【注目施設探訪 第7弾】都心のど真ん中に最先端施設誕生。ドラフト候補やプロ選手、メジャーリーガーも通う「DIMENSIONING Sports Center」
【©中島大輔】
「通っている選手がドラフトに指名されたり、プロ野球やメジャーリーグの選手も来てくれたりするようになりました。選手たちに成長していただくために、ベストな環境をつくりたいと思いました」
同施設を今年開業した北川雄介トレーナーはそう話した。
個々の選手と対話しながら感覚を読み取り、テクノロジーも使いながら絶妙に言語化する指導が評判の北川トレーナーのもとには、パ・リーグの2024年新人王で同年リーグ2位の防御率2.17を記録した武内夏暉(西武)をはじめ、多くの選手が通う。今年のドラフトでは15選手が指名されるなど、その評判は口コミで広まっている。
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最先端の打撃テクノロジーを設置
北川トレーナーが新宿区の四谷で3年間運営した前施設に比べ、約6倍の面積だという。新施設は約600平米なので、小中学校の体育館と同程度の大きさだ。
「四谷の施設は100平米で、距離的に14mぐらいしか取れないので球筋を最後まで追うことができませんでした。新たにバッティングの指導を始める上では広さがあり、打球を追うことができる場所を1年半くらい探していました」
打撃指導を始めるに辺り、導入したのが「Hit Trax(ヒットトラックス)だ。
打った直後に打球の速度や角度、飛距離が解析され、モニターでスイング軌道の確認を即座にできる。データが蓄積されるので1球目と5球目のスイングを見比べたり、チームメイトと数値を勝負したりできるなど、実用性とゲーム性を備えていることが特徴だ。
アメリカでは「ドライブライン・ベースボール」やMLBの20球団以上で導入され、日本の指導施設では「DIMENSIONING Sports Center」で初めて設置されたという。
「選手たちが自分で打球速度やその他の数値を見て、競い合っています。ログも見られるので、自分の成長がわかるのもいいですね」
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選手と会話するための「共通言語」
「モーションキャプチャーは指導前と指導後や、選手自身で感覚を変えたときにどう変化したかを可視化しやすいツールです。“答えを見つけるためのツール”ではない、と思っていて。
撮影して『こうしたほうがいいですよ』で終わるのではなく、『こう投げると、どうなるのか』、選手のなかの身体知や感覚知にしてもらいたいです」
北川トレーナーが常に意識するのは、自身は“外部トレーナー”であるという立ち位置だ。
「球団にはさまざまな専門家がいますよね。選手自身のリテラシーが高くなれば球団に戻って専門家と話すとき、うまく融合していけると思います。
選手にはチームという、その人が輝く場所がある。そこで活躍できるようになるにはコミュニケーションを含め、さまざまな知識を融合させていく必要があると思います」
四谷の前施設ではラプソードのデータと感覚を融合させ、上記の指導を行ってきた。新川の新施設ではハイスピードカメラやモーションキャプチャーなどを取り入れることで、指導の解像度をさらに高めている。
「人の感覚を信じない選手もいるので、その場合はテクノロジーで会話していきます。共通言語を変えるようなイメージですね。
例えばハイスピードカメラの映像を拡大すれば、どうリリースしているのかがわかりやすい。選手自身が『自分はこうなっているのか』とわかり、理解が進む選手はめちゃくちゃいますね」
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天才も凡人も成長させる
「感覚でやりたい人は天才だと思います。天才も殺さず、凡人も引き上げていきたい。今は科学の力でどういう投球フォームが正しいのかという方向性も見えてきているので、“努力できる秀才”が成長しやすくなっています。
これまでは正しくない方向に努力している選手も少なくなかったのが、昨今、頭のいい選手が増えてきている要因でしょうね。天才とは感覚で対話しますが、ちょっとずつテクノロジー的なところも混ぜて融合していく必要があると思います」
新施設の総工費は約3億円。十分な広さ、地方からでも新幹線や飛行機で来やすいというアクセスの良さ、さらに最先端テクノロジーに巨額を投資した裏には、北川トレーナーのこんな思いがある。
「トレバー・バウアー投手(元DeNA)はテクノロジーをうまく使い、成長できる環境を自分でつくっていますよね。そうやって伸びる選手がいるなら、そういう環境をつくってあげればいいと思います。
自分の選手時代を振り返ると、そうしたベストをやり切ったわけではない。だからベストの環境をつくるというか、選手が言い訳ができない環境をつくり、完全燃焼してもらいたい」
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「あいつ、変わったわ」という口コミの連鎖
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打撃のクラスでは、選手たちが前述したヒットトラックスで対戦。打球速度を競い合いながら切磋琢磨する。
「自チームでは上位打線を打っている子でも、周りのレベルがすごく高いので、数字的に劣る子がいました。その子は『負けてられない』となって、今は数字的に一番伸びています」
どうすれば、選手たちが伸びる環境をつくれるか。自ら前向きに競争するように仕向けることに加え、ジュニア世代で大事になるのは親のスタンスだ。
「高校生の親御さんで多いのは、球速135km/h出ている子に対して『夏までに140km/h出ますか?』という質問です。あと少し良くなるのが難しいと思っていて、『うちの子に140km/hは無理でしょうね』と言う人もいるけど、それが良くない。可能性に蓋をしているわけです」
固定観念にとらわれず、どうすれば成長に導けるか。
北川トレーナーは論理ではなく、結果で示そうと心がけている。
「その子に伝えるのは、『周りが何て言おうと、結果を示せば変わるから』ということです。周囲は今までの価値観で『140km/hなんて無理』と思い込んでいるけど、『可能性を見せられるのは自分だから、自分を信じてやるしかない』と」
そうして結果を積み重ねることで、「DIMENSIONING Sports Center」にやってくる選手は増えている。小中学生の有望株からドラフト候補、プロ野球選手からメジャーリーガーまでが成長のヒントを求めてやって来る。
「人間って、自分で体験してみたものしか信じないですよね。チーム内で『あいつ、変わったわ』と評判が広まり、口コミで来てくれるようになりました。その繰り返しで、こういう場所をオープンすることができました」
なぜ、「DIMENSIONING Sports Center」は選手たちの間で評判を呼ぶのか。「百聞は一見にしかず」と言われるように、興味のある人はぜひ訪れてみてほしい。
(取材/文/写真:中島大輔)
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