【野球人リレーコラム】甲子園100歳、野球の価値向上を図ろう

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第4回執筆者:全日本野球協会アスリート委員会委員長 坂口 裕之



阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)が8月1日に「生誕100年」を迎えました。

私自身、少年時代にテレビやラジオで高校野球の甲子園大会に触れ、憧れを抱いた一人です。幸運にも宮崎県立高鍋高校時代に仲間とともに夢をかなえ、この球場でプレーする機会にも恵まれました。ただ、2回戦で優勝候補の池田(徳島)と対戦し、0-12という大差で負けてしまいます。

しかし、だからこそ、この球場の素晴らしさを身をもって体験することができました。



甲子園球場は、一生懸命に頑張っている選手に対し、本当に温かいのです。点差が離れても、観客の皆さんは私たちにも声援を送り、数少ない良いプレーに拍手をして下さいました。球場全体が高校球児を応援しているのだと感じました。甲子園で試合するたびに、どんどん上手になる選手がいるのも当然です。

ここは、学びの宝庫なのです。だから、小学生や中学生も、ここでプレーしたいと憧れます。こんな空間がほかにあるでしょうか。野球、スポーツの素晴らしい部分がギュッと詰まっている場所なのです。100年の歴史がつくり上げた唯一無二の文化だと思います。

 

では、日本の夏に、高校野球をさらに100年続けるために必要なことはなんでしょうか。野球人口の減少や、暑さ対策も含めた健康管理が話題になっています。選手が涼しい場所で休憩するクーリングタイムが昨年から設けられ、今大会では一番暑い時間帯に試合をしない2部制が試験実施されました。危険防止のため、低反発の金属製バットも導入されました。とても意義のある取り組みだと感じます。

 

さらに7イニング制についても調査研究を始めていると、日本高校野球連盟が公表しました。賛否両論が出るのは当然だと思います。暑さ対策のために、そこまで変えなければならないのか。疑問に感じる人も多いことでしょう。

正直に言えば、私もその一人です。もちろん、選択肢の一つであると思います。国際大会はすでに7イニング制で実施されています。ただ、8、9回の2イニングをなくすことで、選手の健康面にどれほどの違いがあるのか。野球というスポーツの本質が変わることはないのか。慎重に検討していかなければいけないと思います。

 

社会人野球やプロ野球では近年、試合時間を短くする対策に躍起になっています。高校野球のように、1試合2時間ほどで終わるスピーディーさがないためです。

私は社会人野球の指導者に、OBの一人として謝っています。「これは我々が残した負の遺産だね。3時間超えのゲームが続いたせいで、野球が面白くないと言われるようになってしまった。すまなかった」と。

その上で、「皆さんの手で、野球の魅力を取り戻して欲しい。その努力をしないと野球がだめになってしまう。このままでは社会人野球も7イニング制になってしまうかもしれない。それは嫌でしょ?」とお願いしています。これは「スピードアップ」ではなく、「価値向上」だと考えて欲しいのです。野球の価値を上げるプロモーションに、一人一人が参加するのです。

 

高校野球の7イニング制も、「暑さ対策」にとどまらず、高校野球の「価値向上」につながるのかどうか。最も大切な論点はそこではないでしょうか。

その点さえ間違わなければ、高校生たちは新しいルールに対応し、さらに100年、200年と歴史をつないでいってくれると思います。まずは春季大会などで7イニング制を試験的に実施し、みんなで経験してみてはどうでしょうか。そして、選手や観客も含めて、感想や意見を出し合うのです。キーワードはもちろん、「価値向上」です。



さかぐち・ひろゆき 
1965年、宮崎県出身。高鍋高-明治大学-日本石油(現ENEOS)で外野手として活躍。主将、監督も務めた。1992年バルセロナ五輪では日本の銅メダルに貢献。2006年から高校野球の甲子園大会でNHKの解説者を務める。全日本野球協会アスリート委員会委員長。ネクサスエナジー株式会社代表取締役副社長。
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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