【物語りVol.112】SO リッチー・モウンガ「ピークがいつなのか分からないからこそ、明日はまた今日よりも良くなろうと」

東芝ブレイブルーパス東京
チーム・協会

【東芝ブレイブルーパス東京】

東芝ブレイブルーパス東京では、多くの皆さまにクラブのことをより知っていただくために、今シーズンもライターの戸塚啓さんにご協力いただき、選手・スタッフ一人ひとりの「物語り」を発信しています。
※本記事で、2023-24シーズン新加入の選手の物語りは最終回となります

【物語りVol.112】SO リッチー・モウンガ

 ワールドクラスのタレントでも、ラグビーをはじめたきっかけはごく普通のものだ。リッチー・モウンガは、穏やかな表情で語り始める。
「ふたりの兄がラグビーをやっていて、いつも彼らの練習についていっていました。自分がボールに触れる以前から、ラグビーが好きだったのです。地元のクルセイダーズをずっと見ていたので、そこでプレーするのが目標になりました」
 小学生年代で才能に目覚めた。
「自分が周りより優れているのかもしれない、もしかしたらラグビーがうまいかもしれないと思ったのは、10歳から12歳ぐらいのタイミングで、地元のクライストチャーチの選抜チームに選ばれたのがきっかけでした。相対的にうまいのかもしれない、と気づきました。自分ができるかできないかではなく、クルセイダーズでプレーすると決めていたので、その思いのほうが強かったのですが」
 高校卒業後はカンタベリー州の代表選手となり、16年にクルセイダーズのスコッド入りを果たす。子どもの頃からの夢を実現させると、モウンガは違う景色を追い求めるようになる。
「クルセイダーズでプレーするようになってからは、スーパーラグビーで優勝することが目標になりました。それを達成できたら、何度も優勝をして、チームにレガシーを残す10番になりたいと。そんな可能性を思い描きつつ、あるタイミングからは『自分にもオールブラックスで戦えるだけの力があるのかもしれない』と考えるようになりました」
 果たして、有言実行のキャリアが築かれていく。17年にスーパーラグビーで優勝すると、東芝ブレイブルーパス東京入りする23年まで、驚異の7連覇(!)を達成したのである。
「何度も何度も優勝していったのは、チームのカルチャーが大きかったと思います。チームが大事にしているものを全員が理解して、全員が日々体現しようとしていました。もうひとつあるとすれば、いいコーチといい選手が揃っていました」
 クルセイダーズが常勝チームになり得たのは、勝利への飽くなき欲求を持続したからだろう。チームを貫いていたメンタリティを、モウンガが明かす。
「毎年、毎年、コーチ陣が『次はこれを証明するぞ、次はこういうことができるんだと世界に見せるぞ』と、違うものを提示してくれました。それに対して我々選手たちは、『確かにそうだな、そこへ向かっていきたいな』と思うことができました。毎年目ざすものがあったので、もっとハングリーに、もっともっとハングリーにという気持ちになり、勝っても満足することはなかったのです」

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 とはいえ、クルセイダーズのようなチームでも、モウンガのようなワールドクラスの選手でも、いつでも追い風を受けるわけではない。逆風にさらされる試合や場面はあり、そこでの対処法こそが彼らの真髄と言っていいのだろう。
「うまくいっていないときこそ、試合へ向けた1週間の準備がしっかりできているのかを、見つめ直すようにしています。自分のポジションでも色々なプレーがあるなかで、特定のプレーがうまくいってないのだとしたら、いったん全体をフラットに見て、一週間を通してそこに意識を向けていく。自分なりに振り返って、見つめて、修正していきます」
 修正能力は試合中にも問われる。その裏付けとなるのも、日々の練習だ。
「こういうシチュエーションだったらこうしようといったことを、1週間の練習でイメージしています。試合中にうまくいっていないとか、流れが悪いなと感じたら、練習中に思い浮かべていたものを記憶のなかで呼び覚ます。『こういうときはこうしようと考えていたな』というものを、プレーに反映させるようにしています。それからもうひとつ、試合中に流れが悪いときは、自分の呼吸に意識を向けるようにしています」
 呼吸を意識的に整えることには、身体の緊張を緩めたり、心拍を安定させたりする効果がある。モウンガが息づかいに着目するのも、身体の内部から心身を整えるためだ。
「呼吸が早過ぎたら、何かストレスを覚えている、身体の奥のほうが固まっている、といったことなのでしょう。そういったものから身体を解き放つために、ゆっくりと呼吸をして、気持ちをリラックスさせて、頭をクリアにして、という作業を試合中にしています」

