昨年の三冠牝馬リバティアイランド、桜花賞馬ステレンボッシュらが参戦 香港国際競走4レースを展望
完全復活を期すリバティアイランド 【Photo by Shuhei Okada】
【香港カップ】ロマンチックウォリアーが史上初の3連覇へ、日本の2頭は阻止なるか
ロマンチックウォリアーはJ.マクドナルド騎手が主戦に収まってからの安定感が群を抜いている。ここまで10戦9勝で唯一の敗戦は初の海外遠征で初戦だったターンブルS(豪州)だけ。それも事前の検査など大きな負担を強いられる環境でのもので、その後は前走まで6連勝と1年以上も無敗を続けている。前哨戦のジョッキークラブCではノーステッキの気合いづけだけで4馬身余りの圧勝と国内に敵はなく、有利な1番枠を引き当てて死角らいしものも見当たらない。
レースでの斤量差を加味すると、数字(レーティング)上はリバティアイランドがロマンチックウォリアーを上回るが、大敗を喫した前走の天皇賞(秋)からどれほどの変わり身があるか。ドバイ遠征で右前種子骨の靱帯炎を発症し、回復途上だったことが敗因とされるが、靱帯炎からパフォーマンスを戻せなかった名馬は少なくない。全快さえしていれば、日本馬の天敵に一矢報いる力はあるはずだが、走ってみないことには分からない面が残されている。
対照的にタスティエーラは天皇賞(秋)で復調の手応えをつかんだ。春は大阪杯、天皇賞と掲示板にも載れなかったが、菊花賞から1年ぶりの連対は今回への弾みとなる。ダービー以来となるD.レーン騎手とのコンビも復活し、上げ潮ムードに乗っていきたいところ。ダービーと天皇賞(秋)はG1としてはかなり遅いペースだっただけに、勝ち負けに持ち込むには両レースのような一瞬の脚を生かせる展開が理想か。
史上初の香港C3連覇が懸かるロマンチックウォリアー 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
スピリットダンサーは英国調教馬ながら欧州での重賞は1勝のみ。それに対して中東では前走のバーレーンインターナショナルT(連覇)を含め3勝し、カリフには失格を含めて3戦とも先着している。2月のネオムターフCではカリフの他にルクセンブルク、キラーアビリティら日欧のG1ホースを並ぶ間もなく差し切っており、同じように平坦で整地されたシャティン競馬場の馬場ならG1級と解釈も可能。
ウイングスパンとコンテントはA.オブライエン調教師の管理馬で、主戦のR.ムーア騎手はコンテントを選択した。ただ、両馬は前々走の英チャンピオンズフィリーズ&メアズSで同走し、ウイングスパンが2着に逃げ粘ったのに対してコンテントは11着に大敗。次戦はともにアメリカのBC開催に遠征し、ウイングスパンは牡馬が相手のBCターフで5着に善戦しただけでなく、昨年の香港Cで小差2着の僚馬ルクセンブルクに先着している。その一方、コンテントは牝馬限定のBCフィリー&メアターフで中団のまま6着。今回のウイングスパンは単騎逃げがかないそうで、3歳牝馬の軽い斤量を利しての粘り込みもあるだろう。
カリフも上位争い可能な実力馬だが、今回の条件ではスピリットダンサーが当面の敵になるか。ザフォクシーズはスピリットダンサーと同じく平坦コース向きの英国調教馬だが、ここまでの戦績的なインパクトには欠ける。
マイルCSの覇者ソウルラッシュ 【Photo by Shuhei Okada】
【香港マイル】絶対王者が退き混戦模様、ソウルラッシュとジャンタルマンタルにもチャンス
地元勢は昨年の香港マイルで2着のヴォイッジバブルが大将格。国内では安定上位の実力馬で、前哨戦のジョッキークラブマイルも番手抜け出しの快勝と暫定王者の地位を得ている。昨年は7カ月ぶりのJCマイルを叩いて2戦目だったが、今年は4カ月ぶりのシャティンTから始動して3戦目と順調に来ており、晴れて王座を継承する可能性は十分にある。
このヴォイッジバブルが大将格なら日本のソウルラッシュとジャンタルマンタルにも勝機があっていい。ソウルラッシュは昨年の香港マイルでヴォイッジバブルから1馬身1/2差の4着だが、馬群の中から終始スムーズに進んだヴォイッジバブルに対し、ソウルラッシュは最終コーナーで外を回るロス。パワーアップを印象づけたマイルCSの内容から逆転も期待できよう。
スケール感ではジャンタルマンタルの楽しみも大きい。皐月賞は3着で距離の壁に泣く結果となったものの、レコード決着の激流の中で早めに抜け出す強い内容。NHKマイルCでは文句なしの完勝劇で高い適性を証明した。熱発でそれ以来の実戦になってしまったのは誤算だが、このレースを史上唯一の3歳で制したアドマイヤマーズと戦歴も似ており、春の力通りなら金星を手にしても不思議はない。
