【週刊グランドスラム266】日本新薬が虎視眈々と逆襲を目指す――第49回社会人野球日本選手権大会最終予選が始まる
オープン戦で好投を見せた木下隆也と新人捕手の後藤聖基(右から)。若い力の台頭で、日本新薬は夏の逆襲を目論む。 【写真=松橋隆樹】
その組み合わせは以下の通りだが、都市対抗出場を逃している日本新薬は、何としても京セラドーム大阪への切符をつかもうとチーム力アップに取り組んできた。
【第49回社会人野球日本選手権近畿最終予選組み合わせ】
ところが、翌2021年に予選敗退を喫すると、一転して苦しい戦いを強いられることが増える。そんな状況に、昨年まで攻守の要を担い、日本選手権では10回出場の表彰を受けた鎌田将吾が33歳で監督に就任した。今春の大分県佐伯市キャンプで鎌田監督は、「会社からは、『すぐに全国優勝せよ』と命じられたと受け取っている」と、真っ直ぐな視線で語った。そして、地に足を着けた空気がチーム全体に流れていたことに、大きな期待を抱いた。
3月の東京スポニチ大会で実戦が始まると、キャンプの好印象は試合を重ねるごとに確証に変化していく。実際、5月の東北大会では4強入りし、都市対抗近畿二次予選でも大和高田クラブ、パナソニックに完勝して準決勝に進出する。
夏場に徹底して追い込んで成果を見せる秋
「立場が選手から監督に変わっても、選手一人ひとりの印象は大きく変わりません。ですが、日本製鉄瀬戸内に逆転された試合で、私が思っていたよりも選手たちが小さく見えたんです。もちろん、その試合の9回表に無死二塁になった場面、四番の濵田竜之祐であってもバントで一死三塁として、まずは同点という攻撃を徹底できなかった私の責任もある。そうした中で、相手に流れが傾いても何とか引き戻す力を養わなければ、東京ドームでは戦えないな、と感じました」
決戦を前に、鎌田将吾監督はチーム力の充実を感じているようだ。 【写真=松橋隆樹】
そこで、主将の橋本和樹ら選手の代表と話した上で、鎌田監督が選択したのは1か月にわたる限界に挑む走り込みだった。
「もう負けたくないという地獄を味わい、それで反発心を引き出したかった。私を敵と思ってくれていい。徹底的に走り、ボールを捕り、バットを振る。そこから生まれる自信でしか、選手は、チームは変われないと感じていますから」
選手たちに聞くと、もはや練習ではなく拷問かパワハラの域だったらしい。それでも、1年目から主力を担う武田登生は、こう振り返る。
「大学の頃からドラフト候補と言われ、それほどの自信はない自分とのギャップが苦しかった。都市対抗予選に負けた時は、野球が嫌いになりそうなくらいまで追い込まれましたが、あの1か月を何とか乗り越えたら、ようやく周りの評価に見合った自分に近づけた。本当にいい経験ができました」
また、11年目のベテラン・大畑建人は、この経験をより生かすために必要な取り組み方を教えてくれた。
「勝負事ですから、目の前の試合に勝つために何をすべきかを考えることは大事。けれど、若手にはそこばかりに注力して試合を重圧に感じてしまうのではなく、常に半年後、一年後、その先の自分やチームの姿もイメージしてほしい。機会があれば、僕からも伝えるようにしていますが、先のビジョンを持ちつつ、今日を精一杯やり切ることが、積み重なって本当の力になりますから」
厳しかった夏の成果は……と尋ねると、鎌田監督は笑顔になった。そして、8月26日にアスミビルダーズを迎えたオープン戦でも、最終テストと位置づけた何人かの若手のパフォーマンスに目を細めていた。
昨年まで15大会連続で出場しているとは言え、今回の予選は最短でも3連勝が必要で、負ければ連戦になる厳しさだ。けれど、甲子園では京都国際高が初優勝し、68年ぶりに深紅の大優勝旗を京都に持ち帰った。社会人では、積水化学が1963年の都市対抗を制したのが唯一の日本一である。それから61年、今度は日本新薬がダイヤモンド旗を京都に翻らせる戦いを見せてほしい。
【取材・文=横尾弘一】
【左=紙版表紙・右=電子版表紙】
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