第一生命 D.LEAGUE 23-24 ROUND.10!5試合でスウィープ勝利が飛び出す大波乱。Legitは首位独走も上位8チーム、僅差の接戦に。MVDは苦悩の中、初勝利を手にしたKENSEI。

D.LEAGUE
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dip BATTLES 【D.LEAGUE】

世界最高峰のプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE 23-24」(以下D.LEAGUE)のROUND.10が2024年3月10日、東京ガーデンシアターにて行われた。SEGA SAMMY LUXの2試合連続となるスウィープ勝利を皮切りに、dip BATTLESが今シーズン初となる勝利をスウィープで獲得。CyberAgent Legit 、DYM MESSENGERS、Valuence INFINITIESも続き、D.LEAGUE史上初となる6試合中5試合でスウィープが出る展開となった。結果は以下。

1st Match : KADOKAWA DREAMS VS SEGA SAMMY LUX(0-6)
2nd Match : KOSÉ 8ROCKS VS SEPTENI RAPTURES(2-4)
3rd Match : dip BATTLES VS Benefit one MONOLIZ(6-0)
4th Match : CyberAgent Legit VS FULLCAST RAISERZ(6-0)
5th Match : LIFULL ALT-RHYTHM VS DYM MESSENGERS(0-6)
6th Match : Medical Concierge I'moon VS Valuence INFINITIES(0-6)

チームの底力。逆境で見せつけたひっくり返すダンス!

接戦によるドローが毎ラウンド続いていた今シーズンだが、ラウンド10では全6試合全てに勝敗がつき、さらに5試合はスウィープでの決着となる大波乱になった。
3rd Matchのdip BATTLES VS Benefit one MONOLIZではdip BATTLES がスウィープ勝利を収め、今シーズン初の勝利を手に入れた。勝利が決まった瞬間、感情を言葉にできないKENSEIがマイクを通さず「ありがとう」と呟くシーンに多くの人が心を動かされたのではないだろうか。

BATTLESは今シーズン8連敗という逆境を経ても諦めず「希望の光」を見出すため、純粋なダンス作品で勝負に出た。

SPダンサーに若手のHOUSE実力者を迎え、黒、グレー、白のモノトーンでシンプルな衣装。トリッキーなテクノミュージックに合わせて純粋にダンスのかっこよさだけを見せつける。

ステップの正確さだけでなく、触れそうで触れない精密なフォーメーション、ぶつかりそうでぶつからないダイナミックなアクロバットなど難易度の高い構成をハウスらしくスマートに踊りきる。途中のKENSEIのスローなソロが見事に引き算として作用し、その後の迫力のあるルーティーンを際立たせる。

希望の光を彷彿とさせる儚くも強い照明に白の衣装を纏ったTsUmUが所狭しとステージを駆け回り、意味深ながら爽快感を感じるステージングを見せた。

dip BATTLES 【D.LEAGUE】

モノトーンで見せたBATTLESと対照的にカラフルで野生的な衣装で登場したMONOLIZ。SPダンサーでMONOLIZの元リーダーKenが登場。ショーの前の板付きから3点倒立、野生み溢れるSEと、バイブスを感じるスタイリッシュなフォーメーションでいつもと違う風味のMONOLIZを展開していく。

筋力のある男性ダンサーはMONOLIZの持ち武器であるリフトのベース(土台)役として活躍することが多いが、今回はKenをしっかりと中心に据え、ジェンダーニュートラルともスーパージェンダーとも呼べる世界観を展開した。メンバーそれぞれの柔軟性を活かしたソロに、映像では隠れてしまっているが、Yukicheruのアクロバットからの滑らかな着地、そしてサソリも見事に決まっていた。

Benefit one MONOLIZ 【D.LEAGUE】

作品の情報量が飽和してくると、シンプルに研ぎ澄まされたダンスがその分厚い装甲を貫くことがある。良し悪しを決めるのが難しい作品の勝負では、シンプルにダンスで感動したかどうかが決め手となる。

今回の勝利の裏には、今シーズンからディレクターという重責を背負うことになったKENSEIの苦悩の日々があった。自分が爪痕を残すために休む暇なく突っ走ってきたが、このタイミングでチームの仲間に任せてみようと役割分担することで、気持ちもパフォーマンスも大きく変化したという。マドルスルーを見事に成し遂げ、まだまだ変化していくであろうBATTLESを祝福するようにFAVが集まり、KENSEIはMVDに輝いた。

