新人王に輝いた武内夏暉の強みにデータで迫る
埼玉西武ライオンズ・武内夏暉投手 【写真:球団提供】
プロ1年目から2桁勝利を達成し、新人王のタイトルにも輝いた
今回は、武内投手が2024年に残した投手成績に加えて、セイバーメトリクスに基づく各種の指標や、月別の成績について確認。新人離れした投球を見せた若き左腕の特徴と強み、今後のさらなる伸びしろといった要素について、実際のデータをもとに考えていきたい。
シーズン序盤から圧巻の投球を見せ、シーズン最終登板で2つの大台に到達
武内夏暉投手 年度別投手成績 【©PLM】
武内投手はオープン戦で2試合に登板して防御率2.00と、即戦力としての期待に違わぬ好投を見せ、開幕ローテーションの座を勝ち取る。そして、プロ初登板となった4月3日の試合では7回を無失点に抑える快投を見せ、見事にプロ初登板初勝利を記録した。
その後も高い前評判に違わぬ好投を続け、左のエースとして堂々たるピッチングを展開。5月には4試合に登板して3勝負けなし、防御率0.63という圧倒的な投球を披露し、新人としては2015年の高橋光成投手以来となる、月間MVPの座に輝く快挙を達成した。
疲労による抹消や新型コロナウイルス感染による離脱も経験したものの、それ以外の期間はほぼ年間を通して先発ローテーションの座を維持。シーズン最終登板となった9月30日の試合で規定投球回に到達し、シーズン2桁勝利に到達。防御率2.17と新人ながら素晴らしい数字を残し、最下位に沈んだチームにおける一筋の希望の光となった。
抜群の制球力を武器に、容易に走者を許さない支配的な投球を披露した
武内夏暉投手 年度別投手指標 【©PLM】
その一方で、奪三振率に関しては6.63と、やや控えめな水準にとどまっていた。この数字からは、多くの三振を奪って相手打線を力でねじ伏せるタイプではなく、持ち前の制球力を活かして丁寧に打たせて取る投球を展開していたことがうかがえる。
次に、奪三振を与四球で割って求める、制球力や投手としての能力を示す「K/BB」に目を向けたい。K/BBは一般的に3.50を上回れば優秀とされているが、武内投手のK/BBはリーグ2位の4.86という非常に優れた水準に達している。奪三振率が高い投手の方が有利な指標においてもハイレベルな値を記録している点も、制球力の卓越ぶりを示す要素の一つだ。
また、本塁打を除くインプレーになった打球が安打になった割合を示す「被BABIP」に関しても、基準値の.300を大きく下回る.265という数字を記録。被BABIPは一般的に運に左右される部分が大きいとされているものの、被打率も.226と優秀な数字を記録しており、被安打を許す機会が少なかったという点は注目すべきポイントといえよう。
与四球と被安打がともに少ないという特徴もあって、1イニングごとに許した走者数の平均を示す「WHIP」も0.98と非常に優秀だ。1イニングで出した走者を1人未満に抑えていたことを示すこの数字は、武内投手の投球内容が極めて優れていたことを示すものでもある。
さらに、先発した試合でクオリティスタートを達成した割合を示す「クオリティスタート率(QS率)」に関しても、76.2%と優秀な水準に達していた。4試合に先発した場合、そのうち3試合以上の割合でゲームを作ってみせた武内投手の安定感は、プロ1年目から2桁勝利を挙げることを可能にした大きな要因にもなっている。
月間MVPに輝いた5月の活躍を筆頭に、8月以外は常に安定した投球を見せた
武内夏暉投手 2024年月別投手成績 【©PLM】
6月は新型コロナウイルスに感染した影響で1試合の登板にとどまったものの、7月には4試合で28.2イニングを投じ、与四球はわずかに2つと圧倒的な制球力を発揮。防御率2.51、K/BB11.50と抜群の数字を残し、体調不良の影響を感じさせない投球を続けていた。
しかし、8月には2試合連続で6失点を喫するなど疲労の色が見え、月間防御率は年間ワーストとなる4.88と苦戦を強いられた。それでも、シーズン最終盤の9月に入ってからは月間防御率1.53と調子を取り戻し、9月16日の試合ではプロ初完封を記録。5試合で3勝とハイペースで白星を積み上げ、9月30日に8回無失点の快投を披露してシーズンを締めくくった。
プロ1年目ということもあってか気候の厳しい夏場に調子を落としたものの、それ以外の5カ月はいずれも月間防御率2点台以下と、まさに安定感抜群の数字を残した。今季の経験を活かし、来季以降は夏場を調子を崩すことなく乗り切ることができるようになれば、さらなる好成績が期待できる可能性も大いにありそうだ。
夏場を克服できればさらなる好成績も期待できる、まさに大器と呼べる存在だ
夏場に調子を落とした2024年の反省を踏まえて、これから年間を通してコンディションを維持する方法を確立できれば、今季以上の好成績も期待できるはずだ。現時点で先発として非常に高い完成度を誇りながら、さらなる伸びしろも備えている大器。長身左腕が繰り出す切れ味抜群のボールに、今後もぜひ注目してみてほしいところだ。
文・望月遼太
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