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 クラブレベルではずば抜けた成績を残してきたが、オールブラックスでは悔しさを噛み締めた。19年と23年のワールドカップに出場したが、3位と準優勝に終わったのだ。
「ラグビー界最高峰の舞台で、2回とも優勝に届かなかったのは、もちろん残念で悔しいです。けれど、そういう経験がいまの自分を作っていると、ポジティブにとらえることもできます。頑張って、頑張って、全力を尽くしたけれど目標に届かなかったというのは、ワールドカップに限らずどんな場面でも、いつでも起こりうるでしょう。そのひとつでしかないと言うのはちょっと語弊がありますが、頑張ったけれど届かなかったので、いま振り返っても悔しさに震えるようなことはないのです。どちらかと言えば、スッキリとしています」
 モウンガの気持ちが澄んでいるのは、新たなチャレンジに胸を躍らせていることも理由にあげられるだろう。東芝ブレイブルーパス東京に合流後、ピッチの内外で模範となっている。プロフェッショナルにふさわしいスタンダードは、日本人選手の最高のお手本だ。
「自分自身も若いときは学ぶことの多い立場で、いまこうして知識や経験を伝えられる立場にいるのは、ものすごく恵まれていると思います。誰でもできることではないので、感謝の気持ちを忘れないでいたいですね。色々な人からアドバイスを求められたとしても、自分自身を過大評価したり、自分を見失ったりしないように、謙虚な気持ちを忘れずにいます。日本人選手との関わりによって、自分自身も刺激を受けていますし」
 東芝ブレイブルーパス東京の一員として過ごす日々を、リッチーは両手で包み込むように大切にしている。一期一会の出逢いを、愛おしむ。
「誰かに何かを求められるのなら、できる限り対応したいのです。たとえば、子どもにサインを求められたら、きちんと書いてあげたいですよね。自分もサインをもらった経験がありますので、子どもたちに夢を与えられる存在でいたいです」

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 東芝ブレイブルーパス東京では、「できる限り長くプレーしたい」と公言している。「リーグワン優勝を成し遂げたい」と力強く話し、「チームの強化に貢献したい」と続ける。
「自分の経験や知識が選手たちの役に立つのなら、最大限伝えて、彼らのこれからのキャリアにポジティブな影響を与えられたらと思います」
 もちろん、自身も成長を止めるつもりはない。さらなるレベルアップに瞳を輝かせる。
「10番の選手は色々な相手と対戦して、この相手はこうしてくる、この相手はこういう見方をしてくると情報を蓄積していきます。そういう学びに終わりはないので、毎週、毎週、学びながら知識の解像度を上げていくイメージです」
 29歳はキャリアの円熟期と言っていいだろう。それでも、彼自身のキャリアデザインにはまだまだ余白がある。
「現時点の自分が、過去のどのタイミングの自分よりいいプレーヤーであることを願っています。同時に、キャリアのピークがいつなのか分からないことも、選手としての美徳かなと思っています。ピークがいつなのか分からないからこそ、明日はまた今日よりも良くなろうと、働きかけることができますので」
 モウンガの思い描く夢は、ファンの夢でもある。
 モウンガの歓喜の雄叫びは、ファンの心の叫びでもある。
 ファンの思いを胸に込めるモウンガに、戦おののきはない。東芝ブレイブルーパス東京のために、自らを奮い立たせるのだ。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

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東芝ブレイブルーパス東京 試合情報

5/19(日)に行われたプレーオフトーナメント準決勝を28-20で制し、決勝戦進出を決めました!
決勝戦は5/26(日)に国立競技場にて埼玉ワイルドナイツと対戦します。
今シーズンリーグ戦で唯一敗戦したチームとのリベンジマッチとなりますので、ぜひ会場で皆様のご声援をよろしくお願いします。

【試合情報】
NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 プレーオフトーナメント 決勝
埼玉ワイルドナイツ(リーグ1位) vs 東芝ブレイブルーパス東京(リーグ2位)
日時:5/26(日)15:05キックオフ
会場:国立競技場(東京)

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著者プロフィール

東芝ブレイブルーパス東京はジャパンラグビーリーグワン(Division1)に所属するラグビークラブです。日本代表のリーチマイケル選手や德永祥尭選手が在籍し日本ラグビーの強化に直接つなげることと同時に、東京都、府中市、調布市、三鷹市をホストエリアとして活動し、地域と共に歩み社会へ貢献し、日本ラグビーの更なる発展、価値向上に寄与して参ります。

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