【「球速の正体」朝日大学・林卓史教授インタビュー(前編)】ラプソード第一人者が語る、”計測”が持つレベルアップへの可能性

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【写真:白石怜平】

現在、朝日大学の教授を務めている林卓史(たかふみ)氏。
NPB・MLBでほぼ全ての球団が導入し、国内の高校・大学でも計240校以上で活用されている「Rapsodo(ラプソード)」を日本で初めて導入した方である。

今も投球の研究を続ける林教授は、著書「球速の正体(東洋館出版社)」を昨年11月に出版した。

今回は、横浜にあるラプソードジャパン本社で特別インタビューを実施。本書を通じて指導者の方に向けたラプソードの活かし方や、今後の指導者に向けた提言などを語っていただいた。
(取材協力:ラプソードジャパン、写真 / 文:白石怜平)

選手時代は投手としてアマチュア球界最高峰の舞台で活躍

林教授はかつて投手として活躍し、アマチュアで数々の実績を持つ。

山口・岩国高校時代には93年春のセンバツ大会に出場。慶応義塾大学進学後は六大学通算21勝を挙げ、その後社会人の日本生命に進み02年の社会人野球日本選手権優勝に貢献した。

03年に指導者へ転身して以降は、慶大のコーチ・助監督や朝日大学のコーチ・監督を歴任。その傍ら、投手へのコーチングに関する研究で博士号を取得し現職に至る。

「球速の正体」を出版した朝日大学の林卓史教授 【写真:白石怜平】

今回出版した「球速の正体」は、最新のデータを用いて150名のプロ選手を分析している。さらにラプソードやそこで測ったデータの活用方法を自身が取材した事例とともに紹介している。

かねてから「ラプソードのことや、計測の面白さを伝えたい」と考えていた林教授。2年以上の制作期間をかけて完成させた。

出版後、指導者の方たちから早くも反響が

インタビューを行った23年12月中旬は発売から1ヶ月強経った頃。早速、本の反響があったことを明かしてくれた。

「大学経由で連絡をいただいて、興味持ってくれてる方が多いんだなと感じました。先日高校野球の指導者の会合の際には、『計測の大切さが分かります。さらにそのデータをどう勝負に持っていくかに対して、”野球らしさから離れてない”ですよね』と言ってもらえたのはすごく嬉しかったです」

出版から1ヶ月、反響について語った 【写真:白石怜平】

また、林教授が今回出版した狙いは”新たな視点を持ってもらうこと”だった。

著書ではデータが示す投手の特徴を9タイプに分けて解説している。

その中には各々の特徴に合わせた指導法に加えて攻略法も記載しており、投手だけの視点ではなく、打者視点にも自然と目が向く内容になっている。

「各系列ごとの攻略法も掲載しているのですが、主に高校野球の指導者に評価いただいています。投手だけでなく、打者側からも見てくださっている方がたくさんいるのだと思いましたし、新しい視点を示すことができたのかなと手応えを感じています」

ラプソードの浸透度拡大に向けた今後の伸びしろ

冒頭の紹介の通りMLBやNPBのチームをはじめ、プロ選手個人も自費で購入し活用しているラプソード。学生野球においても”回転数”といった用語含め、その浸透度は上がっているという。

「今はラプソードや測定機器をどう活用していくかのフェーズに入っていると思います。学校に講演に行った際も、『ラプソードって何ですか?』といった質問を受けることは減りましたし、学校に機材があるところからスタートするケースがほとんどです。以前は機材一式をスーツケースに入れて満員電車に乗ったりもしたので、周りに申し訳ないと思いながら運んだこともありました(笑)」

ラプソードの”市民権”は確実に得られていると語る 【写真:白石怜平】

現在高野連に登録されている学校数は23年5月現在で3,818校(※高野連の部員数統計参照)。浸透度は上がりつつも、現在高校の野球部での導入数が140校強であるのを踏まえると、まだまだ伸びしろはある。

林教授は最近も、計測における需要があることを感じるシーンがあったという。

「先日も九州で約20人の指導者と一緒に選手の投球を見る機会がありました。私が画面を見ながら球速や伸び・投球タイプを示していると、参加した指導者の方々が『これ欲しくなりますね』と仰っていました。実際に目にする機会があればあるほど、より魅力に気づいて広がっていくのではないかと思います」

このコメントを受け、取材に同席したラプソードジャパンの山同建・日本支社長も補足した。

「私はユーザーエクスペリエンス(UX)と言っているのですが、実際に体験する場を広げていきたいです。まだ馴染みが薄い地域に”ここに行けば試せる”というような、気軽に使える場をもっと我々が提供できれば、選手たちの持つ可能性がもっと広がると考えています」

ラプソード”日本第一号”となったきっかけは?

林教授は日本でラプソードを導入した第一人者である。

話は17年に遡る。慶大の助監督だった林教授は、メジャーでチーム強化の指針の一つになっていたセイバーメトリクスやトラッキングシステムといったデータ分析関連についてかねてから興味を持っていた。

日本でこれらの分野に精通している國學院大學の神事努准教授のセミナーに参加し、実際に議論も交わすなどさらに興味が深まっていった。そんな中、慶大のチーム状況も重なり導入へと前進していった。

「当時は投手力に課題があったのですが、『球速を140km/h台にしよう』と目標を立てて取り組んでいくと、結果が出るようになったんですね。『スピードガンだけでこれだけ行けるなら、ラプソードを使って球質や変化量が分かったら、もっと良くなるのではないか』と」

林先生の導入から日本におけるラプソード活用が始まった 【写真:白石怜平】

さらに、「スピードガンを見てるだけでも面白いですし、他に計測するものがあるならもっと面白いだろうなと思っていました」と語るように、好奇心や向上心も持つ林教授。

まだ日本では販売されていなかったため、アメリカから取り寄せて同年春のキャンプから早速使用を始めた。

前例のなかった機器での計測で、使い方から何まで手探りだったという。それでも投手によって回転数が異なるなど実際のデータを見ると、常に新たな発見があった。

「ある投手2人の回転数を比較しました。(回転数の)多い投手を見て当時監督だった大久保(秀昭:現ENEOS監督)さんは、『この選手はプロに行く』と仰っていて、実際プロに入ったのでデータがマッチしてるなと。これでさらに面白いと感じましたね。スピードガン上の球速は同じ程度だったとしても、球質の違いが明確に出た。見た目には分かりづらい部分が、データを見るとより投手の特徴が細部に分かりやすくなりました」

この年のリーグ戦では春2位そして秋は優勝を果たし、助監督最後の年となった翌18年も春に優勝を成し遂げた。ここから日本におけるラプソード活用の歴史が開かれたのだった。

後編では、中高生に向けたラプソードの活用ポイントや、データ活用が進んでいる現在において、どんな指導者が一流になり得るかなどを語っていただいた。

(後編へつづく)
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著者プロフィール

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