「もっと速い球を投げたい」と投球フォーム修正、即座に回転数アップ。社会人日本代表→ドラフト指名の快速右腕が示す、最先端データ活用法

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【©中島大輔】

球場に行けばトラックマンやホークアイ、高校や中学のグラウンドではラプソードやブラストといったテクノロジーを見るのは当たり前の光景になった。
 
野球におけるデータ活用は、もはや不可欠と言えるレベルまで進化している。

各球団が5人近くのアナリストを抱えるプロ野球(NPB)はもちろん、特に取り組みを進めているのが社会人野球だ。日本代表の選手たちは投手ならストレートの球速に加えてホップ成分やシュート成分、打者は打球速度やスイング速度などを全日本野球協会のHPで「PROSPECT PLAYERS LIST」として公開しているのだ。

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学生たちに社会人野球に興味を持ってもらうことに加え、以下の狙いがあると川口朋保監督は説明する。

「これまでと同じことをやっているだけではダメ。どんどん進化していかないと、衰退していきますからね。いろんな新しい刺激を代表チームに入れていこうということです」

独特なフォームから「球の強さ」で勝負

10月7日、都内で強化合宿中の社会人日本代表は栃木市の「エイジェックスポーツ科学総合センター」を訪れた。以前「Homebase」でもレポートしたように、最先端機器を備えた“日本最大の民間施設”だ。

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ブルペンのマウンドにはフォースプレートが埋め込まれ、踏み出す足の強さなどが測定される。トラックマンに加え、ハイスピードカメラで動作解析やリリース時の指の使い方などを細かく分析できることも特徴だ。

「真っすぐの回転数より、回転軸を一番見ていました」

そう話したのは、セガサミーの左腕投手・荘司宏太だ。最速150キロの”真っスラ"とチェンジアップが武器で、同合宿から1カ月半後のドラフト会議ではヤクルトに3位で指名された。

「身長が低いので(172cm)、球の強さで勝負するしかありません。自分は独特なフォームなので、解析というより、球質を優先的に見たいなと」

荘司は上半身を大きく使い、強い球を投げていくことが持ち味だ。投手として上背はないものの、自分の特性を把握し、テクノロジーも使いながら伸びていった。

小柄ながらヤクルトから指名を受けた荘司 【©中島大輔】

「強みをどんどん伸ばす」ために

対してNTT東日本の右腕投手・片山楽生は、恵まれた練習環境を存分に活用することで成長した。日常的にトラックマンで計測できる環境があり、社会人日本代表の合宿でも計測に意図を持って臨んでいた。

「普段から見ている数値と、どれくらい変化しているのか。それを確認したのは、社会人日本代表の合宿中に自分のなかで投球フォームに変化があったからです」

白樺学園高校からNTT東日本に進んだ片山は、最速151km/hのストレートを武器にしている。社会人日本代表の合宿中にライバルたちから刺激を受けて「もっと速い球を投げたい」と思い、投球フォームを見直した。

「体をしっかり使い、腕がどれだけ振られるか。腕を点で『ブッ』と振るのではなく、線で『ブンッ』っていうイメージです。そう意識したら、柔らかさが出てきました」

最近の投球を振り返ると、手先を気にして投げていた。片山はそうした反省を踏まえて修正し、合宿の計測では普段の練習時より200回転多い2400回転を記録(1分間当たりの回転数)。こうした微修正を即座にできるのも、普段からトラッキングデータを活用しているからだ。

「元々僕の長けている部分は(ストレートの)縦の回転量。普段から意識しています。高校の時からそれだけで生きてきたので、強みをどんどん伸ばしていけるように。入社当時から今でも、特に見ているところです」

片山はNTT東日本に入社して4年目の今秋、オリックスにドラフト6位で指名された。決して望ましい成績が出たシーズンではなかったが、スカウトは確かな成長の跡を見ていたのだろう。

オリックスから指名を受けた片山 【©中島大輔】

「データと指導現場」をつなぐ者たち

荘司や片山のように、テクノロジーをフル活用して成長する選手は数多くいる。

一方、データを扱う側もさまざまなアプローチをできるようになっている。その成果が見られたのが、2023年12月16・17日に開催された第3回「野球データ分析競技会」だった。

「データと指導現場」をつなぐアナリストやデータサイエンティスト、コーディネータの育成を目的とし、全日本野球協会が主催する同大会には高校生や大学生、大学院生が3人1組でチームを組んで参加し、決勝には5チームが出場。
2020〜2023年の都市対抗野球大会、2021〜2022年の社会人野球日本選手権大会の合計6試合で計測された「トラックマン」データを用い、「野球競技力の向上」をテーマに各チームが研究を発表した。
優勝したのは慶應義塾大学の大学院に在籍する根本俊太郎さん。テーマは「打率における奥行きの分析とパフォーマンス向上のすゝめ」で、球界の“常識”をデータで覆すような発表には社会人野球関係者の審査員からも称賛の声が上がった。
一方、祇園北高校が発表したテーマは「フォークで甲子園に連れてって♡」で、日本人メジャーリーガーがフォークを武器に活躍する理由をデータで紐解いた。
過去の「野球データ分析競技会」では実力を認められてプロ野球の球団や社会人チームのアナリストに採用された者がいれば、昨年出場した祇園北高校の辻雄大さんはデータへの興味を膨らませて進学する大学を決めた。野球の現場に貢献することはもちろん、出場者のキャリアに好影響を与える場にもなっている。

第4回の今回は、2025年2月22・23日に開催。出場の対象は高校生、大学生、大学院生で、応募期間は12月20日までとなっている。

今回の特徴は、東京六大学野球のトラックマンデータが使用されることだ。全日本野球協会選手強化委員会の平野裕一委員長は「学生がより興味を持てるように対象を設定しました」と話した。

聴講者も募集しており、参加費は一般10,000円、学生4,000円(税込み)。昨年よりリーズナブルな価格設定だ(聴講日は2月23日限り)。

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アマチュア野球では「データ活用の仕方がよくわからない」という声も少なからず聞こえるが、平野委員長は「どういうことを理解しておけばいいか、学べる場にしたい」と話した。大会の参加者はもちろん、データ活用を学びたいという選手や指導者にも有益な時間になるはずだ。


(写真/文 中島大輔)
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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