「お世話になった地域に恩返しを。“巻き込む社長”、3季目の挑戦」 株式会社マイナビフットボールクラブ 本棒陽一社長インタビュー 前編

マイナビ仙台レディース
チーム・協会

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 杜の都・仙台を本拠地とする女子プロサッカーチーム・マイナビ仙台レディース。昨季は10位と厳しい結果でシーズンを終え、新シーズンは巻き返しを誓う。サッカーはもとより、地域と手を携えて、様々な取り組みを進める株式会社マイナビフットボールクラブの本棒陽一社長(代表取締役 社長執行役員)に、自身3季目となる新シーズンの展望を聞いた。(前後編)

勝敗が動員に影響するプロリーグの厳しさ。確かな軸を作り迎えるシーズン。

―新シーズンが始まりました。本棒社長にとって昨季はどのようなことを感じられたシーズンでしたか?

「プロの試合なので、結果は紙一重の領域なのだなと思っています。プロスポーツクラブは、結果との相関性が高く、影響があるということを感じました。集客について、開幕戦(第1節INAC神戸レオネッサ戦)は5300人を超えました。“たられば”にはなってしまいますが、『あの試合で、勝って勢いがついていたら』というところもあります。勝負の世界なので、その後も勝ちきれない試合が続くとファンは離れてしまう。メディアとのリレーションを作った中でも、スポーツは取り上げられるコンテンツなので、結果が振るわないと取り上げ方も難しい。継続してずっと応援して下さる方々もいますが、興味・関心を持つ層が『見に行こうかな』という気持ちになるため、勝敗やチームの状況は影響すると感じました。頭ではわかっていましたが、改めて実感したところです」

―昨季は、4位で終わった2022-23シーズンから大幅に順位を下げました。厳しい成績でしたね。

「そうですね。僕も含めてですが、もう一段プロフェッショナルな思考を持たなければいけないと感じています。ここで“他責”になってはいけないです。矢印を自分に向けなければいけないという状況がチームとしてもあります。昨季は監督が変わったということもありました。プロチームなので、監督が変わればサッカーも変わる。そういう中でも、“マイナビ仙台レディースとして目指すサッカー”という軸をしっかりと作りたいという思いがありました。そうしたところから4月に社内で『フットボール本部』という組織を作って、そこにチームマネジメントや選手とのコミュニケーションを集約しました。組織という部分では、かなり整備したと思います」

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―組織を整備して、昨季の終盤は立て直しを図りました。

「手応えもありました。チームに関してはフットボール本部を通じて、目指すべきサッカーを選手、スタッフと共有できたということ。それは良い取り組みで、新シーズンを迎えられたと思います。『若い選手を積極的に起用していこう』『ユースの強化を図ろう』という方向性を明示できたと思います。それがどう結果につながっていくかはこれからです。しかし、まだ3年目のチームだからと言い訳をせずにやっていこうと。昨季は外国籍選手を多く入れるなどチャレンジもしましたが、今季は(パク・)ジェアだけですね。文化の違いもありましたし、受け入れる側の整備をもっとしなければいけないと思いました」

―国際色豊かな顔ぶれでした。世界と日本のサッカーやクラブ、選手について、どのように比較されますか?

「世界の女子サッカーを見ていくと、ヨーロッパは急激に力をつけてきている。そこと日本の差を感じることがありました。具体的に言うと、観客動員もそうですし、選手の環境。クラブ内での競争とか、選手がサッカーに取り組むための思考もそうです。なでしこジャパンが世界一になったのが、2011年。その過去の栄光はあるけれども、世界のレベルが上がっている。日本も良いサッカーをしているけれど、勝ちきれない試合もある。レベルアップしていく世界の流れに、日本も乗っていかなければいけないなと感じています。そのためには、各クラブでの日々の練習をどう積み上げていくかが重要だと感じました」

世界や日本中で信頼される、優れた専門スタッフの知見を活かす。

―日々のトレーニングから世界につながるフットボール観を養っていく上でも、昨季4月から始まった株式会社アレナトーレとの連携は続いていくのでしょうか?

「はい。それぞれの専門分野を持つ方が、それぞれの知見を持ち関わる。チームとしてトータルのマネジメントを須永純監督が行っていくということです。チームも“会社組織”のようになっていると思います。これまでは全て監督が行っていくということが当たり前だったと思うのですが、スペインのサッカーを見てみると、チームには各専門分野のコーチがいる。トレーニングメニューを構築する担当がいて、分析専門スタッフがいる。そういう方々のアウトプットを、最終的に監督が判断するということです」

―分析を担当するコーチ兼アナリストの尾崎剛士さんもスペインにいながら、オンラインで仙台とつなぎ、ミーティングをしていますね。

「大変だとは思うのですが、時代的にも、働く場所にとらわれず、その人のスキルやクラブにフィットするかどうかということ優先させることがあってもいいのかな。もちろん、常勤で仙台にいてくれた方がコミュニケーションは取りやすいです。しかし常勤でいてくれる人を探すのか、能力がある方々へ働き方を合わせて力を発揮してもらうのか。尾崎さんのやり方は、他のクラブにはない取り組みです。優秀なスタッフの考え方は、チームにとってプラスになる。そういうことだったらやってみてもいいのかなという、新しい取り組みです」

