【第108回日本選手権室内】2日目ハイライト

日本陸上競技連盟
チーム・協会
第108回日本陸上競技選手権大会・室内競技(以下、日本選手権室内)は、2月2日、2025日本室内陸上競技大阪大会(以下、日本室内大阪大会)との併催で、大阪城ホールにおいて2日目の競技を行いました。日本選手権では8種目の決勝が、日本室内大阪大会ではU20カテゴリの6種目で決勝が行われ、各種目で激戦が繰り広げられました。

男子60mは高校生・西岡が6秒59で初優勝。女子は鶴田が終盤抜けだし2連勝

【フォート・キシモト】

日本選手権室内男子60mでは、高校生チャンピオンが誕生しました。予選から全体トップタイムとなる6秒62をマークし、好調を印象づけていた西岡尚輝選手(東海大仰星高)が、決勝でも序盤からわずかにリードを奪うと、終盤を持ち味とする年配選手たちの追い上げを許さず、フィニッシュラインを駆け抜けたのです。速報で止まったフィニッシュタイマーの数字は「6.60」。この種目のU20日本記録は、桐生祥秀選手(日本生命)が洛南高時代の2014年にマークした6秒59ということで、会場に居合わせた人々みんなが、正式記録の発表を待つ形になりました。少しの時間を置いて会場の電光掲示板に表示された記録は、6秒59。U20日本タイ記録の誕生です。今大会の新記録誕生のアナウンスは、2日間にわたって行われた全35種目のうち、最後のレースで実現する結果となりました。
レースを終えての心境を尋ねると、まず「シニア(のレースは昨年のヨギボーチャレンジに続いて)2度目という舞台で、自分よりも実力が上の方がいるなか、しっかり勝ちきれたことはとても自信になった」と答えた西岡選手。「予選はスタートがうまくいかなかった部分があったので、決勝は、そこを修正し、最後まで焦らずに自分の走りをすることを目標にした。それができたのがよかったと思う」とレースを振り返りました。
タイムについては、「この大会に出るまでは、とりあえず“6”(6秒6台)は出したいなと思っていた」そう。U20日本記録が桐生選手の持つ6秒59であるのは認識していたと言いますが、この記録に並んだことに対して、「(速報で止まった6秒)60でも驚いていたし、この大会は“とにかく勝ちきりたい”というのが一番の思いだったので、それができたうえに、さらに(6秒)59というタイムがついてきて、本当に嬉しいのひと言」と話し、「桐生さんは100mで10秒01という自分よりも0.1秒も速い記録(高校記録)を出している人。室内で、60mではあるけれど、少しは近づけたのかな」と、高校最後のレースを、素晴しい結果で締めくくったことを喜びました。春からは筑波大に進学して競技を続けます。大学では、「自分は、中盤が持ち味。まずは、自分の武器である前半から中盤の部分をしっかり鍛えてから、後半のまとめ方を身につけていこうと思っている」と言う西岡選手。2025年シーズンの目標を問われると、「昨年、初めて世界(U20世界選手権、5位)を経験したことで、もう一度、出たいなという思いが強くなった」と述べ、自国で開催される東京世界選手権について「まだまだ難しいかもしれないが、狙えるのなら狙っていきたい」と意欲を見せるとともに、タイムは「10秒0を狙っていきたい」と頼もしい言葉を聞かせてくれました。

【フォート・キシモト】

女子60mは、鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)が、持ち味の終盤で前を行く選手をかわして7秒42でフィニッシュ。2連覇を達成しました。今年、東京世界選手権に200mでの出場を目指している鶴田選手は、このあとニュージーランドとオーストラリアでの屋外200mのレースを予定しています。今大会を振り返って、「予選はなかなかトップスピードに上げられなかったけれど、決勝では少し(トップスピードに)近づけたかな、という感じ。60mをしっかり走り抜くようなレースができた」と評価。「これをうまく200mのコーナー(の走り)につなげられたら…」と、本格的に始まる屋外レースへの思いを口にしました。

