【完全記録・中編】 総合馬術“初老ジャパン”最後の挑戦

日本馬術連盟
チーム・協会

競技初日は5位スタート

 悲願のメダル獲得に向けて、総合馬術代表の大岩義明、北島隆三、田中利幸、戸本一真の4人の戦いが始まった。3種目を3日間かけて行う総合馬術の最初の競技は馬場馬術。20m×60mのアリーナの中で決められた順に決められた運動を行う採点競技だ。純粋な《馬場馬術競技》では最高難度のステップが求められるが、総合馬術の中の馬場馬術では芸術性の高いステップではなく、馬がいかに従順にのびのびと運動しているかがポイントとなる。馬場馬術競技の成績は、本来、満点に対する得点をパーセンテージで表す。しかし総合馬術においては、100からそのパーセンテージを引いた数字が減点に換算される。つまり、80%の出来であれば、100-80=20の減点となる。競技で良い勝負をするには30は切りたいところで、25を切ればかなり強い数字となる。
 TEAM JAPANの中で最初に演技をしたのは北島。騎乗するセカティンカJRAは、オリンピッククラスの競技に出場するにはやや高齢の17歳で、コンビは5年になる。北島が一目ぼれして手に入れた馬で、「顔も全体の姿もとにかくビューティフル」とぞっこんだ。オリンピックに採用されている馬場馬術の経路は、20の運動項目で構成されていて、前半は速歩(はやあし)運動、後半は駈歩(かけあし)運動がメインだ。北島&セカティンカJRAは、速歩区間はうまくいっていたが、駈歩区間で馬のテンションが上がってコントロールが難しくなり、ミスが目立った。結果は減点34.5。北島は「失敗したわりには点数は悪くなかった」と振り返った。

北島隆三&セカティンカJRA 【©日本馬術連盟】

 二番手は大岩&MGHグラフトンストリート。今年に入ってからのコンビで、100%理解し合っているという関係には至っていないが、馬は以前に大岩のトレーナーが騎乗して5スター競技(世界中で年間7大会のみの最高難度)で優勝したこともあり、その能力は間違いない。大岩は「もっと時間があればいろいろできたと思うけれど、今はピッパ(トレーナー)の乗り方に僕が合わせていって、馬が受け入れやすいようにしている」と話していた。そのような状況だったが大岩は積極的に馬を動かして切れのいい演技を見せた。減点25.5で「良いスコアを出すことができて満足」と笑顔を見せた。

大岩義明&MGHグラフトンストリート 【©日本馬術連盟】

 三番手は戸本&ヴィンシーJRA。3年前の東京オリンピックにもこのコンビで出場して個人4位に入賞している。馬場馬術でも高得点を狙える実力を備えており、戸本も減点25を切ることを目標にしていた。しかし、入場から馬のテンションが高めで全体的に急ぎ気味の動きになってしまい、減点27.4で目標には届かなかった。「準備運動までは良かったのですが、入場直前に前の選手に対する拍手などでテンションが上がってしまいました。それを見越して早めに本馬場に来たのですが、それが裏目に出てしまいました。もっとゆっくり来た方が良かったかもしれません」と残念そうに語った。

戸本一真&ヴィンシーJRA 【©日本馬術連盟】

 この時点で日本は減点87.4で5位。トップは減点66.7のイギリス、2位は減点74.1のドイツ、3位は減点81.2のフランスだった。

TEAM JAPAN、2日目を終えて暫定3位

 競技2日目はクロスカントリー。この種目が総合馬術のメイン競技だ。自然の地形を活かしてコースがつくられる。今回はスタートからフィニッシュまでの距離が5,149mで28個の障害物が置かれた。28個というのは、あくまでも各障害に振られる番号のことだ。この中にはコンビネーション障害と呼ばれる、2つあるいは3つ、4つの障害物で構成されるものがある。たとえば、今回の5番障害はA、B、Cの3個で構成されており、さらに、そのA、B、Cについては、オプションが設定されているのだ。ストレートラインあるいはダイレクトラインと呼ばれるコースどりは、走行する距離は最短だが障害物自体の難度が高かったり、障害物と障害物との距離や角度がテクニカルにつくられていたりする。ストレートラインを攻めるとミスしそうだと判断した場合は、時間はかかるがクリアできる可能性の高いロングルートを選択することもできる。今回は池(水に飛び込んだり、池の中の障害物を飛越したりする)を使ったコンビネーションが3つ設置されていて、いずれも難度が高かった。