―世界のどこにいても働くことができるということですね。

「そうです。分業するし、外注する。果たして、チームの運営を考えた時に、すべて常勤スタッフで完結しなければいけないのか?というところに立ち返りました。スペインにいるからこそ、スペインで流れているサッカー観や世界のサッカーを生で体感している優秀なスタッフ。そういう尾崎さんに、我々の試合や練習の映像を見てもらってフィードバックを受けています。尾崎さん自身のインプットも速い。そういう関わり方も良いと思っています」

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―ヘッドオブフィジカルコーチには数々の一流アスリートを支えている中野崇さんを迎えました。

「体の可動域のことなど、個人的に興味があって以前から彼のYouTubeを見ていました。とても分かりやすくていいなと思っていた時に、ご縁があって、今は週に1回定期的に来てもらっています。実際に彼を頼るアスリートも数多くいます。アプローチの仕方や効率的に体を使うという方法、そしてケア。けがをしないためのトレーニングというところが一番ですね。けがをしてしまうとクラブにとって経済的損失は大きい。クラブもそうですが、選手にとっても、現役として限られた期間があります。自分のピークや選手生命という時間は無限ではない。有限の選手生命の中でハイパフォーマンスを出すためのサポートです。日々のケアはあった方がいいし、ユースにもそういう考えが浸透していけばいいなと思っています」

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―プロだけではなく育成年代の選手にとっては、一生ものの財産とも言える知識です。

「世界に羽ばたいたとしても、活躍できる選手になってくれたらいいなと思います。中野さんも本当にお忙しい方ですが、貴重な時間を週に一回、当クラブに費やしてくれる。それはとても大きいことだと思います。僕らのやり方でもありますが、各専門家の意見を集約しながら、良いところを最大公約化して、世界基準のサッカーを目指していこうと。それに賛同してくれたことは大きかったですね」

ーそのような指導体制のベースを作った中で迎える新シーズンです。

「新シーズンにおいてもやるべきことは、昨季の途中までと変わらないと思っています。須永監督の体制になってから積み上げてきたものがよりピッチ上で表現される機会が増えてくればいいなと思っています。サポーターの皆さんや観戦して下さった方からも『後期のサッカーは良くなってきた』というお声を頂きました。僕自身も見ていて変わったと感じましたし、ずっと見ている方も感じてくれていると思います。それが結果につながっていくと良いなと思っています」

企業や自治体、マイナビ仙台レディースに関わる人々を巻き込み、結ぶ役割。

―クラブとして地域と手を組んだ取り組みも、更に広く深くなってきています。自治体、企業、地域との様々な連携がありますね。

「基本的にチーム活動というものはスポンサーの皆様のご支援あって成立していることだと思っています。そういった方々に、僕らの取り組みを通じて恩返しができたらいいなと思っています。昨シーズンは特に、スポンサーさん同士での新しい取り組みができたことも良かったです。具体的に言うと、お米を提供いただいている涌谷町の黒澤ライスサービス様との取り組みもお米を頂くだけではなく、選手たちがお米作りに加わって、試合に来て下さった方々に振舞ったり、酒米で日本酒を作り、その日本酒を藤崎さんで販売して頂いたり。巻き込む輪が大きくなってきたことは良かったです。うちのクラブは東京のスポンサーさんも多いのですが、そうしたスポンサーさんと宮城県の行政が連携するという例も今後出てくる予定です。地域の活性化に寄与し、巻き込む輪が大きくなってきたことも良かったと思います。最初は、当クラブに関わって頂く。そうして、関わる企業や行政をマッチングしていく。マイナビ仙台レディースを起点に、地域の方がより豊かになっていく。そうした恩返しもできるのかなと思っています」

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―マイナビ仙台ならではの取り組みですね。

「そうですね。僕の仕事で取り組んできたことが、そういう『巻き込む力』なんです。株式会社マイナビ自体の企業理念にもあるんですが、パーパス(存在価値)の中に『つなげる力と巻き込む力』というものや『ウェルビーイング』があります。そうした大切にしている価値観を、マイナビフットボールクラブの活動が体現しているという形。それも投資活動の一つです。プロスポーツクラブとして、強く大きくなっていくということはもちろん大事ですが、『なぜ、マイナビグループがサッカーチームを持つのか?』というところの存在意義を表現できたらと思っています」

株式会社マイナビが掲げる「企業理念」。その「存在価値/パーパス」はマイナビ仙台レディース運営のベースになっている。

―地域の中でのマイナビ仙台レディースの役割ですね。「場」にもなるし、つなぐための「力」にもなる、と。

「ベースとしては、関わる皆さんのための“利他”の精神。もう一歩、次に進んだ時に、恩返しの気持ちを、つなげたり、巻き込んだりして、より関わってくれる方たちが豊かになってくれればいいなというところです。行政の方々のところに、民間の僕らのような企業が関わることで、新しい考え方やアイディアが生まれてくることもあります。上手くいけばいいなと思っています」(後編へ続く)

(マイナビ仙台レディースオフィシャルライター・村林いづみ)

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著者プロフィール

東日本大震災により休部した東京電力女子サッカー部マリーゼが移管し、2012年ベガルタ仙台レディースが発足。2017年に株式会社マイナビとタイトルパートナー契約を締結しマイナビベガルタ仙台レディースとなりました。 2020年10月にWEリーグへの参入が正式決定。2021年2月より「マイナビ仙台レディース」とクラブ名を改め、活動をスタート。選手達の熱いプレーが多くの方に届くような盛り上がりをともに作っていきます。仙台、東北から日本全国、全世界に向けて、感動や勇気を与え、WEリーグ優勝を目指し活動しています。

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