研ぎ澄まされていく機能美

静岡ブルーレヴズ
チーム・協会

ブルーレヴズの原点

強いものは美しい。
そう思わせる試合だった。
美しい、理にかなったフォルムが最も大きな力を発揮する。

そう、レヴズのスクラムは美しい。

リーグワン第8節のヴェルブリッツ戦は、その原点を思い出させてくれた。

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

5勝2敗で迎えた”東海ダービー”

この試合、静岡ブルーレヴズは最高のスタートダッシュを見せた。

キックオフからの相手蹴り返しを捕ったFB山口楓斗のカウンターアタックからレヴズは徹底してボールを継続。まるまる2分、17フェイズを重ねた末にSOサム・グリーンがゴールポスト真下にトライ。

グリーンがコンバージョンを決め7点を先制すると、8分には相手陣22m線のスクラムからFWで攻め、SH北村瞬太郎がトライ。

試合開始から10分も経たないうちに14-0と大きくリードを奪うのだ。

サム・グリーンによる先制トライ 【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

しかし、リーグワンの試合は一筋縄ではいかない。

ヴェルブリッツはそこからじわじわと反撃。18分にPG、20分には相手陣のアタックでインターセプトを許しトライを返される。20分過ぎには相手陣ゴール前でラインアウトのトライチャンスを得るがこれを2連続でロスト。

ヴェルブリッツの両ロックはリーグワン最長身の身長208cm、スコットランド代表79キャップを誇るリッチー・グレイと同200cmのジョシュ・ディクソン。レヴズもチーム最長身202cmのジャック・ライトと198cmのマリー・ダグラスを軸に対抗するが、絶対的な高さのプレッシャーはレヴズFW陣に重くのしかかった。

ラスト20分。勝負を決めたのは…

前半は14-10の4点差。さらに後半早々にPGを返され14-13の1点差に迫られる。

44分にようやくラインアウトモールで日野剛志がトライを決めるが、ヴェルブリッツも53分にPGを返し19-16の3点差。

そして迎えたラスト20分。どちらに転ぶか分からない試合の帰趨を決めたのが、冒頭で紹介したレヴズの看板「美しいスクラム」を支えるFW陣だった。

61分、WTBマロ・ツイタマのインターセプトとSO家村健太のロングキックでゴール前に攻め込むと、ラインアウトからのモールで交替出場したHO作田駿介がトライ。

HO作田 駿介のキャリア初トライ 【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

70分には相手ボールのスクラムを猛烈に押して相手の球出しを狂わせ、途中出場のLO大戸裕矢がターンオーバー。拾ったFLヴェティ・トゥポウがゴール前までボールを持ち込み、LOライトがトライ!
残り10分で17点差をつけ、勝負を決めたのだ。

最終スコアは33-23。

勝因はスクラムの圧勝――

言葉にすれば簡単だが、そのプレー、力学は複雑にして繊細だ。
スクラムの中の攻防は、外から見る者には窺い知れない。

しかし、細かい事情に疎くても直感的に分かるのがその美しさだ。

レヴズのスクラムは、構えたときから美しい。相手と向き合うフロントロートリオの肩の線から、最後尾となるNo8マルジーン・イラウア(交代後はFLから回ったクワッガ・スミス)のかかとまでが、凹凸のなく、美しい流線を描いている。スクラムを組む8人のすべての力がひとつに塊り、無駄に逃げていないことは一目瞭然だ。

まるでひとつの生き物のように相手に襲い掛かる 【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

特筆したいのは、メンバーが替わってもスクラム全体の姿が変わらないことだ。

先発のトリオの身長/体重を記すと
①山下憲太が177/112
②日野剛志が172/93
③伊藤平一郎が175/106

体格は概ね似ている。

しかし後半出場の第2セットは
⑰河田和大172/103
⑯作田陽介175/108
⑱ショーン・ヴェーテー190/146
と、体格に差がある。

見るからに体のサイズは違うのだが、いざスクラムの姿勢を取ると、190㎝146㎏というヴェーテーの巨体が「スクラム」にみごとなまでに収斂してしまうのだ。そのさまは、もはやひとつの生き物のようだ。

河田 和大(中央)とショーン・ヴェーテー(右) 【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

戦いながら磨かれる輝き

試合後の会見で藤井雄一郎監督はスクラムについてこう言った。

「前半に出た選手がジャブを与え続けて、後半の3人がドミネート(制圧)できた。試合ごとにスクラムはよくなっていると思う」

HO日野は「スクラムは我々の柱なので、もっと磨いていきたい」と胸を張った。

今季のレヴズは、ヴェルブリッツ戦の前後半のスクラムを支えた2セットがそろって活躍したように、フロントローの層が厚くなっている。

【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

この日先発した山下憲太/日野剛志/伊藤平一郎、後半の河田和大/作田陽介/ショーン・ヴェーテーの2セットに加え、この日は出番のなかった茂原隆由/リッチモンド・トンガタマ/郭玟慶というセットも控えている。

1番から3番まで、スクラムの最前列を支える3つのポジションすべてで3人の選手をローテーションし、満遍なく経験値を高めながら戦闘能力を高めてゆく。いまだその過程でありながら、美しいスクラムが対戦相手を制圧する。

無論、スクラムを後ろから押すFW第2列、第3列の選手も顔ぶれを変えながら成長を続けている。

FW第2列、第3列もひとつになる 【Photo by SHIZUOKA Bluerevs/Yuuri Tanimoto】

完成形はまだ見えない。

そして完成形もおそらくひとつではない。

シーズンの最後に、ベストのセットがどんな顔ぶれになっているかはまだ見えないし、複数のセット、その中でも複数の組み合わせがオプションとして残る可能性もある。

それでいて、メンバーが替わっても「レヴズのスクラム」は同じように見えるだろうとも思う。美しさ=強さの追求は、メンバーのオプションも無限にあるからなおさら終わりはない。

僕らは、その進化の道筋を現在進行形で目撃する幸せに恵まれているのだ。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。

3/2はヤマハスタジアムで三重ホンダヒートを迎え撃つ 【(C)JRLO】

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著者プロフィール

JAPAN RUGBY LEAGUE ONEに参戦している静岡ブルーレヴズ(旧:ヤマハ発動機ジュビロ)の公式アカウントです。 「静岡ブルーレヴズ/SHIZUOKA BlueRevs 」というチーム名には、変わらない為に変わり続ける、伝統を受け継ぎ、なお「革新」を恐れない精神を象徴する “Blue” と、困難な目標にワクワクして挑み、高ぶる「情熱」を象徴する “Revs”が、一体として込められています。また、ホストエリアとなる「静岡」に貢献し、愛されるチームとなるべくその名を冠しています。 いままでヤマハ発動機ジュビロとして築き上げてきた伝統や技を活かしながらも、新たな挑戦とともに静岡から、心躍る最高の感動を世界へと届けていきます。 静岡ブルーレヴズの活躍にぜひご注目ください。

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