【ラグビー/NTTリーグワン】冷静沈着に2トライ。 “ゲームコントロールもできる11番”の輝き<BL東京 vs 神戸S>

東芝ブレイブルーパス東京 森勇登選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
BL東京 40–40 神戸S


東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)は4月14日、秩父宮ラグビー場でコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)と40対40で引き分けた。これで11勝1分1敗とした2位・BL東京はプレーオフトーナメント進出が決定。7勝1分5敗の5位・神戸Sは4位との差が広がり、プレーオフトーナメント進出に暗雲が立ち込める状況となった。

後半40分を過ぎた秩父宮ラグビー場は、両チームを後押しする声援と手拍子が鳴り響き、異様な盛り上がりを見せていた。熱狂の中、神戸Sはスクラムから左に大きく展開し、途中出場の濱野隼大が同点トライ。会場を揺らすような大歓声が徐々に緊張をはらんだ静けさに変わり、勝利を狙ったブリン・ガットランドのコンバージョンキックが外れると、両チームの選手たちが抱き合い、観客は惜しみない拍手を送った。

この一戦で、冷静な判断と高いスキルが光ったのがBL東京のウイング、森勇登だ。序盤からバックスラインの裏に走り込んで何度もチャンスを演出すると、前半19分には右ライン際を疾走し、神戸Sの3選手の頭を越えるロングパスをドンピシャのタイミングでマイケル・コリンズにとおしてトライをアシスト。前半40分には軽やかにディフェンスラインの間を走り抜けてトライ。厳しい展開になった後半27分には、左ライン際でボールを受けてゴールラインに飛び込み、貴重なこの日2トライ目でチームを勢い付けた。

それでも、森は「ボールをもらったらスペースに走って、自分の強みであるフットワークを使うだけなので。いつもどおりのプレーをしているだけです」と落ち着いた表情で自身の活躍を振り返った。

本来はスタンドオフやセンターを主戦場とする森だが、今季はウイングとしての出場機会が増えている。ウイングの経験は「東福岡高校の1年生のデビュー戦ぐらい」ということだが、司令塔としての経験がいまに生きていると話す。

「スタンドオフとセンターがメインのポジションなので、視野の広さは自信を持っています。ゲーム展開を考えながら、判断に余裕をもってウイングをプレーしています」

大歓声が渦巻いた終盤の雰囲気にも「集中していたので。ゲーム展開がどうとかはあまり考えていなかったです」と涼しげに語った森。常に冷静沈着な“ゲームコントロールもできる11番”が、一戦ごとにその輝きを増している。

(安実剛士)

東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(右)、原田衛バイスキャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ

「観客のみなさんにとっては素晴らしい試合だったのではないでしょうか。自分たちが本当に素晴らしいことをできた瞬間もありましたし、無理なオフロードパスをして相手に勢いを与えてしまうことも、大事な時間に落ち着いてプレーできなかったこともありました。前向きに考えると、タフに戦い続けることができました。今日の私たちは、あまり敵陣でプレーできませんでした。さらに良くなるために学ぶことは学んで、一貫性を持てるようにポジティブなことにフォーカスしたいと思っています。コベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)さんは危険性のあるチームだと分かっていましたが、その素晴らしい部分を発揮してきました。その中で勝ち点2を得たことをうれしく思います」

──リッチー・モウンガ選手とリーチ マイケル選手が欠場した中で引き分けでした。良い面も、悪い面も出たと思いますが、どちらを評価しますか?
「両方あると思います。二人の選手がいなくても機能しなくてはいけません。(松永)拓朗は良い活躍をしてくれました。リーチがいなくても勝ち続けられているのは、ここにいる(原田)衛をはじめとしたリーダーグループが活躍しているからです。自分たちとしては、自分たちにあるものにフォーカスして、ないものにはフォーカスしません。スコッドの中にいるメンバーを信じられているのは良いことだと思うので、継続して学んで、さらに良くしていきたいです」

──松永拓朗選手をスタンドオフに起用した理由を教えてください。
「拓朗を10番に置くことについては毎週準備していました。実際にスタンドオフで起用することは直前に決まりましたが、それをしっかりこなせたのは彼の価値だと思います」

──プレーオフトーナメント進出が決定したことについてはいかがですか?
「組織に関わるすべての人を代表して、うれしく思います。選手はここまでハードワークをしてきました。自分たちが仕事を愛する理由の一つはこうしたチャンスをつかむことです。本当にワクワクしていて、このチャンスをうれしく思います。スポンサーにとっても素晴らしいことですし、家族や自分たちをフォローしてくれている人にも良いニュースです。次の3週間でしっかりと準備をしていきたいと思います」

──最後の場面でのスクラムは当初は7人で組んでいて、最終的に8人になりました。どのような指示を出されましたか?
「めちゃくちゃトランシーバーで話していました。実は1本目から8人でいきたかったのですが、聞こえづらかったのかうまくいきませんでした。最終的には8人で組んだことによって、(神戸Sの)トライがグラウンドの端になって、勝ち点2につながったと思います。最後の数分間は本当にストレスでした(笑)。『誰か、誰か、伝えてくれ!』という感じで難しい状況でした。トライをされることも想定にあり、その場合は『できるだけ端に』という感じでした」

