ピッチから社会へ、新たな一歩をともに考えるキャリアオーナーシッププログラム【座談会レポート】

FC今治
チーム・協会
働きながらサッカーを続けているFC今治レディースの選手たち。サッカーに限らず、女性アスリートは、アスリートとしてのキャリアを終えた後、経済的な自立や、社会とのつながりを築くことなど、さまざまな課題を抱えています。

FC今治レディースでは、エグゼクティブパートナーである株式会社カオナビ様と協働で、「キャリアオーナーシップ」をテーマに、昨年プロジェクトを始動。選手たちに主体的なキャリア形成を意識するきっかけを作り、サッカー選手としての道を進む傍ら、多様な選択肢を持つことを目的に、これまで2回のセミナーとワークショップを開催してきました。

今回、プログラムに参加した選手を招いて座談会を開催し、キャリアオーナーシップを学び始めた彼女たちの変化や、今後のキャリアに対する意気込みを伺いました。

【©FC.IMABARI 】

ーー近年、一人ひとりが自らのキャリアを主体的に考える「キャリアオーナーシップ」が注目されています。お三方はこれまで、サッカー選手としてのキャリアと並行して仕事を選ぶ上で、どのような点に重きを置いてきましたか?

橘髙選手:大学の在学中からFC今治レディースの一員としてプレーを始めたのですが、就活で私が重視したのは、とにかく「サッカーに集中できる環境かどうか」ということでした。

大学のサポートもあり、クラブのパートナー企業でもある今治市内の造船会社に就職して、今年で3年目を迎えました。会社全体でFC今治レディースを応援してくださっていて、夜の練習や土日の試合といった状況も理解してくださるので、とても働きやすいです。

橘髙 海音(きったか みお)

1999年生まれ。広島県福山市出身。幼少期からサッカーをはじめ、5歳から福山FC(広島県)に所属。広島文教女子大学附属高校卒業後は、聖カタリナ大学に進学し、FC今治レディースにてプレー。現在は、今治市内の造船会社で働きながら選手としても活躍する。

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大平選手:私は高校卒業後、進学ではなく仕事をしながらサッカーも続けたいという思いが強くて、高校生の時にクラブチームを探していました。いろいろなクラブのお話を聞いたんですが、FC今治レディースは就職先の紹介もそうですし、引退した後も相談に乗ってもらえたり、というお話を先輩方から聞いて、心強いなと思って所属を決めました。

今は市内のクリニックで受付の仕事をしながら、サッカーをしています。でも実は2社目で、以前はお菓子の販売店で働いていました。就職や転職にあたっては、監督に相談に乗ってもらいました。勤務環境や自分のやりたいことを伝えたうえで、パートナー企業さんを紹介してもらいました。

大平 桃(おおひら もも)

2003年生まれ。岡山県井原市出身。6歳の時に井原FC(岡山県)のジュニアチームでサッカーを始める。FCバイエルンツネイシレディースを経て、鳴門渦潮高校に進学し、女子サッカー部に所属。高校卒業後は、FC今治レディースに所属し、日中は今治市内のクリニックで働く。

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稲田選手:私も転職を経験しています。クラブ所属1年目はホテル運営会社に就職して、フロント業務をしていたんですが、今は福祉業界で放課後デイサービスの仕事をしています。

稲田有彩(いなだ ありさ)

1999年生まれ。長野県白馬村出身。5歳からアラグランデFC(長野県)に所属。その後、ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ(U18)を経て尚美学園大学に進学。女子サッカー部でサッカーを続ける。大学卒業後は働きながら、町田ゼルビアレディース、江の島FCに所属し、昨シーズンからFC今治レディースでプレー。

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ーー転職のきっかけや、新しい仕事を選ぶ上で重視した点はどういったことですか?

稲田選手:私は大学を卒業して4年目になるんですが、1年ごとに所属チームが変わっていて、職場も必然的に変わってきたんです。スーパーで働いたり、事務職だったりといろんな業種を経験してきました。

始めの頃は将来のキャリアも漠然としていたんですが、年が経つにつれて少しずつやりたいことが明確になってきた感覚があって。

今は、引退後のキャリアとして、子どもたちにサッカーを教える指導者になりたいと思っています。その目標に近づくためにも子どもたちに関わる仕事がしたいと、転職の道を選びました。

【©FC.IMABARI 】

大平選手:私は美容系の仕事に興味があって、本当は美容やアパレルといった仕事をしながらサッカーができたらいいなと思って探していたんです。

ただ業界の特性上、土日休みや夜間の時間確保が難しく、別の選択肢を探すことに。将来のことも視野に入れて、接客が学べる仕事を選ぶ中で転職を経験しました。

ーーどこに比重を置いて仕事を選ぶかは、まさに十人十色なんですね。とはいえ、サッカー中心の生活を送りながら、仕事も両立させるのは、想像以上にハードルが高そうです。

稲田選手:転職で中途入社すると、なかなか新卒のような研修がある会社ばかりではなく、やりながら仕事を覚えるスタイルが多いですね。私は転職回数も多い分、毎回慣れるまではなかなか大変です。

橘髙選手:私は新卒入社だったのである程度のフォローはありましたが、それでも社会人としての基本的なマナーや、仕事の進め方など、サッカー一筋でやってきたがゆえに不安に思うこともたくさんありました。

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大平選手:SNSを見ると、同世代の友人たちがキラキラした社会人生活を送っているように見えて、遅れをとっているなと感じたりすることもありますね。

橘髙選手:メイクとかもやっぱり普段しないから、社会人としての身だしなみについても、ギャップを感じたりね。

ーースポーツという特殊な環境で生きてきたアスリートならではのギャップですね。そんな中でキャリアオーナーシップのプログラムを受けて、キャリアに対する考え方や将来のキャリアプランについて、何か新しい気づきや発見はありましたか?