HIPHOPダンスの初期衝動

1st Matchでは SEGA SAMMY LUXが全シーズン王者KADOKAWA DREAMSに勝利した。偶然にも両チームとも「HIPHOP」をテーマにぶつかるというマッチメイク。同じHIPHOPながら全く色の違う新世代HIPHOPvs王道HIPHOPの対決となった。

LUXは伝説のHIPHOPグループRUN DMCを彷彿とさせる3本ラインの黒の衣装、赤いハットで登場。ステージ上一発勝負でDJブースに「KD」とスプレーアートをし、RUNDMCをオマージュしたドラムビートからダンスが始まる。

スクラッチベースのエレクトロヒップホップ、ビッグビート、グランドビート、ビートボックスと、古くからHIPHOPが好きな人たちにとっては大好物となるビートのフルコース。LUXが得意とするニュージャックスウィングを中心に、ティッキングやアクロバット、わざと遅れてビートを取る後乗りと呼ばれる難しい部分も揃えるところはしっかり揃え、肩車や大きな手袋、大道芸をインスパイアしたエンターテイメントも上乗せしてきた。8ROCKSやRAPTURESの過去の作品と見比べてみるのも面白いだろう。

今回LUXはSNSを使ってコールアンドレスポンスを呼びかけた。1回戦で会場があったまっていないことも考えての作戦だという。画面に映らない舞台袖のメンバーが踊りを見て一緒に盛り上がっていたのも印象的だ。見事に自分たちの好きなHIPHOPへのリスペクトを贅沢に押し出し、前回に続き2連続スウィープ勝利となった。

SEGA SAMMY LUX 【D.LEAGUE】

次世代スタンダードとなるニューウェーブvs古き良きもの。KDの最新鋭のドローンのような精密なアタックも、大砲台を持つLUXのタンク(戦車)の進撃を止められず、城下への侵入を許してしまった。全チームの点数差が一気に縮まりまさに「ゲームチェンジャー」の快進撃が始まる流れだ。

合わせて今回、8ROCKSもINFINITIESもHIPHOPをテーマに作品を展開した。8ROCKSはHIPHOPの創始者の一人、アフリカンバンバータのPLANET ROCKとその時代を大胆にオマージュ。ルーツから枝分かれしていく時代を取り上げる8ROCKSは今シーズンを通してディクショナリー(お手本となる教科書)を伝え、ファンたちに新しい楽しみ方の視点を提供している。構成力とアイデアで頭一つ抜きん出たRAPTURESに勝ちを譲ることとなったが、将来への種まきと自分たちの見せたいダンスでの勝負を見事に両立し続けている。

INFINITIESはディレクションに8 NORTH GATEのB-BOY殿岡を起用。パワームーバーが欲しいということで、パリオリンピック日本代表候補筆頭格のHIRO10を招聘。楽曲はDJ MONJYAこと7DWON8UPPERのShinji。テーマは「HIPHOPオーケストラ」。ダイナミックなパワームーブの応酬と、MAKOを起点にしたリスクの高いコンビネーションは毎回斬新だ。

高いシンクロ率を武器とするI’moonに対し、敢えてソロの強さをぶつけて来た戦略が功を奏し、見事スウィープ勝利となった。

Valuence INFINITIES 【D.LEAGUE】

HIPHOPという言葉は意訳するとHIPはかっこいい、クールな、HOPは跳ねるが転じて踊る、振る舞うといった意味合いになる。DJ、MC、ブレイキン、グラフィティの4つのエレメントが集められ、黒人同士の抗争を命の取り合いから血を流さない名誉の取り合いに変えた、という話は以前紹介した通りだ。そこにビートボックス、ファッション、歴史、言葉、ビジネスマインドなど50年の歴史を経て含まれる意味も多様化してきた。