東芝ブレイブルーパス東京
原田衛バイスキャプテン

「タフな試合になりましたが、今週はリーダー陣としてもタフな試合になると思っていました。リッチー(・モウンガ)も(リーチ)マイケルさんもいないという状況だったので。相手は(プレーオフトーナメント進出に向けて)あとがない状況の中で、前半は良い入りができましたが、オフロードパスなどで簡単なミスが増えてしまって相手に流れを渡してしまいました。切り替えて、(次節の)三重ホンダヒート戦に向けて準備していきます」

──前半に良いプレーができて、後半に苦しくなるパターンが続いていますが、どのような理由があるでしょうか?
「いろいろな理由がありますが、せっかくボールを取り返しても、オフロードパスで失ってしまうこともありました。僕らのアタックが通用していた際も、ミスで流れをもってくることができませんでした。チームの文化としてオフロードパスは必要なので、そこを『やめよう』とはなりません。オフロードパスについては僕らの中での方針があって、それに則っていればミスがあっても良いのですが、そうではないプレーをすると相手に流れを渡してしまいます」

──終盤に追い込まれても、最後に負けていないのはなぜでしょうか?
「そこが、いまの東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)の強さだと思います。後半に出てくる控えの選手のエナジーが理由の一つですし、最後の(神戸Sの)トライもグラウンドの端にトライさせるためにみんなで追い掛けていました。そういった部分がレジリエンス(逆境を跳ね返す力)につながっていると思います。僕は入って3年目ですが、BL東京の良い文化として、『簡単にトライを取らせない』『負けたくない』とみんなが思っているのが形として出ていると思います」

──プレーオフトーナメント進出が決定したことについてはいかがですか?
「プレーオフに行けるということで、2試合追加でできます(準決勝、決勝or3位決定戦)。こんなに良いコーチがいて、良い選手がそろっているチームなので幸せです。やるからには勝って終わりたいので、プレーオフトーナメントに向けてこれからの(リーグ戦)3試合で準備をしていきたいと思います」

コベルコ神戸スティーラーズのデイブ・レニー ヘッドコーチ(左)、ブロディ・レタリック共同キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

コベルコ神戸スティーラーズ
デイブ・レニー ヘッドコーチ

「試合について、何と言ったらいいのか分からないです。自分たちのミスも多く、前半はタックルミスも多かったので、フラストレーションが溜まる試合でした。そこからチームとしてのハートを見せ、ファイトすることはできました。一番の不満は、あれだけチャンスを作りながら勝てなかったことです。今日の結果に関しては自分たちの順位を考えても、ほぼ負けに等しいと思っています」

──前半にタックルミスが続いた理由はなんでしょうか?また、ハーフタイムに何を伝えましたか?
「タックルは個人の責任だと思っています。どれだけシステムがあろうと、個人がミスをすると厳しくなります。ハーフタイムには、『クリアに自分の仕事をするべきだ』と伝えました」

──チームとして良いパフォーマンスをする時間も増えていますが、一貫して続けるには何が必要でしょうか?
「昨季より間違いなく良くなっています。ただ、成長のために時間がかかる部分もありますし、新しいコーチ陣もたくさんいるので、スタイルの確立までは時間がかかります。今日の後半はフィニッシュするチャンスも何度も作りましたが、BL東京さんはディフェンスで耐えました。オフサイドの状況が多くてクリアに展開できなかったと思うので、そこはオフィシャルに確認したいです」

──BL東京はリッチー・モウンガ選手が欠場していましたが、対策で変わったことはありましたか?
「リッチー・モウンガ選手はプレーしていませんでしたが、逆に私たちが得点というプレゼントを与え過ぎました。まず、リッチー・モウンガ選手とご家族にお悔やみを申し上げます。今季、神戸Sの中でも選手の親が亡くなったことがあり、われわれはサポートしてきました。(BL東京がリッチー・モウンガ選手の帰国を認めたのは)家族という一番大事なことを忘れずに、クラブ側がサポートしていて素晴らしいと思います。対策については何も変えていません。もちろん、リッチー・モウンガ選手は世界でトップの選手だと思っていますし、(出場を)想定して準備はしていましたが、自分たちの戦術としては変わっていません。メンバー発表は両チームともに同じタイミングなので、そこから変えることはありません」

──プレーオフトーナメント出場に向けて、4位の横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)とは勝ち点の差が7になりました。次の1週間で大事にしたいポイントはありますか?
「勝ち点で7点差という状況なので、自分たちの準備にどれだけフォーカスできるか、ということになります。どこかが横浜Eさんを倒してくれるかはコントロールできないので、自分たちのコントロールできることにフォーカスしていきます」

コベルコ神戸スティーラーズ
プロディ・レタリック キャプテン

「デイブ・レニー ヘッドコーチが言ったことに付け加えることはありませんが、前半にタックルを外されることが多くて、点差をつけられてしまいました。ただ、気持ちの部分は見せられました。後半は自分たちのやるべきことを信じて、ファイトすることができました。BL東京さんのような良いチームと戦う際に、簡単にチャンスを与えてしまうと苦しくなってしまいます」

──後半に流れをつかみながら、逆転できなかった理由はどう考えていますか?
「正直、いまはフィールドから戻ったばかりなので、まだ分かりにくいところがあります。(前半が終わって)14対33という大きな点差を追い掛けなくてはいけない状況でした。セットピースは反省する部分もあると思います。それ以外のプレーについては映像を見て考えます」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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