【徳島ヴォルティス】“戻ってきた”漢が熱い! 不屈の精神、玄理吾。

徳島ヴォルティス
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【ⒸT.VORTIS】

 静岡学園高校を卒業し、2022年に徳島ヴォルティスでプロ入りした玄理吾(ひょん りお)。昨夏ボランチ選手の補強を探していた栃木SCへ期限付き移籍し、約半年の期間を経て復帰。2025シーズンに懸ける想いに迫る。

 玄を知るために、彼の歴史を紹介したい。

 静岡学園高校の3年時には背番号8を背負い、全国高等学校サッカー選手権大会でベスト8まで勝ち進んだ。同期には磐田からグールニク・ザブジェ(ポーランド)へ期限付き移籍中の古川陽介や、清水から奈良へ期限付き移籍中の川谷凪らがいる世代。
 
 名門高校出身、レギュラーで選手権出場、高卒でプロ入り、羅列すると順風満帆なエリート街道を進んでいるように聞こえる。しかし、玄はエリートというよりも、逆境に打ち勝ってきた選手という印象が強い。

高校3年生の秋に加入が内定した玄。 【ⒸT.VORTIS】

 兵庫県出身、父の影響でサッカーを始める。当時所属していたFC Libreに静岡学園高校出身のコーチがいた影響を受けて、小学校から中学校へ進学する頃には同校への高校進学を既に意識していた。しかし、当時所属していたクラブは玄の基本技術を作り上げた最も重要な原点ではあるが、同時に「公式戦は1年時の2試合だけしか記録がありません。同級生は自分を含めて3人でした」と上級生が卒業して以降は実践経験を積めない日々でもあった。練習場は近年のジュニアユースが鍛錬しているような整った環境ではなく「普通の公園です。砂利で練習していました。転ぶとけがをするような(笑)」とその未来で順当にプロへ直結するような道筋には聞こえづらかった。

 しかし、玄は言う。「練習がめちゃくちゃ楽しかったんです」。

 玄の根幹にある不屈の精神はこのときに養われたのかもしれない。環境のせいにはしない。むしろ「コーンを置いたシンプルなドリブル練習とかじゃなく、ひと工夫、ふた工夫あって、楽しみながら技術が上手くなるような練習を監督が考えてくれていました」と楽しそうに語ったことがある。苦難をネガティブと捉えずに、楽しむことに変換できる才能がある。高校進学についても同様だった。当然、中学時代に公式戦をしていない玄という名がサッカー界で知られるはずもない。推薦入学ではなく受験勉強し、サッカー以外でも地道な努力を重ねた。

2025シーズンのキャンプの様子 【ⒸT.VORTIS】

 今シーズンのキャンプを取材する中で、玄が現在の自分と過去の自分を重ねる姿があった。

 「高校のときなんか特に下から這い上がったというか。1年生同士でも試合に出ていなかったりして、そこから自分でチャンスを掴むしかないと思ってやってきました。そういう初心を忘れずに今シーズンやっていきたいです」。

 玄のサッカー人生を紐解いていくと、どの時期も必ず苦悩している。同時に、どの時期も必ず這い上がって努力を結実させている。きっと現在もその過程にいる。

 「昨シーズンを一言で言うと悔しい1年でした。自分が出場していた序盤に順位が上がらず、夏場に栃木へ期限付き移籍しましたが降格してしまいました。プロ入りして一番悔しいシーズンでした」。

 不屈の精神。それは向上心と成長欲でもある。

2024シーズンの夏に栃木SCへ期限付き移籍 【©︎TOCHIGI SC】

 玄は暗い顔をして同情を集めるようなことはしない。常に前を向いて、常に勝ち気なスタンスで、晴れの日も雨の日もそれぞれの景色を経験値に変えようとしているように見える。

 「今年で22歳になります。世界的に見ても若くない年齢なので、そこも意識してやっていきたいです」。

 高卒で言えば4年目、大学生であれば4回生にあたる。世間ではそういう数勘定が一般的だろう。しかし、玄が言及した年齢のモノサシは世界という基準だった。本人は無意識で何気なく発した言葉かもしれないが、聞く側にはその数勘定はとても印象的だった。「プロ入りして一番悔しいシーズンでした」と言葉にするほどの壁にぶつかった直後であったとしても、その視線は山頂から目をそらしていない。そして、目線を上げながらも、登頂への一段一歩をショートカットして楽はしない。

2025シーズンのキャンプの様子 【ⒸT.VORTIS】

 今季の徳島ヴォルティスが挑戦している戦いに目を向けると、これまで得意としてきたボール保持に加えて、プレスを含む守備戦術にも積極的に取り組んでいる。プレスを試みるということは前に出て行って終わりではなく、奪えなかったときにはポジションを戻す運動量と献身がいる。そして、プレスに出ていくことが可能な状況かを判断する戦術眼とコーチング力もいる。かつ、それだけハードなタスクを実行しながら心身にかかる負荷がピークの状態でも、奪った直後の1つ目のパスは試合を決定付けられる質が伴っていなければならない。

 玄だけに限ったことではないが、中盤に求められるのは指揮系統としてゲームコントロールを担いながら、強度、量、戦術眼、献身、質・・・etcを同時に成立させる高い難易度を求められる。そして、対戦相手以前に、同じポジションにいる重廣卓也、杉本太郎、鹿沼直生、児玉駿斗といった百戦錬磨のチームメイトを凌駕してポジションを掴み取る日々の勝負でも上回らなければならない。

 それらの難関をすべて突破した先で勝利した瞬間に得られる感情。それはピッチに立つ者だけに与えられる他者には形容できないほどの特別なものだろう。

「試合に多く絡んで、チームを勝たせられる選手になることが目標です」

2025シーズンのキャンプの様子 【ⒸT.VORTIS】

 ホーム開幕戦は2月23日(日・祝)。徳島県鳴門市のポカリスエットスタジアムでベガルタ仙台と対戦する。昨季6位でフィニッシュしてJ1昇格プレーオフに進出した強敵だが、3度目のJ1昇格に挑戦する徳島ヴォルティスは絶対に負けられない戦いとは言っていられない。勝利が必須だ。

 玄理吾の、そして徳島ヴォルティスの2025シーズンが間もなくキックオフ。
【試合情報】
<開幕戦>
2月15日(土)14:00K.O
vs藤枝MYFC(アウェイ)

<ホーム開幕戦>
2月23日(日・祝)13:55K.O
vsベガルタ仙台

ホーム開幕戦を含む3試合を<OPENING SERIES>として開催!


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著者プロフィール

1955年創設、2005年にJリーグに加盟。ヴォルティスはイタリア語で「渦」を意味する「VORTICE」から生まれた造語。鳴門の渦潮にあやかり、パワー、スピード、結束力を備え、観客を興奮の渦に巻き込む想いが込められている。2014年には四国初のJ1昇格。2020年にはJ2初優勝を果たした。

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