【注目施設探訪 第4弾】最先端機器を備えた“日本最大の民間施設”。「測定→トレーニング→治療」で効果的にパフォーマンスアップ

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【©中島大輔】

今年の都市対抗野球に出場したエイジェックは男子の硬式野球部に加え、ヴィーナスリーグ(関東女子硬式野球連盟)に所属する女子硬式野球部、BCリーグの栃木ゴールデンブレーブス、そしてエイジェックユース(小学校6年生〜中学校3年生の女子硬式野球チーム)という4つのチームを所有している。

その練習地として今年7月、JR栃木駅から徒歩7分の場所に「エイジェックスポーツ科学総合センター」がオープンした。
“日本最大の民間施設”と謳い、約1万2000平方メートルの総敷地面積に「データサイエンス」「トレーニング」「教育・研修」の3エリアが設けられている。

特徴は最先端テクノロジーが備えられ、測定やトレーニング、治療を一つの施設内で行えることだ。今年はエイジェックの野球チームで活用し、来年から一般開放する予定になっている。

最新機器を備えたベースボールラボ

都市対抗開幕を控えた7月某日。エイジェックスポーツ科学総合センターを訪れると、男女の硬式野球部員が練習を行なっていた。ゴールドジムと提携して導入されたマシンでトレーニングに励む選手がいれば、メディシンボールを壁に投げる選手や、グリップエンドにブラストを装着してスイングを確認する選手もいる。
測定エリア(ベースボールラボ)にはラプソードとトラックマン、ハイスピードカメラが設置され、投打の数値を測定できる。

目玉の一つは、フォースプレイト(床半力計)を埋め込んだマウンドだ。モーションキャプチャと同期し、マーカーレスで投球メカニクスを解析できる。

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アナライザーの佐藤正紘氏が説明する。

「投球の中でどれくらいの強さを発揮できているか。例えば前足を着いたところで床から大きな反力を得られて、それをうまくボールに伝えていくと球速が出せます。並進運動が真っすぐ行かずに左右にずれると、床から得た力をうまく利用できなくなります。
足から受けた力を運動連鎖で股関節、体幹、肩、肘、ボールに伝える中で、力がどこでロスしているのか。以上のようにピッチングを評価する項目がいくつかあるので、データを蓄積しながらメソッドをつくっていければと思います」

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ハックアタックというカットボールやスプリットなど変化球も選択できる高性能ピッチングマシンもあり、選手たちはハイレベルの練習を行える環境だ。

また、内野フィールドと同程度の室内練習場もあり、測定で判明した課題にすぐに取り組むこともできる。

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トレーナーが“効果的”に介入

次にコンディショニングラボを訪れると、女子選手が治療機器を使ってメンテナンスをしていた。松橋朝也チーフトレーナーが説明する。

「基本的にはトレーナーが行いますが、我々がしっかり設定し、選手に使い方を教えて自分でできるようにしています。うちでは伊藤超短波さんと酒井医療さんの機器を取りそろえ、例えば肉離れや打撲という急性症状に対して早く治癒を促進させる効果の電気を流すなど、目的に合わせて使い分けています」

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最先端の機器がそろい、トレーナーによる治療にも相乗効果が出ているという。松橋トレーナーが続ける。

「例えば超音波診断装置を用いることで、『普段、体表からトレーナーが見て手で触っているところが本当に合っているのか。効果的に介入できるのか』と確認しながら治療できます。
また、ラジオ波を当てて組織をすぐに温められるコンディショニング治療器を用いて、トレーナーが手で介入する前に組織の温度を高めておけば、より効果的な介入ができるようになります」

トレーナーは選手のコンディショニングに寄与するだけでなく、パフォーマンスアップにも貢献していく。そうした点こそ、エイジェックスポーツ科学総合センターの強みだと松橋トレーナーは語る。

「ベースボールラボで動作解析を行い、パワーラボでトレーニングをすることに加え、コンディショニングラボでは可動域や機能的な部分に問題がないかを定期的に介入します。
トレーニングや解析を行うだけではなく、それぞれで出た課題を一つひとつ潰していくようなイメージです。例えば肩甲骨周りの筋力低下があるからトップが上がらず、肘が下がってしまうという場合、そうした点を改善できるようにトレーナーたちがアプローチしていきます」

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5大体力を測定→能力改善へ

コンディショニングラボの隣にあるアローズラボ&ジムは、スポーツ科学による「検査→分析→評価」を柱に基礎体力を“見える化”することで、競技力アップを目的としている場所だ。解析エリア(ラボ)とトレーニングエリア(ジム)に分かれている。