JCマイルで2着のチェンチェングローリーが少々不気味。昨シーズンの4歳三冠シリーズは香港クラシックCでの2着が最高だが、アメリカ産馬のため半年遅生まれのハンデがあり、香港クラシックCの時点では満4歳の誕生日も迎えていなかった。香港ダービー後はマイル路線に注力し、重賞では2着と3着が各2回と勝利こそないものの堅実。実年齢では今が4歳秋の充実期に当たり、まだまだ成長を見込める。
前哨戦のJCマイルを快勝したヴォイッジバブル 【Photo by The Hong Kong Jockey Club】
また、JCマイル4着のハッピートゥギャザーはヴォイッジバブルを早めに捕らえに動いた結果。4月のクイーンエリザベス2世Cでは日本勢に割って入る4着と、これまでは長めの距離で実績を積んできた面があり、より厳しい流れの本番で自分の型に徹すれば上位争いも可能だろう。
4月の香港チャンピオンズマイルでヴォイッジバブルとギャラクシーパッチに先着したビューティーエターナル(1着)とレッドライオン(2着)は、その後にシャティンT、JCマイルと2戦するも5着以内がない。香港チャンピオンズマイルはゴールデンシックスティの末脚が不発に終わるほどの道悪だっただけに、巻き返しには天の恵みが必要か。
日本勢以外の遠征馬では豪州のアンティノ、英国のドックランズとラマダン、フランスからはラザットが参戦。アンティノは直近4戦でG1トゥーラックH勝ちを含む3着以内の勢いと安定感に魅力がある。2022年の香港マイルでは豪州のローズオブインディシーズが3着に激走したが、同馬も3走前にトゥーラックHで2着に好走していた。
ドックランズとラザットは豪州からの転戦。ドックランズは直近3戦で2000mに挑み結果を出せなかったが、得意のマイルに短縮して変わり身があれば。ゲートが遅く大跳びのタイプだけに、直線が長めのシャティン競馬場もプラスだろう。ラザットは7戦目の前走で初黒星を喫したが、G1級のメンバーが集うゴールデンイーグルの2着は価値が高い。1300mのモーリスドゲスト賞を勝つほどのスピードがあるだけに、前走から100mの延長が課題ではあるが、道中で溜めが利く展開になれば残り目も。
G1連対のないラマダンは実績的に格下で、今回はフランスのC.ヘッド厩舎からF.ファーガソン厩舎への移籍初戦。いろいろと難しい面がありそうだ。
スプリンターズSでG1初制覇を果たしたルガル 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
【香港スプリント】超新星カーインライジングが世界デビュー、今年の開催で最注目の一戦
メインレースの香港Cに王者ロマンチックウォリアーが控えながら、今年の香港国際競走はスプリントのカーインライジングに最も熱い視線が注がれている。昨年の香港スプリントの1週前にデビューし、4戦目から前走まで重賞3勝を含む7連勝で駆け上がってきた。前走のジョッキークラブスプリントは見せムチだけで抜け出すと最後の100mを流し、それでいながら名馬セイクリッドキングダムのレコードを17年ぶりに更新する鮮烈な内容。今回は外目の11番枠だが、前走も10番枠で圧勝しており、好位差しの安定した取り口からもアクシデント以外に負ける要素は考えにくい。
カーインライジングを負かし得るとすれば、昨季の香港最優秀スプリンターに輝いたカリフォルニアスパングルとなろう。この2頭だけがレーティング120超えで他馬を離している。今季の2戦はカーインライジングに連敗だが、初戦は7ポンド(約3.2kg)重いハンデを負担。前走のJCスプリントも別定戦で5ポンド(約2.3kg)の斤量差があったうえ、行きっぷり本来のものではなかった。同斤で戦える今回に真価を問いたい。
カーインライジングとカリフォルニアスパングルの強力2騎が先行を型としているだけに、残りは日本の3頭も含めて横一線。レーティングよりも展開に左右される面が大きいかもしれない。それを利するとすれば後方からの末脚勝負型で、カーインライジングが勝ち、カリフォルニアスパングルも3着に逃げ粘った10月のプレミアボウルでは4角10番手以降の2頭が台頭。ヘリオスエクスプレスが2着に割って入り、ラッキーウィズユーはカリフォルニアスパングルと0秒01差の5着に追い込んだ。
前哨戦のJCスプリントをレコードタイムで圧勝したカーインライジング 【Photo by The Hong Kong Jockey Club】
4月のチェアマンズスプリントプライズを制したインビンシブルセージはプレミアボウル(10着)、JCスプリント(5着)と結果を出せていないが、G1勝ちの実績で重い斤量の影響もあったはず。中団からの差しを型としていることから、底力を問われる相手関係になって巻き返しもあるだろう。一方、高松宮記念とスプリンターズSで来日したヴィクターザウィナーは、G1勝ちのセンテナリースプリントCが少々恵まれた形の逃げ切り。2強の力勝負に巻き込まれそうな今回は厳しいかもしれない。
