【週刊グランドスラム287】社会人野球OBが中学3年生を指導――『MAKE PROGRESS 中3育成会』にかける川上哲矢さんの思い

チーム・協会

高校でも野球に取り組む中学3年生を、社会人OBたちが熱心に指導する。 【写真=岩崎実幸】

 セガサミーでマネージャーを2008年から14年間務めた川上哲矢さんは、セガサミーを退社後の2023年9月に、野球イベントの企画や野球スクールの運営などを手がけるNICE BOX株式会社を設立した。それは、自分自身を成長させてくれた野球への感謝と愛情が募ったゆえの決断だった。
 九州学院高1年夏にマネージャーへ転身し、東洋大を経て20年もの間を裏方として過ごしてきたが、その大半を占める社会人野球には、とりわけ思い入れがある。セガサミーのマネージャーを勇退後に人事の業務に従事すると、社会人野球が想像以上に認知されていない現状を目の当たりにして衝撃を受けた。それからは常々、社会人野球の魅力をもっと知ってもらうにはどうすべきかを考えている。
 また、川上さんは、社会人野球OBが活躍できるプラットホーム作りにも尽力している。NICE BOX株式会社で運営する野球スクール・HERAWでコーチを務めているのは社会人野球OBだ。しかし、スクール生は小学生が多いことから、社会人野球OBの高い技術をより伝えられる場を模索していた。そんな中、着目したのが、中学校の野球部を引退してから高校入学までの期間に、野球をせずに過ごしてしまう中学3年生だった。その年齢であれば、社会人野球OBの指導をより深く理解してもらえる。さらに、社会人野球を観る機会がなかなか持てない彼らに、社会人野球のレベルを知ってもらうきっかけを作ることもできる。川上さんは、『MAKE PROGRESS 中3育成会』と名づけた活動に取り組もうと決意。SNSで参加者を募集し、2024年7月の体験期間を経て翌8月から本格的に開始した。

野球の技術だけでなく人としての成長をサポートする

 『MAKE PROGRESS 中3育成会』の活動拠点は東京、埼玉、千葉で、川上さんはこれまでの人脈を生かして3つのエリアにある高校や大学のほか、セガサミー、東京ガス、日本通運のグラウンドを確保した。「施設が素晴らしい社会人のグラウンドでも活動したかった。関係者以外はなかなか入ることができないので、こういう機会で利用して『社会人野球は凄いんだ』と実感してもらい、目標のひとつにしてもらえれば」と期待を膨らませる。
 活動期間は今年3月までの予定。期間中は、毎週土・日・祝のいずれか1日の4時間、プロや社会人を経験した20名ほどの指導者の中から2~3人が派遣され、指導が行なわれている。
 1月13日に指導を担当したのは、東芝や日本代表で主将を務めた佐藤 旭さん、セガサミーでプレーした大月将平さんと前原侑宜さんの3名だ。ウォーミング・アップからキャッチボール、守備練習、紅白戦と進行する中、野球の技術に関することだけでなく、仲間への声がけの大切さや、グラウンドと用具を使用できることへの感謝など、人としての成長につながる言葉もかけていた。佐藤さんはその意図を、こう語る。
「この活動は高校入学の準備をベースとしていますが、その後もひとりの人間として生き抜いていく力を、野球を通じて身につけてもらえれば」

『MAKE PROGRESS 中3育成会』を企画・運営する川上哲矢さん。 【写真=岩崎実幸】

 この思いは生徒たちにも通じているようで、「野球が上手くなっているし、彼らの行動からも成長を感じる。指導してから1週間ほどで成果が見えてくるので、成長のスピードは速い」と佐藤さんが語ると、大月さん、前原さん、川上さんも大きく頷いた。
 毎週の活動に加え、12月26日から埼玉県加須市で2泊3日の合宿も実施。この反響も受けて、活動開始から半年ほど経った現在も入会者が増えているという。
 着実に成長している生徒たちとともに、川上さんは目標に向かって一歩一歩前へ進んでいく。
【取材・文=岩崎実幸】

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著者プロフィール

1949年に設立した社会人野球を統轄する(公財)日本野球連盟の公式アカウントです。全国の企業、クラブチームが所属し、中学硬式や女子野球の団体も加盟しています。1993年から刊行している社会人野球オフィシャル・ガイド『グランドスラム』の編集部と連携し、都市対抗野球大会をはじめ、社会人野球の魅力や様々な情報を、毎週金曜日に更新する『週刊グランドスラム』などでお届けします。

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