【BCC/野球指導者講習会レポート】 ビジネス界で活躍する元アスリートたちが持っている3つの共通項〜Player Development Program 後編〜

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1月20日・21日の2日間、2023年度の野球指導者講習会 (BASEBALL COACHING CLINIC)が行われた。

年に一度行われる本講習会では、実技から栄養・メンタル面といった全9項目をテーマに講義やパネルディスカッションが開催された。

本編では一つ目の講義である「Player Development Program(以下、PDP)」を2回にわたり特集する。
(文:白石怜平)

※前後編の後編

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3つの共通項を身につけるそれぞれのヒント

ここからは、前編で挙がった「ビジネス界で活躍する元アスリートが持つ3つの共通項」をどのように身につけていくのか。大浦氏はそれぞれ具体事例を挙げながらそのヒントを明かしていった。

本記事では、いくつか挙げられた中での一部を抜粋して紹介する。まずは非認知能力について。ここでは、05年に千葉ロッテマリーンズを日本一に導いたボビー・バレンタイン監督の采配に注目した。

「この年ロッテは125通りのスターティングメンバーのオーダーを組みました。その日球場に行くまで誰がスタメンか分からない。なので、ベンチ入りの選手全員がスタメンや出場の可能性があります。

これにより、いつでも試合に出られる準備をする意識や、『野球は9人だけではなく、チーム全員でやる』という意識を持たせることで底上げを図りました。これらは非認知能力を高めるヒントとも言えます。」

3つの共通項についての事例を説明した大浦氏 【©BFJ】

続いてはポータブルスキル。ここでの一例として、データを常に意識することが後のキャリアにつながると説いた。

日本では古来から手堅いとされる戦略の送りバント。しかし、日本経済新聞において、近年では合理性に欠ける戦略であると掲載されていた。

この記事では、損益分岐点(=ここでは、バントをする打者の打率)が、1割3分未満であればバントは有効だが、打率がそれ以上である場合は強攻策であることが得点の確率が高いことを示した。

合わせてデータ化が進んでいるMLBでのバント使用数についてNPBと比較し、NPBは8倍あることを示していた。これを踏まえ大浦氏は、

「この送りバントのケースでは、戦略が合理的か否かをデータや前後の比較で考えられる癖をつけておくと、これは社会に出たときに役に立ちます」と補足した。

こうして常にデータで判断できる思考法を身に着けることもポータブルスキルと言えます。

最後は希少性。野球における捕手をクローズアップした。

野球のポジションで人気・花形とされるのは投手や遊撃手が選ばれる。子どもたちが野球を始める時に、「捕手をやりたい!」と希望するケースはあまり多くないイメージがあるのではないか。

ただ、大浦氏は「世の中で活躍している人を思い浮かべてみると、キャッチャーが多かったり、サッカーですとディフェンダーやボランチが多い事は想像つきますでしょうか。キャッチャーは唯一仲間と逆方向を見て守る。この視点の違いこそこれが希少性です」と語る。

また、成長過程においてのプロセスにおいても社会で活躍する人材になるためのヒントが隠されていた。

キャッチャーの持つ能力と希少性はビジネスでも大きな力になる 【©BFJ】

「キャッチャーに怒られてしまうかもしれないですが野球ではピッチャー、サッカーではエースストライカーになりたいと思って始める子が多いと思います。ですが、競技レベルが上がっていくと、通用しなくなってくる現実に当たる場合もありますよね。

もしそうなったとき、自分の活かしどころが分かってきます。想いが叶わなかった時に、腐らずに気持ちを保ちながら、自分の特性を見出して活躍できる人、物事の視点を変えるスタンスを持つこともつながります」

指導者が持つべき視点とは?

講義最後のトピックは”指導者が持つべき視点”について。
ここでは数々の視点が他競技での事例とともに解説が行われた。先にまとめから示すと、大浦氏が提示した指導者が持つべき視点は以下の5つ。

指導者が持つべき5つの視点 【©BFJ】

この一つ一つを計算式や絵、漫画の例を挙げながら補足を加えた。本章では事例を絞って2つ紹介する。

まずは自己効力感、自己肯定感を鍛えるについて。大浦氏はキャリア形成全般で重要視されている”強み”・”弱み”について触れた。

ここでの結論は、「強みを伸ばすことに勝るものはない」と言うことである。
自分の強みとは何か。それは「勝負するべきポイントがどこなのかを考えること」と大浦氏は説いた。そしてヨットを例に用いて指導者に必要な考え方を伝えた。

【©BFJ】

「弱み=穴を埋める最低限の修復は行うべきですが、ヨットが速く進むにはどれだけ大きく帆を張れるかどうかです。そのために”強みは何か”にフォーカスをする指導が必要とされています」


2つ目は”好きを大切にする”。大浦氏は中動態の世界を例に用いた。

人には、主体的・積極的にやる能動態とやらされている受動態との間に中動態があるとされている。私なりの解釈では中動態とは、「気づいたら自然とやっている」感覚のことをいう。もっと言えば「無我夢中でやっている」ことともいえる。

野球という大好きなものに出会えている子どもたちを中動態に位置している状態とすると、そこにミッションやビジョンを持つと意識的に動くため能動態へと変わる。

大好きで自然に夢中になっている状態がベストである 【©BFJ】

能動態もとても大事であることを踏まえながら、さらに大切なこととして以下のように続けた。

「夢中に勝る努力はないです。子どもたちが何よりも大好きと思っている野球をそのまま大好きと思い続けられることが、最も競技レベルが上がる要因です。
こちらから何も言わなくても自然にやっている。”好き”と言う感覚で中動態の世界を作り続けられることが、指導者の皆さんに課せられた使命ではないかと思います」

約一時間にわたり行われた講義の最後には、今回伝えた数々のポイントを、「日々のちょっとした意識」を持って臨んでいただけたら嬉しいと語り、締めた。

(おわり)
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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