大と組んで、出場できるようにしたんです。部員数が少なくても、工夫すれば戦うことができる。横浜薬科大学のように、6年制の薬学部で部員確保が難しいチームでも、準硬式なら活動を続けられる道があるということを3月にアピールしたかった。新入部員勧誘にも影響しますから」
山中委員長は今年、情報発信の課題も徹底的に挑むつもりだ。
「連盟の公式インスタグラムのエンゲージメントを見ても、伸び悩んでいると実感します。準硬式がまだまだ知られていないんだと思います。例えば『大学 野球 進路』で検索しても、準硬式がヒットしない。当たり前のように『準硬式』というワードが出てこないと、情報が高校生に届かない」
関東連盟では2024年から、選手たちのストーリーを伝えるためにアメブロを立ち上げた。トレーナーの密着記事や、選手の経験談を発信し、準硬式の魅力を伝える試みを続けている。筆者はもちろん学生たち。準硬式が、もう一度夢を追いかけることができる場所。高校で果たせなかった想いを叶える場所、選手でなくても企画運営として自己スキルを上げることができる場所であると伝え続けている。
2月には栃木のラジオ番組に生出演するなど、学生委員とともに積極的にPR活動を行う山中委員長。
「準硬式という選択」を新入生たちに届けたい。2月、3月が最も大事な時期だからだ。
自分が良いと思っているこの大学野球を、準硬式を、もっともっと広く伝えるためにー。
熱く強い思いが、行動の原動力になっている。
(写真・文/樫本ゆき)
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