【天皇賞・春】テーオーロイヤルとともに叶えた20年越しの夢、菱田騎手「あの日の自分にありがとう」

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天皇賞・春は菱田裕二騎手騎乗の1番人気テーオーロイヤルが勝利、人馬ともにGI初勝利となった 【photo by Shuhei Okada】

 JRA春競馬伝統の一戦、第169回GI天皇賞・春が4月28日(日)に京都競馬場3200m芝で行われ、菱田裕二騎手騎乗の1番人気テーオーロイヤル(牡6=栗東・岡田厩舎、父リオンディーズ)が優勝。好位4番手の追走から最後の直線で堂々抜け出す横綱相撲で初のGIタイトルを奪取した。良馬場の勝ちタイムは3分14秒2。

 今回の勝利でテーオーロイヤルは通算18戦8勝、重賞は2022年&24年ダイヤモンドステークス、24年阪神大賞典に続く4勝目。騎乗した菱田騎手、同馬を管理する岡田稲男調教師はともに嬉しいJRA・GI初勝利となった。

 2馬身差の2着には菅原明良騎手騎乗の5番人気ブローザホーン(牡5=栗東・吉岡厩舎)、さらに半馬身差の3着に幸英明騎手騎乗の6番人気ディープボンド(牡7=栗東・大久保厩舎)が入線。昨年の菊花賞馬で2番人気に支持されていた戸崎圭太騎手騎乗のドゥレッツァ(牡4=美浦・尾関厩舎)は15着に敗れた。

2004年の天皇賞・春で受けた衝撃、菱田少年は騎手を志した

20年前の天皇賞・春に衝撃を受けて騎手を目指した菱田騎手(中)、同じ舞台でGI初制覇という大きな夢を叶えた 【photo by Shuhei Okada】

 2004年、イングランディーレが大逃げで制した天皇賞・春。家族とともに観戦に訪れた小学6年生の少年はその光景に心を奪われ、この日から将来の目標はサッカー選手から競馬の騎手へと変わった。あれから20年――騎手となっていたあの日の少年は、自身の原点ともなった伝統の淀3200mでついに大きな夢を叶えたのだ。

「4コーナーを回ってくる時には20年前の自分に“見といてくれ”という気持ちでした。20年前の天皇賞・春で衝撃を受けて、騎手の道へと突き進んだあの時の自分にありがとうと言いたいですね。そして、自分の背中を押してくれた父の前でやっと良いところを見せられたかなと思います」

 ジョッキー生活13年目、GI挑戦30戦目にしてつかんだ初のビッグタイトル。殊勲の菱田騎手は今年32歳とは思えない若々しい表情に笑みをたたえながら、20年の道のりを思い返した。

 悲願を叶えてくれた相棒の名はテーオーロイヤル。デビュー3戦目から手綱をとり、今回を含め全18戦中14戦で騎乗。同馬が挙げた8勝はすべて菱田騎手とのコンビであり、まさに相思相愛のパートナーと言っていい。さらにテーオーロイヤルは、菱田騎手が騎手デビューした2012年から今も変わらず所属している岡田稲男厩舎の在籍馬。つまり、今回の天皇賞・春は菱田騎手が20年越しに叶えた夢であるばかりでなく、13年来の調教師・騎手の師弟コンビによるGI制覇、そして、馬、騎手、調教師にとって初のJRA・GIタイトルでもあったのだ。

 まるで映画、小説のようなドラマチックなストーリーと結末。これが現実に起きるのだから競馬は面白い。

ペースは気にせず「馬のストライドと走りを尊重しながら」

道中はリズム良く好位を追走、最後の直線も堂々に先頭に立つ横綱相撲だった 【photo by Shuhei Okada】

 レースはマテンロウレオが敢然とハナを主張し、ハイペースで後続を離して逃げる展開。20年前の菱田少年が見た光景と同じ、逃げ馬の鞍上は横山典弘騎手だったことも因縁めいている。そのマテンロウレオから5、6馬身後方の3番手に2番人気の菊花賞馬ドゥレッツァ、それをマークする形でテーオーロイヤルが続いた。

「理想よりは枠順が外だったのでいつも以上にスタートに集中しないといけないと思っていましたが、良いスタートが切れました。その後は終始リズムよくレースができたと思います。とにかくロイヤルのストライドと走りを尊重しながら進めていこうと思っていたので、ペースは戦前から全然気にしていなかったです」

