【ラグビー/NTTリーグワン】解き放たれた超獣。 いまこそ苦しむ“家族”を助けよ<クボタスピアーズ船橋・東京ベイ>

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オペティ・ヘル選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

「ラグビーを始めたころの最初のポジションは?」とたずねると、彼は少しはにかみながら「ウイングです」と答えた。その照れ笑いのような柔らかな微笑みからは「意外と思われるかもしれませんが」という真意が読み取れる。現在のポジションはスクラム最前列のプロップで、実はこれまでにバックスだけでなく、フォワードではナンバーエイトも経験。いまでも試合でペナルティを奪ったあとに自らボールを保持してすぐにアタックしようとするのは、ボールを持って走るポジションを務めていたころの名残でもある。

目の前の相手を豪快に吹っ飛ばすさまは、まさにブレーキの壊れたダンプカー。「豪快」という単語では到底表現し切れない、超獣のごときプレースタイル。今季、第2節に出場して以降は欠場を続けていたオペティ・ヘルが、3月以降、本格的に戦いの最前線に戻ってきた。

「その間、チームはなかなか勝てない状況が続いていましたが、私は試合に出ている仲間たちと同じ痛みを味わい、同じ感情を抱いていました。だからこそ、早く復帰したいと思っていました」

1998年生まれのトンガ出身。小学生のころにラグビーを始め、当初は大人たちにまじってプレーしていたとか。のちに“秘密兵器”と称される怪物性のベースは、この時代に培われたという。

「大人たちに揉まれるタフな環境の中で養われたものはあったと思います。高校生のころには、同世代の相手にしっかりと体を当てられるようになっていました」

しかし、母国トンガにはオペティ・ヘルよりも巨大な体躯の選手は山ほどいる。いまでは想像しがたいが、当時は試合や練習で当たり負けしたことも一度や二度ではない。

「相手にふっ飛ばされても、あきらめずにもう一度チャレンジしていました。このネバーギブアップの精神はトンガ人のプライドのようなものです。相手に自分の恐れを見せない。絶対にあきらめない。『ギブアップをするのは自分が死ぬときである』と、私は先輩から教わりました。その教えを守り続けてきました」

紆余曲折を経て、義兄のトゥパ フィナウのすすめでトライアウトを受けて2019年にクボタスピアーズ(当時)に入団。かけがえのないファミリーとの出会いが、トンガ人のプライドにラグビー特有の献身性をプラスさせた。

「初めてチームのロゴマークを見たときは馬なのかユニコーンなのか分からなかったのですが(苦笑)、いまは先輩方が築いてきたレガシーの上にチームが成り立ち、そして私たちがそれを受け継いで新しい歴史を作っていることを理解しています。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)は私にとって家族のような存在です。家族を助けるためには、まずは自分が強くなる必要があります。強くならないことには、誰も助けることはできません」

今季は5勝6敗と苦しい戦いを強いられているS東京ベイ。いまこそ家族を助けなければならないときである。さあ、解き放たれた怪物よ、ピッチで思う存分暴れるがよい!

(藤本かずまさ)
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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