男女走幅跳は、津波と竹内がともに連覇

【フォート・キシモト】

男子走幅跳では、東京オリンピック代表で前回覇者の津波響樹選手(大塚製薬)と、三段跳17m00・走幅跳8m05(ともに2021年)の自己記録を持つ伊藤陸選手(スズキ)がスリリングな勝負を繰り広げました。1回目の試技で7m91の跳躍を残して、リードを奪ったのは伊藤選手。2・3回目はファウルとなったものの、助走スピードや踏み切りの力強さに好調が感じられ、4回目の試技では再び7m91をマークします。一方、1回目を7m68でスタートした津波選手は、2回目に7m76を跳ぶと、3回目で 7m83へと、徐々に記録を伸ばしていく展開。4回目は、7m80と記録は伸ばせなかったものの、ファウルのない安定した跳躍を残して、最終試技を迎えることになりました(今大会は全5回の試技で実施)。ここで、先にピットに立った津波選手が、ダイナミックな跳躍で8m付近に着地。7m98という記録での逆転劇に会場がどよめき、最終跳躍者の伊藤選手が再逆転するかどうかに熱い視線が寄せられることになりました。その伊藤選手も見事な跳躍を披露し、勝負の行方は記録が出るまでわからない状態に。発表された記録は7m92で、記録は伸ばしたものの、伊藤選手の再逆転はならず。津波選手の連覇が決まりました。
「1本目で伊藤が(7m)91を出して、“強えな”(笑)と思ったけれど、もともとポテンシャルのある子だし、自分も初戦で少しずつ感覚がつかめたらいいなと思っていたので、焦らずに行こうという気持ちだった。ファウルもないし、記録を徐々に上げていくことができたのでよかったかなと思う」と津波選手は、まずまずといった様子。その一方で、「欲を言うなら、(7m)98を1本目から出していけるようにならないと…。そのラインが、世界陸上やオリンピックの決勝に行くか行かないかになってくる。やっぱり(最初の)3本以内にあれを出さなきゃいけないと思う」という反省も口にしました。この冬は、ケガもなく順調にトレーニングを積むことができているといいます。東京オリンピックに出場したあとは代表入りを逃しており、「パリ(オリンピック)も橋岡(優輝、富士通)一人で行かせてしまった。(世界大会は)一緒に出ている選手がいるかどうかで全然違うと思うので…」と言う津波選手は、もちろん、東京で開催される秋の世界選手権への“復帰”を狙っています。久しぶりとなる世界大会出場に向けて、このあとニュージーランドで2戦したのち、いったん短い鍛錬期を挟んで、オーストラリアでシーズンインを迎える予定です。
津波選手に逆転を喫した伊藤選手ですが、2022年以降、度重なる故障の影響で思うような結果が残せないことが続いてきた経過を考えると、上々の滑りだしといえるでしょう。「やっと昨シーズンが終わったあたりから、ちゃんと練習を積むことができるようになった」そうで、この試合に向けても、「どのくらい跳べるかは正直わからず、“1本跳んだらところで、ある程度の記録は安定するだろうな”と思っていた」と言います。そんななか、一発目から昨年のシーズンベストに並ぶ7m91をマークできたことで、「安心する思いがあった」そう。「ただ、細かいところを見ると、気になるところはいっぱいあるし、修正ができる身体には仕上がっていないので、できる範囲で頑張っていったという感じ」と、5回の試技を振り返りました。
走幅跳である程度の結果を残せる目処は立ったようですが、三段跳にも取り組んでいくのかどうかは、まだ迷いがあるといいます。「一番いいのは両方やれることだけど、周りの人にも相談しながら、無理をしないようにしたい」と伊藤選手。「ケガ明けで記録がないので、海外に行くのは難しい」ということで、今季序盤は国内大会でのスタートとなりそう。「走幅跳であれば、国内でも良い試合ができるので、そこで記録を出していきたい。ある程度、記録が揃って、日本選手権後に(海外の競技会へ)挑戦していけるようなら世陸も見えてくるのかなと思っている。まずはシーズンに向けて、今回見つかった課題にしっかり取り組んでいきたい」と前を見据えていました。

【フォート・キシモト】


女子走幅跳は、竹内真弥選手(ミズノ)が2回目と4回目に6m13をマークして連覇を達成。2回のファウル以外は、すべて6m台の記録を残したものの、「連覇したことは嬉しいが、記録として(先に)つながるものではなかった。全然納得の行く内容ではなかった」と竹内選手。冬のトレーニングは順調に積むことができ、コンディションも上々の状態で臨めていただけに、「(特有の弾性を持っている)このボードの助走路に、うまく合わせることができなかったことが反省点」と不満の残る結果となりました。
一方で、「練習では、去年よりも走れているという感覚がある」と言い、ファウルとなった3回目の跳躍では、この冬、課題として取り組んできた「踏みきったあとのリードレッグの使い方」に良い感触が得られたと言います。今後は、それらを記録へと結びつけていく作業に取り組んでいくことになります。「今年の最大の目標は世界選手権に出場すること。そのためには、まずアジア選手権に出場しなければ…。本当は、ここでもう少し跳んでおきたかったが、このあと、海外での2試合を用意していただいたので、そこでしっかりポイントと記録を上げてきたい」と挽回を誓っていました。

