全力を尽くし、全員で戦うのみ 服部年宏監督インタビュー
【©FC.IMABARI】
変わるために伝えたこと
狙っていただけるような賞ではありませんし、私の力は微々たるものです。さまざまなみなさんに支えられながら、選手たちがピッチの中でやってくれた結果であり、感謝しかありません。この賞が、さらにチームが一丸となって、ポジティブに取り組んでいくきっかけになればうれしいですね。
7月末、アシさとでいわてグルージャ盛岡に2-1で勝利し、チームは5連勝、自動昇格圏内の2位で中断期間を迎えました。
連勝しているとはいえ、納得のいく試合は少なくて、厳しい試合も多かったです。だからこそ、この中断期間が本当に大事で、リーグ再開となるFC大阪戦からまた流れを自分たちの物にできるよう、2週間トレーニングを重ねてきました。
この猛暑で、トレーニング開始時間が8時半に早まりました。それでも体力的に厳しいものがあったのでは?
できれば、朝6時からやりたいくらいです(笑)。それでも何とか、必要な強度を保ちながらトレーニングすることができました。
取り組んだのは、何か新しいことというよりも、これまでやってきたことのレベルアップです。自分たちのベースになっているものを徹底する。『連勝中だし、これくらいでいいだろう』ではなく、もう一度、自分たちに何ができるのかに目を向けました。
結果が出ている中での中断期間とあって、ともすると緩みが出かねない。そうならないようにベースを確認し、レベルアップを心掛けました。本当に厳しい暑さの中でしたが、選手たちもしっかり応えてくれています。
現在、チームは5連勝中です。シーズン開幕から4連勝していますが、同じ連勝でもそのときとの違い、変化を感じます。
勝利への執着心が出てきました。勇気といってもいいのかな。リードしていて、『何とか守り切らなきゃ』というだけではなく、『いやいや、もう1点取りに行こうよ』という姿勢が見え始めました。
そうなるために選手たちに伝えたのは、とにかくビビるな、ということです。同点や負けているときは、何とかパスをつないで点を取りに行くのに、逆にリードしたら、なぜかそれを放棄して大きく、アバウトに蹴ってしまう。そうではなくて、ビビらずにやろうよ、ということは求め続けましたね。
特に強調したタイミングはありますか?
SC相模原に勝った後です(第17節〇2-1)。2試合前に松本山雅FCに勝って(第15節〇2-1)連敗を4で止めたけれど、次のFC琉球戦に負けて(第16節●0-1)、まだ自分たちの流れになり切る前の相模原戦でした。試合には勝ったものの、内容に目を向けたとき、このままではいけないと思い、選手たちに伝えました。
【©FC.IMABARI】
競争が活発になり
完全に力負けしたのではなく、自分たちの流れがありながらものにし切れず、それが結果に直結した時期でした。たとえば大宮戦は後半、2-2に追いつくチャンスがあり、そうなれば引っ繰り返す可能性も膨らんだでしょうが、2点目以降が取れなかった。福島戦も先制したもののセットプレーで追いつかれ、さらに1人少ない相手に逆転を許してしまいました。
だからこそ、何か大きくやり方を変えるのではなく、まずは守備の強度を見直して、戻るべきところに戻り、悪い状態から脱することを図りました。そのためにも日々、しっかり練習をするのみでしたね。暑くなる前に、改めて強度の高い練習を行えたことも、大きかったと感じます。
この時期、4バックから3バックに変更したことも効果的でした。
開幕から後ろを4枚でやってきましたが、センターバックがなかなか定まらなかったんですね。シーズンが進んでいけば、こちらからの要求も高くなっていくし、そこから足りないところも出てきます。もちろん選手たちの成長もありますが、そのペースが鈍ったり、調子を落とす時期もあります。そうした停滞していた時期と、連敗が重なってしまいました。
選手たちにも『何とかしないと』と考えすぎているところがあった。市原亮太選手や加藤徹也選手の特徴を考えても、4枚より3枚の方がうまくいきそうだというのもあって、思い切って形を変えました。
3バックになって、前からボールを奪いに行く勢いが増していると感じます。
守備の約束事がだいぶ整理され、定まってきました。人をしっかり捕まえてボールを奪いに行く守備は、もともとシーズン初めから目指しているところです。後ろが3枚になって、よりマークがはっきりすることによって、選手たちも迷いなく、思い切ってプレーできるようになってきました。
