連覇を狙うウシュバテソーロ、三冠牝馬リバティアイランドらが参戦 ドバイWCデー4レースを展望
ドバイワールドC連覇を狙うウシュバテソーロ 【Photo by Getty Images】
【ドバイワールドカップ】日本勢の連覇に期待も十分、サウジCより先行勢が薄くペースは落ち着くか
昨年はハイペースを利しての追い込みが決まったウシュバテソーロだが、前走のサウジCでも離れた後方から末脚を炸裂させて勝利にあと一歩と迫った。最後はセニョールバスカドールの追撃に屈する形になったものの、川田将雅騎手の仕掛けのタイミングはドンピシャ。勝ちに動いたウシュバテソーロと、追う立場のセニョールバスカドールの明暗を分けたものは展開のアヤでしかない。末脚が生きる展開なら再び両雄の一騎打ちも考えられるが、ウシュバテソーロにとって距離の200m延長は歓迎。前年の実績も加味すれば優位に立てる。
ただし、その展開が向くかは分からない。サウジCは先行馬がそろって厳しい流れとなったが、サウジクラウンとアイソレートがゴドルフィンマイルに回るなど、ペースを作った馬たちがドバイWCを軒並み回避した。今回はペースが落ち着く可能性もあり、そうなればUAEダービーで行った行ったのワンツーを決めたデルマソトガケとドゥラエレーデ、逃げを含め自在性のあるウィルソンテソーロにチャンスが巡ってくる。
とくに昨年のデルマソトガケはサウジアラビアからの転戦で結果を出しており、1か月の間隔で順調にレースを使えるのも1年ぶりで上積みを期待できる。対ウシュバテソーロの過去2戦とも休み明けながらBCクラシックでは先着している。ドゥラエレーデはUAEダービーがダート2戦目で当時とは経験値が違う。海外初遠征のウィルソンテソーロには未知の面もあるが、直近の3戦ともドゥラエレーデに先着している。ダートの違いに対応できれば勝ち負けに絡んでも不思議はない。
サウジCを制したセニョールバスカドール 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
また、地元UAEのローレルリバーはゴドルフィンマイルの前哨戦であるバージナハールを逃げ切りで圧勝。サウジクラウンやアイソレートとの対戦を避けてドバイWCに回ってきた。距離経験は1600mまでしかなく、鞍上が強気に乗るか慎重に構えるかでペースも変わる。展開のカギを握る存在になりそうだ。
注目度という点では前哨戦のアルマクトゥームチャレンジを快勝したカビールカーンが一番か。現在はUAEのD.ワトソン調教師が管理しているが、アメリカ生まれながらカザフスタンでデビューし、ロシアを主戦場としていた。その前哨戦では好位の一角から余力十分に4馬身3/4差を開く完勝劇。異色の経歴のためベールに包まれた部分が多く、不気味さも魅力も底知れない。父のカリフォルニアクロームはアメリカではマイナーなカリフォルニア州産馬で、2016年にはドバイWCを制すなど米年度代表馬にまで上り詰めたが、息子は一段とマイナーな育ち。父子2代でシンデレラストーリーを作れるか。
これ以外では直近の相手関係や結果から、相当な変わり身や展開の助けがなければ上位争いまでは難しそうな印象がある。
昨年の三冠牝馬リバティアイランド 【Photo by Shuhei Okada】
【ドバイシーマクラシック】G1ホース10頭の超豪華メンバー、今年のWCデーで大注目の一戦
強力なメンバーの中でも中心を担うのは日本勢と信じたい。昨年のイクイノックスはゴール前で流しながらもレコードを1秒も更新。2着には3馬身半差をつけた。これを物差しすると、より長く追っていたジャパンCで4馬身差のリバティアイランドは、例年のドバイシーマCなら優勝の有資格馬と考えられる。同じ三冠牝馬のジェンティルドンナもドバイシーマCでは2年連続の連対を果たしており、上位争いは必至だろう。
このリバティアイランドに対し、スターズオンアースはジャパンCで1馬身差。当時はリバティが最内枠に恵まれた一方、スターズオンアースは17番枠だった。しかも、当時は半年ぶりの実戦で斤量差(2kg)もあった。それから4か月で今回は斤量差が0.5kgまで縮まる。リバティアイランドを逆転するチャンスは十分に残されている。
イクイノックスとの比較ではジャスティンパレスも優に争覇圏内の1頭。ともに完敗ではあったが、宝塚記念は併せ馬の態勢から1馬身少々、距離不足の天皇賞(秋)も2馬身半差に食い下がった。ただ、有馬記念では先行したスターズオンアースに最後方から1馬身半差の4着。先行有利の傾向があるドバイシーマCでは課題のゲートを決め、ある程度の位置がほしい。