男子三段跳・山本が復調のV。女子走高跳・津田は初戦最高の1m83

【フォート・キシモト】

この大会で、久しぶりの勝利を手にしたのが、男子三段跳の山本凌雅選手(JAL)と女子走高跳の津田シェリアイ選手(築地銀だこ)。どちらも、屋外シーズンを前に、幸先の良いスタートを切る結果を手にすることになりました。
1回目の試技で、ファウルながら大きな跳躍を見せていた山本選手は、2回目に16m23をマークしてトップに立ちました。3回目に安立雄斗選手(福岡大)が16m22を跳んで、山本選手に迫ったものの逆転には至らず。山本選手は、4回目16m16、5回目はファウルと、記録を伸ばすことはできませんでしたが、この大会では、日本選手権室内として開催される前の2019年日本室内大阪大会シニアの部での優勝(16m16)以来、屋外も含めるとセカンドベストの16m85をマークした同年秋の茨城国体以来の全国優勝を果たしました。諫早農業高3年の2013年に、高校生初の16m台突入を果たすと、順天堂大4年の2017年には16m87をマークし、ロンドン世界選手権出場や台北ユニバーシアード(現ワールドユニバーシティゲームズ)で銅メダルなどの活躍を見せてきましたが、その後は度重なるケガに苦しみ、低迷が続いていました。苦しかった時期を振り返って、「何回も“もう終わりなのかな”と思ったけれど、そのたびに周りの人が“絶対にやめるな”と言ってくれた。その言葉だけでここまでやってこられた」と山本選手。その山本選手の言葉を裏付けるように、熊野陽人コーチやJALのチームスタッフが目元を潤ませながら勝利を喜んでいた様子が印象的でした。今大会は、冬季トレーニングの状況を確認することを目的とした出場で、特に調整せずに臨んでいたといいます。シーズンの目標を問うと、「東京(世界選手権)、出たいですね」と大きな目標を掲げたうえで、「まずは、日本選手権で勝ちたい」ときっぱり。実現すれば、2連覇を果たした2017年以来の戴冠となります。

【フォート・キシモト】


女子走高跳の津田選手は、昨年のシーズンベストでもあった1m80を2回目に成功させて、ここで優勝を決めると、1m83を1回でクリア。昨年、髙橋渚選手(センコー)が樹立した大会記録に並ぶ1m86にバーを上げました。この記録は、津田選手自身にとって、2020年、2022年、2023年と3回成功させている自己記録1m85を更新する挑戦で、特に3回目には、非常に惜しい跳躍を見せたもののクリアはならず。しかし、この大会としては日本選手権室内として開催され、いわば最初のタイトルを獲得した2020年大会以来、屋外を含めても新潟で開催された同年の日本選手権以来となる“日本一”の座に返り咲きました。
「今日は、自己新の挑戦なのに、高さはあまり気にならず、いかに跳躍するかに集中できた」と津田選手。スパイクピンの長さが6mmに制限されているこの大会では、特に内傾しながら踏み切る走高跳で「滑る、怖い」といった声がよく聞かれますが、「“このピンじゃ、無理”と思いながらも、自分なりにやれることは全部できたと思う」と1m86への挑戦を評価。「1m83は、シーズン初戦の最高記録。あれで(1m)83が跳べるなら…と思うと、屋外の試合が楽しみ」と声を弾ませました。
優勝候補の筆頭であった柄澤智哉選手(日本体育大)が5m20をクリアできず記録なしに終わったほか、5m30の段階で半数が競技を終える展開になってしまった男子棒高跳は、ダイヤモンドアスリート修了生の北田琉偉選手(日本体育大)が昨年マークした自己記録(5m42)に近い5m40の試技を3回目にクリア。その後、一人で挑んだ自己新記録5m50への挑戦を成功させることはできませんでしたが、シニアのチャンピオンシップで初のタイトル獲得を果たしました。「5m50は勢いで跳べる高さではなく、“何か”が足りないのだと思う。その“何か”を屋外シーズンまでに突き詰めていきたい」と北田選手。大学3年生となる2025年シーズンの間に、「(5m)70くらいは跳んでおきたい」という目標を掲げています。
男子走高跳も、バーが2m20台に上がる前の段階(2m18)で瀬古優斗選手(FAAS)と長谷川直人選手(サトウ食品新潟アルビレックスRC)の2人に絞らました。優勝を懸けて行われた2m21は、どちらもクリアが叶わず、試技内容の差で瀬古選手の勝利が確定。屋外を含めて、初のチャンピオンシップタイトルを獲得しました。また、日本選手権に初参戦した中谷魁聖選手(福岡一高、ダイヤモンドアスリート)は、2m05、2m10をどちらも1回で成功させたものの、2m15をクリアすることができず、4位で競技を終えました。「想定はしていたけれど、室内のトラックは、(スパイク)ピンの長さとか、滑るとかの難しさがあった」と振り返った中谷選手は、「そのなかで2m10までを1回で跳び、最低限のやれることはできたのかなと思う」と自己評価する一方で、「(2m)15は跳びたかった」と少し悔しい思いも残して高校最後の試合を終えました。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

◆アーカイブ:ライブ配信1日目:2月1日(土)

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トラック競技・表彰、U20女子走幅跳、日本選手権女子走幅跳、日本選手権女子走高跳、U20男子棒高跳

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