【東芝ブレイブルーパス東京】NTT LEAGUE ONE 2023-24 PLAY-OFFS「STORY of FINAL(後編)」

チーム・協会

【東芝ブレイブルーパス東京】

14年ぶりの景色

 赤い歓喜が、弾けた。
 5万6千人を超える観衆が詰めかけた国立競技場で、東芝ブレイブルーパス東京はNTTジャパンラグビー リーグワン2023-24の決勝を制した。埼玉ワイルドナイツを、24対20の僅差で退けた。
 表彰式とウイニングランを終えて、トディことトッド・ブラックアダーHCとキャプテンのリーチ マイケルが記者会見場に姿を見せた。メディアの拍手に包まれながら、ふたりはマイクの前に座った。
 トッドHCは「本当に最高の瞬間を、キャプテンのリーチと共有できることをうれしく思います。これ以上誇りに思うことができないぐらい、チームのことを誇りに思います」と喜びを表現した。
 リーチは試合終了からここまで、喜びを爆発させていない。自身も「もっと『よっしゃあ!』という感じになるのかと思っていましたが」と苦笑いした。もちろん、喜びのバロメーターはきちんと反応している。
「シーズンを通して多くのファンが応援してくれたことに、すごく感謝しています。トディのもとで5年間、努力を積み重ねてきて、やっとトロフィーを持ち帰ることができるので嬉しく思います」
 ここ数日は、取材のたびに「優勝したい」と言葉に力を込めた。同時に、一度限りにするつもりはなかった。チームにとって14シーズンぶり、自身初の日本一を手にしたばかりでも、リーチは次を見据えた。
「これから継続できるようにしないといけないです。メンバーの入れ替えもあるなかで継続できるように、レガシーを残していきたいです」
 司会者が記者会見の終了を告げると、トッドHCが「ひとつ言わせてください」とマイクを握った。メディア、リーグワンの関係者へ感謝を伝えたのだ。質疑応答では、埼玉WKへの称賛も口にしている。
 待ち望んだこの瞬間にも、他者を尊重する。感謝の念を忘れない。それこそが、東芝ブレイブルーパス東京の文化である。

【東芝ブレイブルーパス東京】

 記者会見が終わると、ミックスゾーンと呼ばれる取材エリアに選手たちが姿を見せた。シャワーで汗を洗い流し、スーツに着替えても、身体は興奮に包まれているのだろう。上気した表情が並ぶ。
 在籍13年目の三上正貴は、キャリア初の日本一である。
「そのために東芝ブレイブルーパス東京に入ったんですけど、なかなかなることができなくて」
 22-23シーズンの『物語りVol.16』で、三上は夢見る景色として日本一になることをあげている。その瞬間にグラウンドに立っていたい、スタンドを見上げたいとの願いを、ついにかなえることができた。
「僕らを応援してくれるみなさんは、スタンドで抱き合っているのかな。それとも、泣いているのかな。物語りの取材でそんなことを話したんですけど、まさにそんな感じでした」
 在籍3年目の松永拓朗は、試合終盤に両足が攣っていた。それでも、最後まで戦い抜いた。
「楽しめました。いいプレーが出たら、スタジアムがブワアッと盛り上がって。これまで味わったことのない歓声、初めてと言っていいぐらいの観衆で、すごいなあと思いながらプレーしてました」
 興奮と感動に包まれながら、感慨にも浸っている。
「このチームで戦えるのは、これが最後です。今シーズン限りで勇退するメンバー、移籍するメンバーがいると思うので、このメンバーで優勝できたというのが、僕はすごく嬉しいんです」
 在籍4年目の桑山淳生も、「すごく嬉しいです」と切り出した。今シーズンはプレーオフ2試合を含めて13試合に出場し、7つのトライを記録した。いずれもキャリアハイの成績である。
「決勝もいつもどおりの感覚で臨むことができました。メンバーもK9も含めて、チーム全員でつかんだ勝利だと思います」

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 バイスキャプテンとしてチームを支え続けた原田衛も、たくさんの記者に囲まれている。24日の練習後に「リーチさんを日本一にしたい」と話した在籍2年目の25歳は、「ホント嬉しいです。一番嬉しいです」と何度も頷いた。
「リーチさんの頑張ってるところしか見ていないので、何としても優勝させなきゃ、と思っていました。リーチさんと一緒にやれるのもそんなに長くはないだろうし、日本一になるチャンスがそんなにたくさんあるわけでもないので、優勝できてホントに嬉しいです」
 優勝の要因を聞かれると、「リッチー・モウンガとシャノン・フリゼルでしょう」と答えた。オールブラックスのふたりの存在感は、グラウンド内外で発揮されていた。
「リッチーがクルセイダーズでずっと優勝してきたのは、本当に理由がある。この1年間を通して、そう感じることができたので」
 原田が名前をあげたフリゼルは、「正直、疲れました。いまはビールが飲みたいです」と言って周囲の空気を和ませた。
「このチームに合流してすぐに、素晴らしい文化があると感じました。影で頑張ってくれた選手、スタッフがいました」と語り、シーズン開幕前にモウンガとかわした約束に触れた。
「ラグビーW杯の期間中に、リッチーと2人で『W杯で優勝して、東芝ブレイブルーパス東京でもリーグワンで優勝できたら最高だね』と言ってたんです。でも、W杯は決勝で負けてしまったので、『この負けを忘れるためにも、早くブレイブルーパスに合流して優勝しよう』と話したんです」
 ミックスゾーンのあちらこちらで、東芝ブレイブルーパス東京の選手が足を止めている。2つのトライを奪い、優勝を決めるジャッカルを成功させたジョネ・ナイカブラも、絶えず質問を受けていた。プライベートではシャイな男は、声量が控え目だ。
「あのジャッカルの場面では、幸運にも自分があの場所にいることができました。試合の序盤は自分たちのミスで苦しい時間がありましたが、そのなかでも下を向くことなくポジティブに、お互いのために身体を張る気持ちが切れなかったのが勝因かなと」