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計測できるのは5大体力と言われるもので、(1)跳躍力(2)瞬発力(3)筋力(4)視力(5)持久力。それぞれに最先端マシンが導入され、能力を細かく測定できる。松橋トレーナーが説明する。

「例えば跳躍力では垂直跳びをするだけではなく、立ち幅跳びの数値も取れます。リバウンドジャンプと言って連続でホップするジャンプでは、接地時間と滞空時間が分けて算出されます。跳躍力の一つに下半身のバネの指数があり、パフォーマンスアップにも必要です。
疲労の影響もよく受けると言われているので、定期的に測定することで選手が疲れている状態にあるのか、コンディショニングが上がった状態にあるのかを考えられます。都市対抗野球など大会に向けてのコンディショニングにも活用しています」

バイオデックスは主に膝の曲げ伸ばしにおける筋肉を測定し、大腿四頭筋とハムストリングスの強さを算出する筋力測定器だ。

「大腿四頭筋とハムストリングスの筋力の比率が崩れると、ハムストリングスの肉離れの発生率が高いと言われています。そうした障害予防にも活用しますし、シンプルに筋力がどれぐらいあるのかを解析するのにも使えます」(松橋トレーナー)

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持久力の測定エリアでは専用マスクをつけてトレッドミルを走り、吸った空気と吐いた空気の量が呼吸ごとにプロットされる。

「トレッドミルの速度が上がっていくので、徐々にしんどくなっていきます。その状態で呼吸も管理して持久力を見ます。呼吸筋が弱くて酸素を吸う、吐くがうまくできないから持久力が低いのか。もしくは心肺や呼吸筋の機能はしっかりしているけれど、走り方でエネルギーを消費しすぎて早く疲れてしまうのか。そうしたことを算出できます」(松橋トレーナー)

隣に目をやると、同じ機械がもう1台置かれていた。ラボで判明した課題をジムで潰し、持久力を改善していくためだ。松橋トレーナーが説明する。

「低酸素発生装置があり、例えば標高2500mと同じぐらいの低酸素の空気を送ってランニングしてもらいます。ランニング時の負荷量は、ラボで測定したデータをもとに個別で設定することができます。
最初の課題をクリアできるようになったら、次のレベルに設定して『今日はこれくらいで走ってください』としていく。短時間で効果的にトレーニングできるのが特徴です」

以上のような計測とトレーニングが、5大体力について行える。アスリートの能力アップはもちろん、今後は一般高齢者の健康維持に活用することも予定されている。

相撲部屋をヒントに食のアプローチ

教育・研修のエリアでは、フードラボ(調理場と食事スペース)で選手自身が昼食の準備をしていた。独自の取り組みについて、管理栄養士の佐藤礼美氏が説明する。

「相撲部屋のちゃんこ鍋をイメージし、選手たちが自分たちでつくてって食べて片付けるところまで行います。用意された食事がただ出てくるのではなく、自分たちで『こういうのを食べたほうがいいよね』と考えようというのが目的ですね。その中でコミュニケーションが取れることを目標としています」

【©中島大輔】

フードラボは朝5時にオープンし、朝昼晩の三食を自炊できる。エイジェックファームという栃木県小山市の農園から採れたての野菜が送られてくることに加え、食材費は会社から補助される。フライヤーではなく鍋で調理し、洗浄機ではなく手で洗うのは“自炊”にこだわるからだ。
大半の選手たちはエイジェックスポーツ科学総合センターの近隣に住み、フードラボで朝食をとる者も多くいるという。

「選手たちは楽しそうに自炊していますね。夏場はどうしても体重が落ちてしまいがちですが、選手間でのコミュニケーションが生まれて、お腹いっぱい食べられるのはすごくいいなと思っています」(佐藤氏)

【©中島大輔】

以上のようにエイジェックスポーツ科学総合センターは最先端の機器を導入し、さらに東京大学スポーツ先端科学連携研究機構(UTSSI)と包括的連携協定を結んで取り組みの効果を深めようとしている。

選手たちの能力アップをとことん突き詰めている点こそ、同施設の特徴と言えるだろう。近隣の野球チームも関心を寄せ、視察に訪れているとのことだ。

今年はエイジェック内で活用しながら知見を重ねながら、どのような形で一般開放につなげていくのか。今度の発展が楽しみな施設だ。


(文・撮影:中島大輔)
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著者プロフィール

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