侍ジャパン 唐木恵惟子 開拓者と恩返しの精神で始めた Baseball5「決して忘れたくない」と語った日本の強さとは?
【©白石怜平】
その侍ジャパンBaseball5代表に選ばれている一人が唐木恵惟子選手(ジャンク5)。
3年前にソフトボールとの両立から始まり、今年4月からは侍ジャパンの一員となった。ここまでの軌跡には感謝や絆、勝利に対する気持ちなど多くの感情が詰まったものだった。
原点は「野球やソフトボールへの恩返し」
「友人が若松(健太:侍ジャパンBaseball5代表監督)さんと知り合いでした。若松さんがジャンク野球団を運営しているのを知った後、『Baseball5という競技があるけど挑戦してみないか』と声をかけていただきました」
その時初めてBaseball5のことを聞いたという唐木。初めてやって見た時はとにかく驚いたという。
「自分の手を使って打つので簡単かと思ったら道具を使うよりも断然難しかった。同じベースボール型なのに、右も左も分からなかったので初めは長く続けるイメージが湧かなかったんです」
それでもトライしてみようとなったのはまず未来を見据えたことからだった。
「競技人口がこれから増えていくんだろうなと考えると、今後が楽しみだなと思えました。
Baseball5をやっていると言っても、『何それ?』と今でも言われてしまうのですが、そのパイオニアになれるんだと考えたら面白いことだと感じました」
パイオニアとして日本を代表する存在になった 【©白石怜平】
「競技を始めるきっかけになったのが若松さんの言葉で、『これまで俺たちは野球やソフトボールにいい思いをさせてもらったと思う。
その恩返しの一つとして、野球型スポーツの国際的な普及活動にもなるんだ』という言葉をいただきました。
私もソフトボールに10年以上携わってたくさんいい思いをさせてもらって、大切な人たちと出会ってきました。なので、恩返しに少しでもなればいう想いで今も続けています」
唐木をBaseball5へと導いた若松監督 【©白石怜平】
ジャンク5に入団し、自然と高まったモチベーション
さらに唐木の他にも今回ワールドカップで代表主将を務める島拓也や三上駿・大嶋美帆、そして若松監督と日本代表に5人を輩出している。
チームに入った時そして今について問うと、その強さを支える一端を交えて答えてくれた。
「チームの絆が強く常に一体感があります。それは私が入った時と今も全く変わらないです。リーグ戦などに臨む時も、代表入りしている・いない選手問わず自然と一つにまとまるので、ジャンク5として試合することに意味があると思える。そんなチームだと感じています」
自身(#17)も、チームで試合をする意義を感じているという 【©白石怜平】
「ジャンク5は桜美林大学のBaseball5部と一緒に練習や紅白戦をやっています。なので強くなるための環境が整っているんです。
大会がない期間が続いた時でも、『定期的に練習やろうよ』という声が自然に挙がったりして、参加すると『この競技やっぱり面白い!』と感じさせてもらえる機会がある。それがモチベーション高く続けられている要因だと思います」
第1回ワールドカップの代表を逃すも原点に立ち返る
「日本代表としてアジアカップ・ワールドカップと国際大会があるというのも、努力する源になりました。やるからには勝ちたいと思う人たちが集まっているのがジャンク5なので、自分のできることが増えるほど、自然と結果にこだわるようになってきました」
次第に高い目標へと向かうようになった 【©白石怜平】
「選考会に呼んでいただいてパスポートまで用意したのですが、残念ながら入ることはできなかった。すごく悔しかった想いがありました」
その後は一時期充電期間を設け、両立していたソフトボールに重点を置いた時もあった。
それでもジャンク5のメンバーと顔を合わせ、共に練習をすると「『やっぱりBaseball5楽しいな』と思えたのでもう一度頑張れる気になりました」と自然と二刀流へと戻っていった。
この期間は、競技を始めた原点に立ち返る機会にもなった。
「代表に入るために頑張るのも大切ではありますが、ジャンク5で勝つ一員になるために競技を始めたのがルーツです。なので、まずはジャンク5の一員として頑張ろうと。代表はその先なので、結果選ばれたら嬉しいなと改めて思いましたね」
国際大会で感じた驚きと反応
「選ばれた時には『自分ですか?』と驚いたのですが、すぐに『やるしかない!』と思えました」
自身にとって初の国際大会。アジア各国の戦いぶりや選手を見て、新たな発見の連続だった。
「国によってチームの年齢層や文化も違いますし、コートに立ったら戦術も違います。日本だったら走者を送る場面でも大量得点を狙ってヒッティングしてきたりといった違いに驚きを感じました」
アジアカップ時では他国を実際にその目で見れた機会になった(9月撮影) 【©白石怜平】
「『日本はすごい』と他国から見られているなと感じたので、一層結果を出さないといけないと思えました。私はジャンク5の時と同じ、『勝つために自分が何をできるか』を考えてプレーしました」
日本は強豪チャイニーズ・タイペイとの決勝を制し、国際大会初優勝となるアジア一を成し遂げた。その時の心境を率直に明かしてくれた。
「負ける気がしなかったです。『このメンバーなら負けるはずない』と心底思えた。それが結果も伴って『兄さん・姉さんたちかっこいいな!』と思いました。その一員になれて、このスポーツを続けてきて良かったですし、本当に嬉しかったです」
”負ける気がしない”と確信を持ち、その通りの結果を残した侍戦士たち。唐木は技術や戦術を超えたものが日本にはあったと語る。それは自身の今後につながる考え方へとアップデートされた。
「プレーの面では堅実な守備というのはあると思いますが、それを出せるのはチーム間のコミュニケーションなんだと感じました。練習の時から、集中もしているし真剣にもやっているのですが、その中でも『チーム全員で楽しくやろう!』という雰囲気が日本のルーツなんだなと。
大会を通じて日本ほど楽しんでプレーできたチームって少なかったのではという印象もありました。なのでそれが”日本らしさ”だと思ったんです。
今回のワールドカップでも真剣な中でも楽しむ気持ちが、自分たちに流れを持ってくるベースになると思います。その日本らしさを私は決して忘れたくないです」
世界で最も固い結束で今回のワールドカップに臨む 【©白石怜平】
その後も特に今年は新たな取り組みが続いており、まだまだ活躍のフィールドは広がっていく。
(写真 / 文:白石怜平、本文中敬称略)
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