【東芝ブレイブルーパス東京】

 あの人も、一緒に戦っていた。
 20年9月に急逝した湯原祐希さんの写真を、橋本大吾が表彰式で力強く掲げた。橋本自身は準決勝、決勝と、「2 YUHA never leave us」と刻印されたリストバンドをはめてプレーしている。
「あの写真はクラブハウスの2階に飾ってあるもので、スタッフの方が持って来てくれたんです。僕はユハさんに育ててもらったというのがあって、この国立にユハさんを連れてきたかったという気持ちもありました。優勝はもちろん嬉しいんですけど、ユハさんとともに、という気持ちがホントに強かったです」
 ユハさんの愛称で親しまれた心優しいOBは、チームに関わる人々の心で生き続けている。橋本の声が、ほんの少し潤んだようだった。
「ユハさんのご家族と一緒に、写真を撮ることができました。それが今日一番嬉しかったというか、ホントにやっとこの日を迎えることができた、という感じです」
 すべての選手がミックスゾーンを通り過ぎ、チームバスが出発する。東芝ブレイブルーパス東京の歴史に、新たな1ページが刻まれた。

【東芝ブレイブルーパス東京】


■5月27日(月)NTTリーグワン2023-24 アワード
 翌27日午後、東京都心のホテルで「NTT ジャパンラグビー リーグワン 2023-24 アワード」が開催された。シーズンを締めくくるイベントの主役は、もちろん東芝ブレイブルーパス東京だ。
 モウンガはMVP(D1)、ベストフィフティーン、選手が選ぶプレーヤー・オブ・ザ・シーズン(D1)を受賞した。MVP受賞のコメントでは、「私がラグビーをしているのは父の影響が大きい。この賞を亡くなった父に捧げたい」と、家族への愛を明かした。
 ベストフィフティーンにはモウンガに加えて木村星南、原田衛、ワーナー・ディアンズ、フリゼルが選出されている。ディアンズは2シーズン連続2度目で、彼以外の4人は初受賞だ。また、トッドHCが優秀ヘッドコーチ賞(D1)を受賞した。
 アワード後に取材に応じたモウンガは、「昨日の夜はお祝いをしました。みんなでお酒を飲んで、笑って、歌って、踊って」と、穏やかな表情を浮かべた。使命感や責任感といったものから解放されたようだが、そこはクルセイダーズでスーパーラグビー7連覇を成し遂げた男である。勝利の余韻に浸りながらも、別の思考回路を起動させていた。
「連続して勝つためには、同じことをやるだけでは足りません。進化することで勝ち続けられることは、クルセイダーズで経験しました。固定概念にとらわれることなく、クリエイティブに何かを変えていく。1回のタイトルでいいのか、もっと欲しいと思うのか。それはホントに、私たち自身にかかっています」
 思考を切り替えているのは、モウンガだけではない。ベストフィフティーンを受賞した原田は「ホントに嬉しい。なかなか獲れるものではないし、周りの選手を見てびっくりしました」と素直な喜びを表わしつつ、「来シーズンまた選ばれるように」と意欲を隠さない。「そのためにも、ワークレートはまだ上げられる」と、すぐに課題をあげた。
 原田と同期入団の木村も、「昨日の試合を終えて、表彰されて、いまじわじわと優勝したことを実感しています」と話し、「でも」と言葉をつないだ。姿勢を正してから続ける。
「ここからが、次のシーズンが、大事になってくる。色々なチームから、追われる立場になると思うんです。そのなかでリーグワン連覇を達成するために、またイチからやっていきたい」
 チームの底上げを促した若手や中堅について、リーチは「試合に出たいという意欲が強く、練習量が素晴らしい。本当に練習量はすごく多くて、向上心をすごく感じます」と感心する。そして、10シーズンぶりにキャプテンに就任し、チームを14シーズンぶりの日本一へ導いたリーチ自身も、向上心を燃やしている。
「今年1年、チームのなかでだいぶ成長できたと思う。何をしたら強くなるのかが分かったし、僕自身も向上心が強いのでまだまだ頑張りたいですね」

【東芝ブレイブルーパス東京】

 5月26日に国立競技場でつかんだ成功体験は、連覇という新たな目標へ向かうチームの支えとなる。苦しい練習を乗り越えた先に何が待っているのかを、選手たちは知ったのだ。頑張らないはずがない。まだできる、もっとできる、あと一歩、もう一歩、といったメンタリティに貫かれていくはずだ。
 東芝ブレイブルーパス東京は、もう、次の歴史へ向けて動き出している。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

【東芝ブレイブルーパス東京】


今シーズン、東芝ブレイブルーパス東京に大きなご声援をいただいた多くのファンの皆様、ならびにご支援いただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
来シーズンも何卒よろしくお願いいたします。
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著者プロフィール

東芝ブレイブルーパス東京はジャパンラグビーリーグワン(Division1)に所属するラグビークラブです。日本代表のリーチマイケル選手や德永祥尭選手が在籍し日本ラグビーの強化に直接つなげることと同時に、東京都、府中市、調布市、三鷹市をホストエリアとして活動し、地域と共に歩み社会へ貢献し、日本ラグビーの更なる発展、価値向上に寄与して参ります。

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