そのゲートに泣いたのが昨年のシャフリヤール。先行から押し切った一昨年とは対照的に後手を踏み、流れに乗れず連覇を逃した。それでも芝2400m前後での安定感は抜群で、秋のBCターフは3着に好走。香港ヴァーズを除外されて急きょ方向転換した有馬記念でも、ジャスティンパレスにはクビ差の5着と崩れなかった。
BCターフでシャフリヤールを下したオーギュストロダン 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
同じことはエミリーアップジョンにも当てはまる。昨年のコロネーションCではドバイシーマC(2着)から帰国したウエストオーバーを下すなど、牝馬としてリバティアイランドと並び2023年のレーティング最高。その評価通りなら勝ち負けということになる。今回は8か月の休み明けになるが、コロネーションCも7か月半ぶりで結果を出した。
昨年はドバイターフ(6着)に挑戦したジュンコが今年は距離を延ばしてきた。夏のサンクルー大賞で2400mに初挑戦すると軌道に乗り、終盤戦のバイエルン大賞と香港ヴァーズでG1連勝。香港ヴァーズではゼッフィーロらの日本勢を並ぶ間もなく差し切った。ここには地元のフランスでひと叩きしての遠征と態勢も整っている。
ゴドルフィンのレベルスロマンスは2022年にベルリン大賞からBCターフまでG1を3連勝した実力馬。昨年のドバイシーマCで7着と見せ場を作れず、その後も波に乗れない状態が続いたが、前走のアミールトロフィーでゼッフィーロを下すなど復調してきた。かつての差しから先行と脚質に幅が出ており、前走と同様にスムーズに行かせると残り目もある。このレースとドバウィ産駒も好相性だ。
2021年に独ダービー勝ちのシスファハンは、その後に地元のドイツとレベル低下が著しいイタリアでしか入着がなく、第三国では前走のドバイシティオブゴールドが初の3着。前哨戦から参戦の高い士気でどこまで通用するか。なお、凱旋門賞ではシムカミルともどもスルーセブンシーズから3馬身近く離された。スピリットダンサーはネオムターフC勝ちからの転戦。格下感は否めないが、同じ臨戦のモスターダフ(2023年)とオーソリティ(2022年)がドバイシーマCで好走している点には留意しておきたい。
昨年の有馬記念を快勝したドウデュース 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
【ドバイターフ】主役は4連覇を狙うロードノースも、層の厚い日本勢が大偉業を阻止へ
ロードノースを象徴的な例として、ドバイターフにはいわゆるリピーターの活躍傾向がある。同馬は昨年までの3連覇だけでなく、ウィンターダービーからの臨戦も今年で3年連続。昨年限りで引退しているはずだったL.デットーリ騎手とのコンビ継続も叶い、この一戦に向けて人事を尽くしてきた感はある。
同じ視点に立てば昨年2着のダノンベルーガにも勝機がある。日本調教馬は2016年から昨年までの7回でリアルスティール、ヴィブロス、ヴァンドギャルドが2回以上の入着を重ねてきた。2回目以降に着順を上げた例がないのは気掛かりだが、昨年のダノンベルーガは全体的にリズムに乗れていなかった。本来の走りを見せられれば前年以上もあるはずだ。
最も期待が大きいのはドウデュースだろう。昨年のドバイターフは現地入り後、直前の獣医検査をクリアできず、戦うことなく無念の帰国となったが、前走の有馬記念を快勝して鮮やかに復活。改めて手の合うところを証明した武豊騎手が、今回の1800mやメイダン競馬場に対して不安は特にないと自信を隠していない点も心強い。
1800mならナミュールも簡単には引き下がれない。昨年終盤にマイルでついにブレーク。3歳時はオークスや秋華賞でも上位争いを演じたように距離の融通性も高い。3着の結果を残した香港マイルに続き海外遠征は2回目で、休み明けのフレッシュな状態で戦えるのも良く、死角そのものはドウデュースよりも少なく感じられるほどだ。
日本勢の中で実績的には格下のマテンロウスカイだが、前記の4頭はいずれも差し・追い込みタイプ。各馬の意識が後方に偏れば、この馬の先行力が生きることもある。鞍上が横山典弘騎手とくれば何を仕掛けてくるか楽しみは大きく、ペースを読みにくい国際舞台でマジック炸裂のシーンがあっても驚けない。
ドバイターフ4連覇がかかるロードノース 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
