【Beyond the Spotlight】コベルコ神戸スティーラーズ フィル・ヒーリーヘッドアスレティック パフォーマンスコーチ
選手に寄り添いながら、最大限に能力を引き上げていくことが仕事
2023-24シーズン、チームに加わり、2年目のシーズンに突入した。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
コンディショニング面の成長には満足している
「どの選手もフィットネスレベルが上がり、体のサイズも大きくなってパワーアップし、選手のハードワークが実りました。どの数値を見ても、一昨年を上回ることができたことは、私にとっても自信になります。なにより選手たち自身が目標をクリアするために何をしなくてはいけないのか理解が深まったことは、S&Cコーチとして嬉しいですし、達成感を感じるところです。オフシーズン中は、選手一人ひとりに設定された目標数値をクリアするために、個人でトレーニングに取り組まないといけません。昨シーズン学んだことを活かして、選手はしっかり自主トレーニングに励んでくれていることと思います」
――基本的なことになりますが、S&Cコーチの仕事とはどのようなものなのでしょうか。
「ヘッドコーチの目指すラグビーをグラウンドで体現できるよう、トレーニングメニューを作成して選手を指導し、フィジカル、フィットネスを強化していくことです。ヘッドコーチをはじめとするコーチ陣、メディカルスタッフたちと連携しながら、選手の能力を最大限に引き上げることが仕事です」
――昨年のレニーヘッドコーチの就任記者会見の時に、ラグビーとジムで行うプログラムがつながっていないといけないと言われていました。
「そうですね。選手はラグビープレーヤーです。ラグビーをするために体作りを行う必要がありますから。ラグビーに直結するトレーニングを行わないといけません。常にその部分は意識しながら、トレーニングメニューを作成しています」
来日を決めたのはレンズの存在も大きかった
「チーフスでヘッドS&Cコーチを務めていた時から、ハイパフォーマンス・パートナーシップを締結する神戸製鋼コベルコスティーラーズ(当時)のことはよく知っていました。素晴らしいチームで、才能ある選手が揃い、スタッフも能力が高いことを理解していました。それが来日を決めた理由の1つです。もう1つは、チーフスとグラスゴー・ウォリアーズで一緒に仕事をしたレンズ(デイブ・レニーディレクターオブラグビー/ヘッドコーチ)の存在です。6年ぶりに彼と一緒に仕事ができることは私にとって喜びでした。そして、最後の理由は新しい環境で家族にいろいろな経験をしてほしいと思ったからです。特に2人の子供には、ニュージーランドとは違う文化を楽しんでもらいたいと思いました」
――レニーヘッドコーチの存在も大きかったんですね。
「S&Cコーチとしてターニングポイントになったのが、チーフスで指導したことでした。特にスーパーラグビーで連覇した2012年、2013年は、当時ヘッドコーチを務めていたレンズが私のことを信頼してくれたこともあり、ヘッドS&Cコーチとしてクリエイティブなプログラム作りに取り組むことができました。そのお陰でチームのフィジカル、フィットネスが向上し、スーパーラグビーのチャンピオンという成功を収められたことは私にとって素晴らしい経験になりました。20年以上プロラグビーの世界に関わっていますが、レンズは間違いなく最高のコーチの1人です。レンズは、チームに関わる選手、スタッフ全員のことを理解し、さらに気遣いもできます。もちろんラグビーの知識も深く、ワールドクラスのコーチング能力を持ったリーダーです。彼と再び一緒に仕事ができることが嬉しかったですね」
――ご家族のことも理由にあげられていましたが、奥様やお子さんは日本での生活を楽しんでいますか。
「言葉の壁があって、来日当初は環境に馴染むことができなかったのですが、今は妻も子供たちも友人ができて、日本での生活を大いに楽しんでいます。私も家族も1日30分、欠かさず日本語を勉強して、少しずつ言葉を学んでいるところなんですよ」
――コーチとして日本で指導する上で難しさはありましたか。
「日本人選手やスタッフに対しては言葉や文化の違いがあり最初は難しさを感じましたが、ラグビーは、ヨーロッパであっても日本であっても同じです。ラグビーはラグビーですから、やることは変わりません。チームの目指すラグビースタイルをグラウンドで体現できるようトレーニングを行うだけです」
デイブ・レニーディレクターオブラグビーが目指すラグビーを体現できるよう、フィットネス、フィジカルを鍛える。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
