大けがを繰り返して芽生えた思い。“託す”者、“託された”者の重みを知る不屈の男
「たぶん、4回もやってプレーし続けているリーグワンの選手はいないのではないかと思います」
左右のひざに目をやりながらそう話したのは、齊藤剛希だ。前節、リーグワン初出場を果たした31歳は左のひざを3度、右のひざを1度、合計4度の前十字靭帯断裂を経験している。
「けがをするたびに心が折れそうになって、泣いたこともありました」
負傷から競技復帰まで約1年を要する大けが、それを4度も味わっている。しかし、けがをしたからこそ見えたものもある。
「自分は高校、大学と試合に出続けていたほうで、大学4年生のときや社会人になって大けがをして、そこでようやく試合に出られない選手の気持ちが分かったというか。試合に出ているメンバーはそういった人たちの思いを背負って試合に出ないといけないとリハビリ期間で本当に思いました」
そこで芽生えた思いは齊藤の行動を変えていく。試合には出られなくてもチームのためにできることがあると信じた。
「けがで心折れてしまって自暴自棄になってチームに悪影響をもたらしてしまうくらいなら、そもそもラグビー選手としてというより人としてダメな気がしました。大けがをしても頑張る姿や一生懸命にやる姿は絶対に大事だと思ってリハビリをこなしていました」
前節の日野レッドドルフィンズ戦、リーグワンで初めてメンバー入りした齊藤は試合前の円陣でチームメートにあることを伝えた。これまでは託す側でしかなかった齊藤が託される側になったからこそ、伝えたい思いだった。
「けがをして悔しい気持ちを自分は何度も味わってきたけど、それはけがをした選手みんなが同じ思いだと思う。その人たちが試合に出られなくて抱いている悔しい気持ちを少しでも『俺も頑張ろう』という思いにさせる責任が試合に出るメンバーにはある」
試合に出られる喜びがあるからこそ、齊藤は武者震いが止まらない。チームへの思いの強さは増すばかりだ。
「チームに貢献したいという気持ちは、リハビリをしているときもずっと思っていたこと。試合に出たことでチームに貢献して、このチームをディビジョン1に押し上げたいという気持ちがますます強くなりました」
託す側の思いと託される側の責任。その重みを誰よりも知る不屈の男はこのチームのために全身全霊を尽くす。
(杉山文宣)
※リンク先は外部サイトの場合があります
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