HIPHOPとして大事なことが2つある。一つは抑圧に対して自己表現をしようとする反骨精神。

HIPHOPが生まれる前からダンスはバレエやジャズが主流、お金持ちがやる習い事、贅沢品であった。

それを見たスラム街の黒人たちが見様見真似で踊り始めたのがHIPHOPダンスのルーツだ。次第に黒人らしさを出すために身体が硬いことをアイデンティティとし、カクカクした動きやカートゥーンのコミカルな動きを強調していき、今のオールドスクールの美学が出来上がる。貧困だからできない、環境が整ってないからできない、そんな不自由を自由にしようという表現のエナジーは、やがて差別撤廃運動のエネルギーの一部となってきた歴史がある。

今日本に暮らす我々が感じる抑圧は何か。大なり小なり抑圧を感じて生活しているとはいえ、比較的恵まれた社会環境の我々が黒人の文化を借りて踊るからこそ、その歴史を知り、最大限のリスペクトを示さなければいけない、という側面がある。

もう一つは、何も持たなかった人間が、マイク一つ、身体一つ、パフォーマンス一つで多くの人の支持を得て、一気に世界までのしあがるHIPHOPドリームというストーリーだ。

海外の大御所セレブラッパーたちは貧困、暴力、薬物に囲まれた環境からパフォーマンスを磨いてHIPHOPドリームをつかみ今の地位にいる。D.LEAGUEがそんなDREAMを実現するステージとなって欲しい。あと数年後、誰がダンス界のカズ、ダンス界の大谷翔平といわれ支持を集めて世界で活躍するのか。ダンスファンとダンサーの二人三脚でぜひ夢を実現するD.LEAGUEをつくりあげたい。

誰がナンバーワンHIPHOPドリーム?

全14ラウンド中10ラウンド目にしてまだまだ新しいものが出てくる。アプリで言うなれば各チームの「実績解除」といえば良いだろうか。

DYM MESSENGERSは今回初めて舞台装置を用意した。チキチキのR&B、ムーディーなボーカルとラップに合わせ、入り乱れるような椅子や小道具、ステッキなどをリレーしていく。いつものスモーキーなスタイルから色気が漂うスタイルを踊るだけでも驚きだが、高いスキルのソロ、Yasminもドレスを着たまましっかりアクロバットやフロアムーブをきめ、初のオーディエンス票も獲得しスウィープ勝利。オシャレをして一晩中踊ってお互い高まっていく一夜、自分たちの一番好きなシチュエーションを用意したらしく、ステージで踊ることを何より楽しんでいる姿に心を打たれた。

DYM MESSENGERS 【D.LEAGUE】

また、LegitはATOの師匠であるリズムマスターakihic☆彡をディレクターに起用。今シーズン2回目となる作品はあえて白や黒のテーマやメッセージを設定せずBATTLES同様純粋なダンスで勝負。 erotic grooveの「the reddings」を大胆にオマージュした楽曲に合わせ、無限の引き出しで音はめを決める第3のLegit。今回のスウィープ勝利で確立した無着色なLegit、透明なLegitにどんな名前をつけるのか、そしてどんな作品が出てくるのかも期待だ。

CyberAgent Legit 【D.LEAGUE】

ALT-RHYTHMは、「共」をテーマに一つの生き物を表現するような独自性の強い作品を展開したが、違う勝負で勝ちに来ている印象を抱かせた。この作品に一票入れた時、審査員がなぜ票を入れたのかを語るのが難しすぎる。もしかして、DLEAGUEのフォーマットを動かそうとしているのでは、と思わせる潜在的な底知れぬ力がある。現に他のチームに照明などのステージングを意識させたのはALT-RHYTHMの影響が大きいように思える。

LIFULL ALT-RHYTHM 【D.LEAGUE】

D.LEAGUE自体にも、各チームにも信頼できるスポンサー企業が集まり、誰しもが自分なりのHIPなHOPを追求し切磋琢磨し合う場で、HIPHOPドリームを掴む環境が整いつつある。今ならまだD.LEAGUEの古参を名乗ることができる。末長く夢を掴む選手たちの姿を応援し、人生が変わるようなダンス作品に是非とも出会ってほしい。
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著者プロフィール

D.LEAGUEとは、“世界中すべての人に「ダンスがある人生」をもたらす”をミッションに、活動を通じてダンスへの認知・理解・共感を実現し新しい文化と産業構造を創造する、2020年8月に発足した日本発のプロダンスリーグです。

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