【週刊グランドスラム282】勝つこと以上の成果を求めて――アジア・ウインター・ベースボール2024戦記

チーム・協会

七十七銀行の三上竜誠は、全日本ジュニア強化合宿からアジア・ウインター・ベースボールに招集された逸材だ。 【写真=宮野敦子】

 アジア・ウインター・ベースボール2024(AWB)が、11月23日から台湾・台中市と斗六市で開催された。今回で5回目の出場となる社会人選抜は、開幕から破竹の7連勝を飾った。先発投手がしっかりと試合を作り、積極性を前面に出した打線はどこからでもチャンスメイクして得点する。そうして、日本プロ野球(NPB)と台湾プロ野球(CPBL)各2の4チームを相手に白星を積み重ねた。いずれも先発投手が白星を手にする、理想的な試合運びだ。チームを率いる日本代表の川口朋保監督はこう話す。
「国際大会でどれだけ通用するかを見極めるには、『勝つこと』が一番わかりやすい。ただ、我々が目指すのはそれだけではありません。社会人野球全体の底上げ、存在意義を示していく必要がある。AWBを戦うための選手招集には、各地区の協力が不可欠です。この舞台に立った選手には、自チームはもちろん、各地区にこの経験を還元してほしい。そして、より多くの選手に『AWBに行きたい』、『自分にもチャンスがあるかもしれない』と感じてもらいたいです」
 社会人1、2年目を中心に招集した30名のうち、今夏の全日本ジュニア強化合宿で目立つパフォーマンスを見せて選ばれたのが、七十七銀行の三上竜誠だ。「スイングスピードの速さには驚かされました。こういう選手がいると、ジュニア合宿の存在価値も上がってきます」と、川口監督は言う。本来なら社業に専念する時期に、台湾でプレーできる喜びを噛み締めながら、「この機会に、他チームの主軸を打つ選手とバッティングの話をたくさんしたい」と、三上は声を弾ませた。

試行錯誤しながらも貴重な経験を積んだ選手たち

 出場5チームが4回総当たり、計16試合のリーグ戦を11勝3敗2引き分けで終え、1位で決勝トーナメントに進んだ。TAIWAN SEASとの準決勝は、1回裏一死一、二塁から四番・髙橋隆慶(JR東日本)の二塁打で首尾よく先制。勢いづいた打線は、4回までに9点を挙げた。先発の松田賢大(バイタルネット)には、十分過ぎる援護だ。7回まで2安打14奪三振の好投で有本雄大(ヤマハ)につなぎ、9対1で快勝した。
 決勝の相手は、リーグ戦で1勝2敗1引き分けと唯一負け越しているNPB WHITE。先発の後藤凌寿(トヨタ自動車)は4回まで無失点に抑えるも、5回表の先頭に四球を与え、牽制悪送球で無死三塁とし、さらに暴投で先制点を許してしまう。6回表には二番手の笠井建吾(三菱自動車岡崎)が2点を失うも、好調の打線がすぐに取り返してくれると思ったが、NPB WHITEの継投策になかなか好機を作れない。9回裏にようやく、山本卓弥(Honda熊本)がチーム2本目のヒットで出塁。二死二塁で吉川海斗(日立製作所)が中前に弾き返して1点を返すも、1対3で敗れた。

日本生命の谷脇弘起は変化球を多く使うなど、シーズン中とは違ったチャレンジを意識した。 【写真=宮野敦子】

 2019年以来の優勝は逃したが、多くの収穫があった。9月の第5回U-23ワールドカップで優勝を経験したメンバーは、「U-23とはまた違った空気でプレーした」と振り返る。指揮官の言葉通り、勝利だけを追求する戦いではなかったからだろう。チームの決まり事は、投手ならストライク・ゾーンで勝負すること。野手はベルト付近のボールをひと振りでとらえること、それだけだ。選手たちは、「自分のやりたいことが試せる」と口を揃えた。開幕投手を任された谷脇弘起(日本生命)も、大きな手応えを感じている。
「シーズン中はあまり投げていなかった変化球を多投し、いい感触が得られた。最初のミーティングで『チャレンジして失敗したら、またそこから考えて、チャレンジを繰り返していこう』という話があったから、どんどん試すことができました」
 日本と台湾のプロを相手に、試行錯誤しながらも何かをつかんだ選手にとっては、充実した1か月間だっただろう。AWBでの経験を来季に生かし、さらなる飛躍を遂げてもらいたい。
【取材・文=古江美奈子】

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著者プロフィール

1949年に設立した社会人野球を統轄する(公財)日本野球連盟の公式アカウントです。全国の企業、クラブチームが所属し、中学硬式や女子野球の団体も加盟しています。1993年から刊行している社会人野球オフィシャル・ガイド『グランドスラム』の編集部と連携し、都市対抗野球大会をはじめ、社会人野球の魅力や様々な情報を、毎週金曜日に更新する『週刊グランドスラム』などでお届けします。

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