北島隆三&セカティンカJRA(池の中を走るコンビネーション障害) 【©日本馬術連盟】

 クロスカントリーは障害物で不従順(止まったり避けたりすること)があると減点20、トータル3回目の不従順で失権となり、そこで走行を終えなければならなくなる。また、コースの全長と要求されるスピードから割り出される規定タイムをオーバーすると、1秒ごとに0.4点ずつ減点が増えていく。減点20のリスクを覚悟してストレートラインを攻めるか、あるいはたとえばタイムが5秒余計にかかるけれど、より確実なロングルートをとるかは、選手やチームの作戦次第だ。個人戦なら自分だけのことなので、リスクをとってストレートラインを選択することも可能だが、団体戦では確実に減点を抑えることが最優先となるので、高いリスクを負ってまで攻めることはあまりない。今回のコースは28障害だが、すべてストレートラインを行っても飛越回数は41とかなりハードだ。
 5kmを超えるクロスカントリーコースは、ヴェルサイユ宮殿の森の中につくられた。設置される障害物は、自然に近い状態のものが多く、ログと呼ばれる丸太や生垣でつくられていたり、池に飛び込んでその中を走行するものがあったり、オリンピックの場合は開催国らしさをデザインに取り入れたりと、バラエティ豊かでユニークなものが多い。競技本番の3日ほど前にオープンし、選手はいつでもコースを歩くことができる。ただし、馬は入れない。選手はコースの順番を覚えるだけではなく、コンビネーション障害でどのルートをとるか、この障害物に対してはどのような角度でアプローチするか、コンビネーション障害内の障害物と障害物の間は何歩で行くかなど、細かい部分を考えて作戦を練りながらコースウォークを繰り返す。おそらく本番の走行前に4~5回は徒歩で回っているはずだ。また、天候によってグラウンド状態は変化し、出番が遅ければ荒れて走りづらくなることもある。常に臨機応変に判断して馬をリードしなければならない。選手と一緒に事前のコースウォークができない馬は、たとえば池の飛び込みなどでは、先に何があるかわからない状況であっても、選手に「行くよ!」と指示を出されたらそれに従う。乗り手を信用しているからこそできることであり、乗り手がその信用に応えて正しく導かなければ、長くハードなコースを走り切ることは不可能だ。
 TEAM JAPANの選手は「基本的にはストレートライン。でも状況に応じてロングルートを選択する箇所もあるかもしれない」と話していた。また、9分2秒の規定タイム内にゴールするのはかなり難しいという見解だった。

大岩義明&MGHグラフトンストリート(宮殿をバックにしたコース後半のダブルコンビネーション) 【©日本馬術連盟】

 クロスカントリー競技は10時30分に始まり、4分ごとにスタートしていく。チーム内一番手の北島&セカティンカJRAの出番は12番。必ず完走して、コースの状態や、コースウォークではわからなかった実際に走った感覚などを二番手、三番手に伝えなければならない。出番1番の人馬の走行をモニターで確認するとすぐ、北島はセカティンカJRAのところに向かった。北島はミスのない走行で、16秒のタイムオーバー(減点6.4)のみでゴールすると、すぐに大岩と戸本のもとへと走った。そして、コース走行で得た感覚や情報を余すところなく後続の2人に伝えた。これを受けて大岩と戸本は「いける」と確信した。「二番手の自分は稼ぐのが仕事。少しでも楽な状況をつくって戸本を走らせたい」と話していた大岩は、積極的に攻めていき、規定タイム内にゴール。「ゴールした時はよっしゃー!と思った」と振り返った。北島、大岩の走りに勇気をもらった戸本は自信を持ってコースに挑み、大岩に続いてインサイドタイムでゴールした。

戸本一真&ヴィンシーJRA(最後の難関、3つ目の池) 【©日本馬術連盟】

 最大の難所クロスカントリー競技を終えて、日本は3位に浮上した。1位はイギリス、2位はフランス。初日2位だった強豪国ドイツは1頭が失権、200点が加算されて14位に転落した。また、4位だったニュージーランドも反抗(障害物の前で馬が止まってしまったり横に逃げてしまうなど)とタイムオーバーがあって6位に後退した。日本の3人馬はミスによる減点はなくタイムオーバーの6.4のみで、2日間の合計減点93.8となった。クロスカントリー競技だけの減点を比べると、タイムオーバーのみだったのは16ヵ国中5ヵ国。最も少なかったのがフランスの6点で日本はそれに次ぐ6.4点だった。北島、大岩、戸本がしっかりとバトンをつないだ。

 TEAM JAPANは暫定3位。本当にメダルが見えてきた。あとは翌朝のホースインスペクションと最終競技の障害馬術を残すのみだ。
【日本馬術連盟 北野あづさ】(次回につづく)
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公益社団法人日本馬術連盟は、日本における馬術統括団体です。その事業は、馬術の普及・振興に始まり、全日本大会の開催、国際大会への派遣、選手強化、競技会規則の制定、資格の認定等、多岐にわたります。

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