橘髙選手:講師の山田 頌子さんが「引退したら何をしたらいいかわからないっていうアスリートが多い」というお話しをしてくださったんです。そこで大事なのは、まずは自分を知ることだとおっしゃっていて。実際にワークショップの中でも、自分の「好きなこと」「苦手なこと」「今の仕事」「将来の夢」などを書き出す時間がありました。

私は「ベストな環境でサッカーをプレーしたい」という気持ちで仕事を選んだこともあり、改めて引退後にも視点を向けて、「自分のしたいことって何なんだろう」と考える機会になりました。「自分のことでも、知らないことがある」ということに気づきましたね。

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ーー日常の中で、自分のことを深く掘り下げて考える時間って、なかなか取れないですよね。

橘髙選手:改めて自分に向き合うと、料理を作ることが好きだったり、カフェ巡りが好きだったり、といった自分の好きなことに気づきました。昔からなんとなく「キッチンカーを出したいな」という気持ちがあったんですが、その思いが少し明確になりましたね。

稲田選手:書き出した自分のことについて、1人8分の持ち時間で各グループでシェアをする時間があったんですが、意外とみんなスラスラ喋っていて。質問タイムも予想以上に話が弾んで盛り上がりましたね。様々な経歴を持つメンバーが参加したので、普段あまり話さないメンバーとも交流できたこともすごく良かったです。

お互いの好きなことや興味のあることを積極的に共有し、質問し合い、深く理解し合うことができました。自己開示だったり相手に興味を持つことや知ることって、すごく大切だなと改めて感じましたね。

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大平選手:普段からみんな仲はいいけど、普段あまり話さないような深い話をしたことで知らない一面が見えて、改めて絆も深くなったのかな。いつもは話している内容が浅いんで(笑)

あと私は、将来の夢がスポーツと全然関係ないということに少し戸惑いを感じていたんです。引退後もスポーツに関わる仕事を目指す選手も多いので、別の道を選ぶことに不安を感じていたんですが、グループで自分の好きなことをシェアしたときに、自分と一緒でサッカーに関係ない仕事に興味がある人もいて「それでもいいんだ」と思えたというか。仲間がいることに勇気をもらいましたね。

あとはお互いに話す中で、自分が「楽しい」と思う仕事をしてる人って、本当に楽しそうに話している姿も印象的でした。やっぱり自分の好きなことを仕事にするって、いいなあと思って。

将来の仕事選びが、ちょっと楽しみになりましたね!

ーー今後のキャリアにも、変化がありそうですか?

橘髙選手:まだ具体的な計画は立てていませんが、いずれは自分の好きなことに近づけるような道を模索していきたいという思いが強くなりました。

ふと思うと、兄は料理人を目指して修行していたり、いとこはタイに移住して好きなことを追求していたりと、自分の好きなことを貫いている姿を身近なところでも見てきました。私も少しずつでも前進していきたいなと思いますね。

クラブが経営するカフェ「里山サロン」で、話を聞いてみたりとかしたいです。

大平選手:私も自分の目指す美容系の仕事に就けるよう、動いていきたいです。そのためにもサッカーに限らずいろいろな経験を積んで、いろんな人から話を聞いたりしたいですね。

稲田選手:私も自分の気持ちに嘘をつかずに、まっすぐ生きていきたいなと思います。

橘髙選手:それこそ引退後、サッカーやスポーツ以外の分野で活躍されている方にも話を聞いてみたいですね。

【©FC.IMABARI 】

ーーいろんなテーマの話を聞く中で、次の道しるべが見つかるかもしれないですね。最後に、サッカーに傾倒してきた3人がこれからどういう人生を歩んでいきたいか、抱負を聞かせてください!

橘髙選手:サッカーをしてもしてなくても、キラキラしていたいですね。

好きなことを仕事にしている人って、すごく輝いて見えるので、そういう生き方をしていきたいなと思います。

私たちはキラキラじゃなくて、ギラギラしてるから(笑)

一同:(笑)

橘髙選手:とはいえ、今打ち込んでいるサッカーでまずは結果を出したいです。今は早くケガを直して、復帰したいなと思っています。

大平選手:私も今年に入ってからケガでリハビリを続けていて、でもそのお陰で「サッカー好きなんだな」っていうのを改めて感じたので、復帰してまずはサッカーを全力で楽しみたいと思います!

稲田選手:今シーズン厳しい戦いなんですけど、チーム一丸となって結束して、皆さんにも嬉しいニュースをお届けしたいなと思っています。

【©FC.IMABARI 】

取材・文/小林友紀
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著者プロフィール

2020年シーズンよりJリーグクラブとなったFC今治。ホームタウンはしまなみ海道の玄関口、愛媛県今治市です。わたしたちは「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献する。」を企業理念に掲げる(株)今治.夢スポーツという法人です。今治.夢スポーツは、FC今治の運営を核に、教育事業や地域貢献活動などさまざまな事業にチャレンジしています。当アカウントでは、イベントや試合情報、選手に関する情報など、クラブの最新情報をお届けします。

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