 菱田騎手が振り返った。テーオーロイヤルにとってはキャリア18戦にして初の京都コース。だが、「返し馬では歓声にも動じずにゆっくりと歩き出していましたし、馬は本当に集中していました」。一方の鞍上も、騎手としてJRAでGI・15勝を挙げた四位洋文調教師から淀長距離コースの攻略法を伝授され準備は万端。1周目、2周目ともに難所の3コーナー下りから直線にかけては「四位さんのアドバイス通りのイメージで乗れた」という。

馬、騎手、調教師ともに「感謝」の初GIタイトル

馬、騎手、厩舎にとって初のGI勝利、菱田騎手と岡田調教師は「感謝」の言葉を繰り返した 【photo by Shuhei Okada】

 特に勝負所の2周目4コーナーから最後の直線入り口、そしてゴールまでの約400mは菱田騎手&テーオーロイヤルの独壇場。絶好の手応えからアッという間に先頭に立ち、2番手以下を寄せ付けず堂々と駆け抜ける姿は“ロイヤル”の名の通り王者にふさわしい、いや、王者そのものの走りだったのではないか。菱田騎手が言う。

「本当に手応えが良くていいリズムでしたし、余力を感じながら4コーナーを回ってくることができました。直線は自分のことで精いっぱいで歓声は耳に入ってこなかったのですが、ゴールした後にすごい歓声をいただいて、本当にロイヤルに感謝したいですし、とても嬉しかったです」

 感謝の気持ちはもちろん、師匠の岡田調教師をはじめ厩舎スタッフ、これまでお世話になった騎乗馬のオーナーや関係者すべてに対しても同じように抱いている。

「デビュー間もないころからGIに騎乗させてもらうなどチャンスをたくさんいただいた関係者の皆さんと、騎乗させもらったお馬さんたちのおかげです。また、これまでの経験も踏まえて今日があると思っていますので、全ての関係者と競走馬に感謝したいです」

 この日の天皇賞・春はまさに菱田騎手の13年間の集大成を出し切ったレースだった。そんな愛弟子に対しレース後、「よくやった!」と声を掛けたのは岡田調教師。これまでメイショウハリオで帝王賞、かしわ記念とダートグレードのJpn1レースは制していたが、JRA・GIレース勝利は厩舎開業23年目で初。「生産牧場、厩舎スタッフ全員の力でとれたレースだと思います。嬉しいの前に感謝の気持ちでいっぱいですね」。そうGI勝利の味を噛みしめるように語ると、菱田騎手に向けて「これからももっと成長してほしいし、期待しています」と師匠らしいエールを送った。

「僕の常識ではよく分からない、本当にすごい馬」

菱田騎手とテーオーロイヤル、叩き上げのコンビが世界へと羽ばたく日を期待したい 【photo by Shuhei Okada】

 期待、という点ではテーオーロイヤルも同様だ。この日の京都は気温30度を超え、4月とは思えない夏日でのレースとなったが、当の春の盾の覇者はレース後も涼しい顔だったと、岡田調教師は明かす。

「心肺機能が強い馬で、本当に3200mも走ったという息遣いではなかったですね。だから、まだまだ伸びしろがあるのではないかと感じています」

 2022年ジャパンカップ14着後の放牧中に右後肢を骨折し、復帰には1年近くもかかった。普通ならこのまま低迷したとしても仕方のないところだが、テーオーロイヤルの場合はまったくの逆。骨折以前よりもさらに地力をつけ、6歳にして才能が完全開花した。この驚異のタフネス、そして成長ぶりに一番驚いているのは菱田騎手だった。

「僕の常識ではよく分からないと言いますか(笑)、本当にすごい馬だと思います。心肺機能が強くて、スタミナがある。今日も実はそんなにロスなく運べたわけではないのですが、強い姿を見せてくれましたから」

 トレーナーによれば、今後のローテーションは未定でオーナーサイドと協議の上で決定していくとのこと。重賞4勝はすべて3000m以上という生粋のステイヤーだけに、もしかしたら秋にはオーストラリア最大のレース・メルボルンカップ挑戦という目が出てくるかもしれない。菱田騎手&テーオーロイヤル、今どきの日本競馬で珍しい叩き上げのコンビの夢は淀を飛び越えて、世界へと広がっていくか。(取材:森永淳洋)
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