「聖地」甲子園で繋いだ想い╱甲子園大会ディレクター・杉山智広
輝く選手たちを見つめる杉山 【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
大会当日球場の隅から甲子園を見つめる一人の男がいた。男の名は杉山智広、甲子園大会ディレクターだ。彼がいなければ大学準硬式野球の選手が「聖地」甲子園でプレーすることはなかっただろう。「準硬式を甲子園で」を掲げて大会を実現させた発起人であり、最大の功労者だ。杉山は22年前、夏の甲子園大会に日大三高の主将として出場し、真紅の優勝旗を手にしている。あの夏に誰よりも長く甲子園を体感した杉山は「甲子園は胸が躍る場所」と表現する。どんなに球場が近代化しても甲子園が奏でる土と風の匂い、差し込む太陽の光、ブラスバンドが発して反響する音、その全ては他の球場では味わえないものだと言う。
日大三高の主将として真紅の優勝旗を手にする杉山 【全日本大学準硬式野球連盟】
杉山がコーチを務める日大準硬式野球部は2022年に全国大会優勝、2023年は準優勝校であるが彼が選手と接するのは週末だけであり、専用のグランドや寮を完備していない。休日は公営の球場、平日は早朝から体育会寮の中庭を間借りして設置された狭いゲージの中でバッティング練習を行い、技術の向上を目指す。そんな環境にいても選手やスタッフには笑顔が絶えない。まるでこの環境を楽しんでいるかのようだ。自分達で考え、自ら率先して行動する。それは簡単に出来そうで誰しもが出来ることではないだろう。短時間しかない練習時間で効率的に成果を出すための工夫や日々のミーティングを重ねて野球に向き合う。彼らはただ野球が上手くなるだけではなく野球人として人間としてどうしたら成長できるのか、それを追い求めているように感じた。ここで経験した時間は自分達の将来に繋がっていくことを選手、学生スタッフ自身がよく理解しているのだろう。高校時代は甲子園常連校を含む強豪校の硬式野球部出身者も多く在籍しているが大学時代に硬式野球部ではなく準硬式野球部というフィールドを選んだのは新しい環境で野球人生を送ってみたいという想いがあるようだ。
日本大学準硬式野球部練習施設 【全日本大学準硬式野球連盟】
今大会はただ甲子園で野球をするだけではなく3日間に渡り様々なプログラムが組まれている。1日目は地元の小中学生との野球交流会、2日目は大阪市内の球場でプレゲームを開催、夕方からはJOCから講師を招いてのインテグリティ研修会、その後企業からゲストを招いての夕食交流会と続き、卒業後の視野を広げる目的と準硬式野球を通じて子供達に野球の楽しさを伝えていこうという試みが組まれている。これらを準備段階から学生で構成されるプロジェクトチームが中心となって動く。ここにも学生主体という準硬式らしさが見える。
大会前日のプレマッチ 各々の大学ユニホーム 【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
「明日は綺麗なユニフォーム姿で、そして最高にかっこいい姿で甲子園の舞台に立ってほしい。私が皆さんの一番のファンです。」
この言葉を聞いた学生達は改めて気持ちが奮い立っただろう。
11月14日の大会当日は2試合が組まれていた。1試合目はエキシビジョンマッチ。昨年雨天で中止となってしまった第一回甲子園大会のメンバーが集結して1年越しの晴れ舞台を経験する場が用意された。そして2試合目は今年選抜されたメンバーの試合。カメラ席には普段高校野球を中継するABCテレビ関連のカメラクルーがスタンバイして配信中継され、スタンドにはブラスバンド部が駆けつけ、応援歌が球場内に響き渡る。
名城大学應援團吹奏楽部 【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
野球を通じて中学生とノックでコミュニケーション 【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
大学準硬式野球を代表する石井投手(中央大学) 【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
勝利を収め喜ぶ東日本選抜 【全日本大学準硬式野球連盟 ©中西祐介】
「22年前に僕が見た景色と何も変わらない、やはり甲子園は特別な場所です」
野球の上手さだけでなく人間としての成長を願う「野球人」杉山からのメッセージを学生達は受け取ってくれただろう。彼らはこの経験を持って人生という勝負に挑んでいく。
(文/フォトグラファー 中西祐介)
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