【週刊グランドスラム288】新監督に聞く2025──number1伊藤祐樹(日産自動車)
ノックバットを片手に、選手たちに声をかける伊藤祐樹監督。 【写真=藤岡雅樹】
アメリカにおけるサブブライム・ローンの破綻に端を発した世界的金融不安の影響で、日本経済は100年に一度という不況に見舞われる。営業赤字に転落した日産自動車も、その波に飲み込まれようとしていた。それでも、選手たちは全力を尽すことに集中し、都市対抗ではベスト4に進出。日本選手権にも3年連続出場を果たし、京セラドーム大阪でもトヨタ自動車、パナソニック、日本通運を連破したが、準決勝でJR九州に2対6で敗れる。
これで半世紀の栄光の歴史に幕を下ろすのか。それとも正真正銘の活動休止で、時計の針は再び時を刻み出すのか。後者に淡い期待を寄せるも、グラウンドと合宿所のあった土地が売却されたり、経営者のよくないニュースが流れると、そんな期待も失望に変わる。
伊藤はそんな時でも感情的にならず、OBによる野球教室を続けたり、自分たちに活動休止にされる要因はなかったのかを検証していた。そして、数年前から『日産復活』をキーワードにした活動も始め、あとはタイミングという段階まで漕ぎ着けていた。
「三菱自動車岡崎でコーチをさせていただきます」
そう連絡をもらった2022年春、これは現場に戻る準備だと感じ、気持ちは一気に明るくなった。ユニフォームを着た伊藤は、「いやぁ、若い選手の気質は変わりましたねぇ」と苦笑しながら、それでも伊藤のスタンスで選手に寄り添った。そうして、2023年9月に活動再開が決まり、昨年からは四之宮洋介とともに選手の採用を始めた――。
選手たちのプレーを見詰めながら、伊藤監督はきっぱりと言った。
「野球の世界ですから、選手の技量、チームの勝利はとても大事。でも、社会人野球はそれがすべてではない。今回の採用では、リモートも含めて私と四之宮ですべての選手と対話し、技量以上に人となりを重視しました。また、鼻息荒く再開1年目から都市対抗出場というよりは、会社や地域の皆さんに心から愛される野球部の姿や活動を追求していきたい。そういう再出発ですし、そういう野球部にしてくれる選手たちです」
日産自動車野球部のあり方を追求して
「振り返ると、現役を15年やらせていただき、次は15年間社業中心の生活をしてきた。そして、日産自動車の監督を務めさせていただくのは、天命のタイミングだったような気もしています。選手たちには、今できることを一生懸命にレベルアップさせてほしい。そうすれば、半年後の姿が変わりますし、そこから次のステップに進めるので」
練習を見ていると、はつらつとしている反面、技術面ではルーキーばかりのチームだと感じさせる部分もあった。ただ、グラウンドの出入りやベンチ内の整理整頓、ユニフォームの着こなしや言葉遣いは、もう52年目の日産自動車だと胸を張れるものだった。その正直な感想を伝えると、伊藤監督は初めて相好を崩した。次はいつ、この表情を見られるだろうか。
【取材・文=横尾弘一】
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