4バックから3バックと形が変化するだけでなく、プレーする選手の顔ぶれもさまざまで、実に活気があります。横山夢樹選手、梅木怜選手と高卒ルーキーの若手がグンと存在感を増し、梅木選手が負傷離脱すると、今季加入の弓場堅真選手が右ウイングバックとして新境地を切り開くなど、チームには良い競争がありますね。
4月半ばに先発に定着した怜は、波がありながらも全力でプレーして、チームを外から見ているみなさんにもフレッシュさが伝わっていたと思います。そんな怜に夢樹も刺激を受け、もちろん悔しい思いもあったでしょう。彼なりにがんばり、結果も伴い始めました。まあ、このくらいで満足せず、もっともっとやってもらわないと困りますが(笑)。
FC今治の選手たちは、もともと仲がとてもいい。みんなでワイワイやっていた中から、若い彼らが急激に伸びてきた。それによって、他の選手たちが『あれ?』となって発奮する。そんな効果があったと思います。
弓場選手もJFLから上がって来て、『何とかしなければ』というのがプレーの端々に見えます。(日野)友貴もそうですよね(弓場選手はHonda FC、日野選手はミネベアミツミから今季、完全移籍でFC今治に加入)。その時々で調子の良い選手を起用してきましたが、チーム内にしっかりと競争が生まれています。
【©FC.IMABARI】
強みと武器を増しながら
クロスに対する守備はかなり整理されてきて、成果を感じつつあります。選手も自信を持ってプレーできているのではないでしょうか。
クロスからの攻撃は、さらに高めていきたいですね。意識が強まり、クロスに至る形にもバリエーションが出てきました。これまでは単純に上げていたのが、“一つ中にパスを入れてから”“前に縦パスを当てて戻したところから”と変化がある分、ゴールに近づくことができています。だからこそクロスの精度、ゴール前への選手の入り方をさらに磨いて、しっかり得点に結び付けなければなりません。
この5連勝中、いずれの試合もセットプレーからゴールが生まれています。チームの強力な武器となっていますね。
本当に良く点を取れていますね。特別、練習を多くしているわけではありませんが、ヴィニ(マルクス・ヴィニシウス選手)をはじめ、空中戦に強い選手もいるし、右足の新井光選手、左足の弓場選手と良いキッカーもいます。選手たちもセットプレーを取れば点につながる自信を持ちつつあると思います。継続し、さらにチームの強みにしていければ。
夏に加入した加藤潤也選手、ウェズレイ・タンキ選手がすぐにフィットしたことも、チームにとって大きなプラス材料ですね。
2人とも良いものを持っていますし、何より人間性、取り組む姿勢がいい。タンキ選手はブラジル人選手ですが、実に真面目にサッカーをする。FC今治らしい性格というか、守備の約束事もしっかりやろうとする姿勢があります。中断期間中のトレーニングを通して、彼の特徴を仲間たちもより深く知ることができたでしょう。ここから、どんどん点を取っていってほしいですね。
加藤潤也選手にも、求めるのはゴールの部分です。自らゴールを取り、仲間に取らせる。その一つ、二つ手前のところでは、すでに良いプレーをたくさん見せてくれています。持っている技術は間違いなく高いですから、彼を伸び伸びとプレーさせて、対戦相手を存分に困らせたいです。
リーグ再開から大事な試合が続きます。
“新たにこういうことをやります”ではなく、やってきたことの質、強度をさらに上げていきます。いずれにせよ、全力でプレーするだけ。それに尽きます。走れるだけ走り、全員で戦います。
きれいに、格好よく勝とうとは少しも思っていないですよ。昇格争いは、最後までもつれると覚悟しています。勝つことにこだわって、一試合ずつ臨むのみです。
リーグ再開のFC大阪戦に臨む意気込みを聞かせてください。
まずは、彼らのロングボールにどう対応するか。それからロングスローを含めたセットプレーですね。どのように戦うか、中断期間中のトレーニングでしっかりやってきました。自分たちがどれだけレベルアップしているか、試合で成果を見るのが楽しみです。
攻撃ではFC大阪を押し込み、自分たちの時間を作れるはずです。そこで、どう攻め切るのか。ゴールに向かい、ゴールを奪う姿勢を見せたいですね。自分たちのリズムで試合を進めながら思うように点が入らなくても、イライラして自分たちから崩れないことも、大事になるでしょう。
FC大阪はタフに、シンプルにやってくるところは徹底されています。失点が非常に少ないチームでもある(リーグで5番目に少ない18失点)。彼らがやろうとすることを、どう抑えて、自分たちが何をやるのか。FC今治の特徴を存分に発揮して、ゴールを奪って勝利をつかみます。
取材・構成/大中祐二
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