スタート10分前 須江唯加-奮闘の一日

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【Photo:Atsushi Tomura/Getty Images】

KKT杯バンテリンレディスオープン 熊本空港カントリークラブ(熊本県)第1日

 ゲタを履くまでわからないのが勝負。ただ、JLPGAツアーの場合、全組がスタートしなければ、わからないこともある。この日、イーブンパー、28位タイでホールアウトした須江唯加は、人生でもっとも激動的だった一日を体験。

 何と出場が決定したのはスタートの10分前、という実に珍しいケースの当事者だった。今大会は出場権がない。現地ウェイティングシステムのため、9日夜に熊本入りし欠場者が出た場合に備えていた。10日朝から練習をスタート。「おそらく、ダメだろうなぁ」と考えながら、最後の最後までその時に備えた。

 「せっかく、熊本まで足を運んだ。せめて最後はパッティングをして帰ろう、と思って選手が少なくなった練習グリーンへいった時、突然、携帯電話に着信がありました。あと10分後にスタートです-」。キャディーバッグはレンタカーのトランクにある。もちろん、練習はまったくするヒマなどない。大あわてでスタートの1番へたどり着くと、なんとそこには申ジエがいた。

 「誰と一緒なんて、まったくわからない。ジエさん、木村彩子さんがいらっしゃったから、私でいいんですか・・・。そんな感じでした。だから、お二人にはご迷惑をかけたくありません。じゃまをしないようにしないといけない。そうすると、不思議ですね。一気に気合が入ってきて、練習なしでも結構、ショットの調子が良かった」という。

 パー3・3番。U4でピン左下5メートルにつけ、慎重にラインを読んでバーディーを先行させた。結局、3バーディー、3ボギーの内容だが、ここまでの経緯を考えると、いい仕事をした-そんな感覚だろう。

 今季のQTランキングは41位。出場できるJLPGAツアーはかなり限定される。だが、現地ウェイティングなら欠場者が出れば、今回のようなチャンスに恵まれることもあるわけだ。

 というわけで、開幕戦から現地へ。ところが、沖縄→高知と出場が叶わなかった。ただし、コースでは練習することは可能だが、当然のように経費は自己負担。余計なお世話と思ったものの、沖縄へはどれほどの先行投資があったのだろう。

 「自宅は岡山。まず神戸へ行って、空港から格安航空券で片道が約1万2000円です。そして、現地移動のためのレンタカーも必要。これも格安のところを探して1週間で2万円ほどです。また、ホテルは高価ですからウィークリーマンションを利用。だいたい3万円ぐらいでした。あとは食費などですね」と、厳しいツアー生活を公開し、続く第2戦の高知は、「車で行きました。行きは高速を使用したけど、帰りは節約して香川まで一般道を。時間はかかったけど、景色がとてもきれいでした。とてもいい気分転換です」と笑顔で振り返った。

 ちなみに、第3戦は事前に出場権があり、38位タイ。しかし、第4戦はまたも現地ウェイティングとなったが、欠場者が出て出場権を得て、38位タイである。スポットを浴びるのは優勝者ひとり。だが、出場するためには、技術の向上とこんな努力まで必要なのだ。

 家族は両親と3人。実家は調剤薬局を経営している。幼少時、「父は医師か、薬剤師になってほしかったらしいけど、プロゴルファーになりたいという私の夢を応援してくれました。日曜日はお店が定休日。両親が観戦するのを楽しみにしているから絶対、予選通過だけは果たします。とにかく、出場できたことだけで満足するわけにはいきません。全力で最後まで-」と、より気を引き締めている。

 丁寧な対応と、明るい性格。まだ全国区とはいかないが密かにエールを送りたくなるような存在だ。
(青木 政司)

【Photo:Atsushi Tomura/Getty Images】

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