今シーズンはクリアすべき目標数値がさらに高く
「よりフィットネスを高め、強い身体を作ることですね。特にふくらはぎ、太もも、股関節周りの強化は運動強度の高いラグビーをする上で大切な要素ですし、怪我の防止にも直結しますから、すぐに着手しました」
――選手の印象はどうでしたか。
「どの選手も新しいプログラムに意欲的に取り組んでくれて、姿勢が素晴らしいと思いましたね」
――オフシーズンに、選手一人ひとりに設定されるフィットネス、フィジカルの目標数値がかなり高いと聞きました。
「私自身は高いと思っていません。昨シーズンも『ハード過ぎる』という声を聞きましたが、選手たちが思っているフィットネス、フィジカルのレベルでは『戦うことができない』ということに気づいてもらわないといけなかった。皆がハードワークして数値をクリアできたから、昨シーズン、順位を4つ上げることができました。今シーズンは、1年間共に過ごしてきた選手がほとんどですし、彼らのことをよく理解した上で、さらにターゲットがタフなものになっています。選手によっては、サイズアップの設定が高かったり、スピードのターゲットが厳しかったりしますが、1シーズンを経て、昨シーズン以上に個人に合わせた目標を作れたと思いますね」
――1シーズン日本でコーチを務めて、ヒーリーコーチ自身、収穫はありましたか。
「S&C部門には、日本人コーチ、メディカルスタッフがいます。彼らから学ぶことも多いですし、逆に言えば、彼らも私のやり方から学ぶことがあると思います。彼らと一緒に日本とニュージーランドのやり方をブレンドしたトレーニングプログラムを作成しているのですが、日本人の筋肉量の増やし方やサイズアップの仕方が外国人選手とは違う面があって学びになりましたし、日々、何かしら収穫がありますね」
――昨シーズンは抜き打ちでスキンホールド(皮下脂肪)の測定をされたりしていたそうですね。
「引き締まった体を作ることは選手たちのスピードやフィットネス向上を図る上で重要です。それにグラウンドの外でも高い意識を持って日々の生活を送っているかを確認するためにも大事な要素ですから、スキンホールドの測定は今シーズンも定期的に行っていきます」
常に全選手が試合メンバーのセレクションに入ることができるように
「選手と信頼関係を築くことです。選手によってはグラウンドの外で起きていることがパフォーマンスに影響していることもありますので、それを聞き出してあげて、どうやって解決していくのか考えていく。そうやって何でも言える関係を築くことを大事にしています。また、選手から意見や質問をされることを臨んでいないコーチもいますが、私はそうではありません。選手自身がトレーニングに対して、しっかり理解した上で取り組みたいと思っているから質問してくるのだと思います。特に成功しているベテランは、トレーニングにおいても自分のやり方があります。そういう意味では、ヤンブー(山下 裕史)はよく質問してきます。シーズン前に目標数値を提示した時もすぐに連絡してきました。最初は無理だと言っていたのですが、最終的に彼はすべてのターゲットをクリアして、これまでにないくらい体の状態は良いです。彼とは、チーフスでプレーしていた時からの仲ですし、すでに信頼関係が築けていることもありますが、実際にトレーニングするのは選手ですので、説明して取り組んでもらって成果を見せて、信頼を得ていかなければいけません」
――今シーズンも期待しています。では最後にS&Cコーチとして2024-25シーズンの目標をお願いします。
「チームとしては、昨シーズン、達成できなかったプレーオフトーナメント進出、そして、その先にはリーグワンのタイトルを取ることが最終的な目標です。S&Cコーチは、その目標に向けて、選手が高いフィットネスレベルを持ち、力強く、速くあり続けられるようにしていかなければいけません。そういう選手が多ければ多いほど、チームにとってはプラスですので、S&C部門としては、怪我人が出ることなく、常にすべての選手が試合メンバーのセレクションに入ることができるようにすることが目標です。そういうシーズンになるよう全力で取り組んでいきます」
ほかのS&Cコーチ、メディカルスタッフと連携しながら強化を進めている。「最高のスタッフたちと良い仕事ができていますね」とフィル・ヒーリーヘッドアスレティック パフォーマンスコーチ 【コベルコ神戸スティーラーズ】
取材・文/山本 暁子(チームライター)
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