日本の3頭は2強に割って入ることが当面の目標となるだろう。勝ちパターンは好位差しのルガルとサトノレーヴ、差しのトウシンマカオという塩梅で、カーインライジングとカリフォルニアスパングルが並び立つ結果になるのなら、トウシンマカオに最もチャンスがあるか。ルガルはスプリンターズSの積極的なレース運びが2強に通用するようなら国内で天下も開ける。サトノレーヴはスプリンターズSが案外だったが、北海道での好走からもシャティン競馬場の芝は合いそう。このレースを勝った日本馬はロードカナロアの系統だけという血統にも希望がある。
日本以外の海外勢は英国のスターラスト、豪州のリコメンデイションだが、どちらも実績的には1000m向きの印象。ただ、スターラストは前走のBCターフスプリント(1000m)で最後方に置かれるような格好から追い込みを決めている。欧州馬にしてはコーナリングが上手く、1200mで追走が楽になる可能性もあるだけに軽視はできない。
海外のブックメーカーが上位人気に推しているステレンボッシュ 【Photo by Shuhei Okada】
【香港ヴァーズ】日本と欧州が争ってきた構図に豪州から強豪参入、上位拮抗で優勝争いは混沌
豪州のウィズアウトアファイトは昨年のコーフィールドCとメルボルンCを連勝(カップス・ダブル)したが、これは140年余りで12頭目という歴史的快挙。日本の牡馬クラシック三冠馬(約80年で8頭)よりも希少な記録のうえ、両レースで上から2番目に重いハンデだった点でも価値は高い。その後に脚部不安で丸1年を棒に振ったものの、復帰戦の前走はコックスプレートを圧勝したヴィアシスティーナの3着に激走。叩き2戦目で距離延長の今回は条件が悪かろうはずもなく、いかなる走りを見せてくれるか楽しみだ。
海外のブックメーカーでウィズアウトアファイトと1番人気を争っているのが日本のステレンボッシュ。レーティング114はウィズアウトアファイトより7ポンド低いが、レースでの斤量差(9ポンド)を差し引くと逆転して有利な関係になる。ただ、2400mの距離はやや長い印象。データ的に大外の枠順も痛い。かつての香港リーディングで、サトノクラウン(2016年)とグローリーヴェイズ(2019、2021年)を勝利に導いたJ.モレイラ騎手の手腕が頼みになる。
プラダリアはレーティングでウィズアウトアファイトに5ポンド離されているものの、欧州勢に大きく劣っている訳ではない。時計に限界があるタイプのようで、前走の京都大賞典は高速決着で連覇を逃したが、重馬場の宝塚記念ではゴール前まで大きな見せ場を作った。香港ヴァーズは2019年の2分24秒77(グローリーヴェイズ)以降、早くても2分27秒台で決着しており、この水準であれば出番があっても不思議はない。
昨年のコーフィールドCとメルボルンCを連勝したウィズアウトアファイト 【Photo by Getty Images】
ルクセンブルクは昨年の香港Cでロマンチックウォリアーを短アタマ差に追い詰めてシャティン競馬場の適性は実証済み。ドバイオナーにもシャティン競馬場で3戦の経験があり、昨年のクイーンエリザベス2世Cはプログノーシスに1/2馬身差(3着)でゴールしている。両馬とも今年は2400mでG1勝ちしており、実力発揮なら優勝争いが十分に可能だ。
イレジンにもG1勝ちの実績があるが、サンクルー大賞でドバイオナーの後塵を拝すなど昨年までの堅実性が薄れてきた。前走の英チャンピオンS(4着)はラチ沿いの最短距離で直線の混乱を避けられた運にも恵まれており、7歳終盤の年齢的に盛り返せるか。コンティニュアスはフォワ賞でイレジンに完敗とさらに苦しそう。近走は道悪や先行など不本意なレースが続いているのも事実で、良馬場を期待できる今回は差し脚を生かすハーツクライ産駒らしいレースを見たいところだが。
ジアヴェロットとマルキザには前記4頭のようなG1勝ちの実績はないが、ジアヴェロットはG2を2勝するなど今年の安定感では一番。2022年の英セントレジャーで3着(繰り上がり)、前走の愛セントレジャーでは欧州長距離戦線の絶対王者キプリオスの3着に食い下がるなど、G1未勝利ながら目途も立てている。マルキザはG1どころか重賞勝ちもない一方、通算8戦のうち重賞4戦を含む7戦で3着以内の堅実型。良馬場のレース経験がなくシャティン競馬場の適性は未知数だが、その分だけ一変の可能性も秘めている。
4頭で迎え撃つ地元の香港勢は、ファイブジーパッチとラシティブランシュが上位格だが、8頭で争われた昨年は6着と7着に完敗。5月のチャンピオンズ&チャターCでは2着と3着も、外国からの遠征馬は優勝したレベルスロマンスの1頭だけで、日本と欧州からの相手が増える今回は苦戦を免れそうにない。
(渡部浩明)
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