ロードノース以外の欧州勢では、アイリッシュチャンピオンSで2着のルクセンブルク、これに短アタマ差のナシュワが互角の関係か。ルクセンブルクには香港Cで日本勢を抑えての2着という実績もある。前走のネオムターフCは伸び切れず4着も、叩き良化型で今回はひと味違うはず。また、ナシュワは良馬場の瞬発力志向で欧州よりもドバイの芝が合う。ロードノースと同じJ&T.ゴスデン調教師の管理馬で、もちろん勝算はあっての遠征だ。
ゴドルフィンの期待馬メジャードタイムは前哨戦のジェベルハッタを含む直近2勝がドバイターフと同舞台。今回は試金石ではあるものの、通算6戦5勝で底を見せておらず、周到な臨戦過程からも怖さがある。また、ファクトゥールシュヴァルも欧州のG1戦線で4戦連続の入着中と安定している。ただ、いずれも渋めの馬場でドバイのスピード勝負に対応できるかが課題となる。
前走リヤドダートスプリントを制したリメイク 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
【ドバイゴールデンシャヒーン】今年もアメリカ勢が強力、日本勢は悲願の初制覇なるか
最大の期待はリメイクとなるだろう。昨年は出遅れて最後方追走から5着という悔いの残る結果になってしまった。それでも、直線では外から追い上げて先頭から2馬身圏内でゴール。1着のシベリウスが最内枠から経済コースをキープし続けたことと比較すれば、負けて強しと評価できる内容だった。前走のリヤドダートスプリントでも余力十分に優勝と昨年の3着からスケールアップを果たしており、五分の発馬なら勝機もあるはずだ。
イグナイターは2走前のJBCスプリントでリメイクを負かしている。短距離ダート戦では国内唯一となるG1級での戦果だけに実力の裏づけとして説得力がある。前走のフェブラリーSは着順こそ大敗も、距離が長かっただけで度外視可能。先行馬に苦しい展開の中、1400m地点まで先頭争いを演じた地力はハイレベルの1200mでこそ生きる。
ドンフランキーも昨年7月のプロキオンSでリメイクを2着に下した。当時はリメイクがドバイからの帰国初戦で斤量も1kg重く、それでいてクビ差。ドンフランキーが優位に立っているとは言えないが、その後に東京盃でレコード勝ちするなど着実に力をつけてきた。600kgに迫る巨漢で骨折明けの前走は織り込める敗戦。激しい道中になる国際舞台ではフィジカルも武器になり、叩き2戦目の今回は楽しみも大きい。
上記の3頭に対するものを含め4連敗中のケイアイドリーだが、それぞれに不利などの敗因がある。まずは日本勢の争いの中で1頭でも上の着順を狙い、あらためて実力を証明したい。中団より前で流れに乗る本来の形を作れるかがカギとなる。
昨年のドバイGS覇者シベリウス 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
また、BCスプリントで3着の実績があるナカトミも怖い1頭。前走のペリカンSではシベリウスの後塵を拝したが、直線で包まれ追いづらい面があった。BCスプリントは昨年のリヤドダートスプリントでリメイクに完勝したエリートパワーとガナイトに続いたもので、着差もリメイクがつけられたものより3馬身余り小さい。
ボールドジャーニーはリヤドダートスプリントでリメイクに完敗の3着。ただ、海外初挑戦だった当時から変わり身の余地はあり、前走だけで勝負づけを済ませたと考えるのは時期尚早だろう。アメリカ勢のもう1頭、ランクラシックは重賞未勝利でリステッドも前走のガルフストリームパークスプリントSが初勝利だが、重賞2勝馬に3馬身半の決定的な着差をつけている。スプリント路線に転じてからの戦歴も浅く、これから開花していく可能性はある。
ムーヒーブ(アルシンダガスプリント)とタズ(ドバウィS)、リーディングスピリット(マハブアルシマール)の地元勢は、それぞれ1月以降に組まれた同舞台の前哨戦を制している。ムーヒーブは昨年のドバイGSで13着だが、当時は大外枠から終始馬群の外に置かれた結果。アルシンダガスプリントはそれ以来の実戦だった。ベテランのタズは昨年のドバイGS、前走のリヤドダートスプリントでリメイクに連敗している。マハブアルシマールのリーディングスピリットは8歳にして重賞初制覇。アルシンダガスプリントとドバウィSでは重賞未勝利のカラーアップやフリーダムファイターとも着順を前後させており、これら3頭はムーヒーブやタズに一枚落ちの感がある。
(渡部浩明)
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