【ダイヤモンドアスリート】リーダーシッププログラムレポート:スペシャルゲスト飯塚翔太が語る「国際人として海外で活躍するために必要な姿勢」
【アフロスポーツ】
リーダーシッププログラムは、ダイヤモンドアスリートに提供されるプログラムの「研修プログラム」の1つに位置づけられ、競技力向上と並行して豊かな人間性を持つ国際人の育成を目指して実施されるもの。個の成長を重視し、今期もさまざまなプログラムが予定されています。
例年同様に、メディアに公開されたなかで行われた初回は、男子短距離の飯塚翔太選手(ミズノ)がゲストとして参加。U20年代から国際水準の競技者として活躍し続けている飯塚選手から、自身の競技観や取り組み、豊富な経験などを聞いていくなかで、長年にわたって高いレベルで競技力を向上させ続けていくために求められること、豊かな人間性を持つ国際人になるとはどういうことなのかを学びました。
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1991年生まれの飯塚選手は、現在32歳。ダイヤモンドアスリートたちとは、干支でいうならひと回り以上の年齢差となります。この1991年度生まれの競技者には、若年層のころから高いレベルの実績を残してきた者が多く、「プラチナ世代」とも称されてきました。ユースおよびジュニア年代のころから活躍してきた面々が、そのままシニアへと移行し、日本を代表するアスリートとして陸上界を牽引する存在に成長している点が大きな特徴です。
飯塚選手は、その最たる例というべき存在で、国内では浜岡中、藤枝明誠高(ともに静岡)、中央大時代と各年代でトップクラスの成績を残してきました。国際大会においては、大学1年時の2010年に、モンクトン(カナダ)で行われた世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)男子200mで、同大会における日本初の金メダルを獲得する形で“衝撃デビュー”。シニアでの日本代表に初めて選出された2011年のアジア選手権(神戸)、同年のユニバーシアード(現ワールドユニバーシティゲームズ、中国・深圳)を経て、2012年にはロンドンオリンピックに出場を果たしました。以降は、チームジャパンの代表的な“顔”として男子スプリントを牽引し、オリンピックは3大会連続、世界選手権には2015年北京大会を除く2013~2023年までの5大会に出場。「日本の4継(4×100mリレー)」の中心選手として、世界やアジアの各大会で多くの入賞実績を残し、2016年リオデジャネイロオリンピックで銀メダル、2017年ロンドン世界選手権では銅メダル獲得(どちらも第2走者を担当)を果たしています。
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「長年、ずっとトップで活躍を維持できていることについて、何か意識してきたこと、人と違うと思うことはあるか?」という問いに、飯塚選手は次のような事柄を挙げました。
・気持ちの面が大きい。競技を長くやっているとか、自分の先輩か後輩かとかは気にせずに競技している。
・ケガが一番競技に影響が出るので、自分の体調や状態をチェックする項目をつくっていて、そこから外れることが増えると調整する。エラーが起きる前にやめるのがポイント。チェックには1時間くらいかけている。
・いわゆる生活日記をつけ、毎日、その日起きた出来事や、人から言われたことや感じたことなど、心に残ったことを書いている。そこではすべて前向きな言葉を使うことを心掛けている。
・練習日誌に書く内容は、感覚の部分が大きい。動きを細かく書くと連動性を失ってしまうこともあるので、音とか漠然とした感覚、ざっくりとした動きにしている。
・走りを修正するときは、走りそのもので直すのではなく、走る以外の別のアプローチ(例:ハイクリーンを行うなど)をして変えていくようにしている。
このなかで、「ケガしたときの心構え」「思うような結果でなかったときのメディア対応」などの話題から浮き上がってきたのが、飯塚選手の「すべての物事を前向きに捉えるようにする」という姿勢でした。例えば、ケガをして練習を中断しなければならないとき、「ケガをして練習ができないからといって、その場から離れてしまうと、戻っていくのが大変になる。もちろんリハビリなど内容自体は別のことを行わなければならないが、心は“ケガなんかしていない”という気持ちで普段と同じように過ごすことを意識している」と言います。「タイプによって違うと思うので、みんなに合うとは限らないとは思うが」と前置きしたうえで、飯塚選手自身は、何事に対しても肯定的に受け止めるよう心掛けていることを明かし、「すべてを“前向きにシフトするメンタル”は、習慣で自動的につくれるようになる」ときっぱり。「そのために、自分は日常生活のすべての場面で、必ずプラスに捉えるようにしている」と述べ、「例えば、車で信号待ちとなったときに、“信号待ちのおかげで景色を眺めることができた”と考えたり、鳥のフンが自身に落ちてきたときに、“地面が汚れるのを自分が防いた”と思ったり…」と話して参加者を笑わせるとともに、そうした日常的な取り組みが、競技面のさまざまな場面で生かされていることが示されました。
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・海外のレースでは、「今日のベストを尽くす」と臨んだときのほうが良い結果が出せている。朝起きて80%の調子だったとき、100%にしようとするのではなく、80%の調子を80%出すイメージ、
・スタートラインに立って気持ちがすごく上がってきたときに、その状況で冷静に燃えていけば記録は出る。ただ、これは種目によって異なるかもしれない、
といった飯塚選手の事例が示されたうえで、ダイヤモンドアスリートたちが、自身の種目特性や経験を踏まえながら、どんな状態のときに力を発揮できるかを話し、「自分の力を発揮するためのメンタル」について考えを深めました。
室伏マネージャーは、「海外に行くと、顔見知りの人が誰もいないなか、競う相手がどういう人なのかわからず、取り巻く空気も違ったなかの試合になる。そうした顔ぶれに、いきなり入っていったときでも自分の力を出し続けるマインドセットには、“自分のペースで”というのが必要となる」とコメント。飯塚選手が「開き直りは大切」と述べたうえで、「僕の場合は、招集所で自分からどんどん話しかける。もしかしたらウザいと思われているかも(笑)」と話すと、室伏選手からは「試合の前に、駆け引きというかマウントをとられるような言葉のやりとりを経験したことがある」という体験談が披露されました。
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ここで田原コーディネーターから出た「みんな海外に行ったときは、失敗したくないと思うはず。できるだけ失敗しないような、あるいは失敗を減らせるようなコツは、何か具体的にあるか?」という問いに、飯塚選手は、「まず、“失敗”というワードを使わない」と即答。「うまくいくか、学ぶかしかない」と述べ、「“成功か学びか”と受け止め、失敗ということにしなければいい。そうすれば、たとえ失敗したとしても、“学べてよかった”と考えられるようになる」と話しました。また、「“楽しむ”が最初に来るのが大事。どんなことがあっても、“楽しい”と思えるのが一番」「海外に出るのは、早いほうがぜったいにいい」といったコメントも。やはりここでも、物事を前向きに捉えるスタンスが伺えました。
最後のテーマとなったのは、「今後の陸上界、飯塚選手のビジョンは?」という話題。飯塚選手は、近年、シーズンオフに開発途上地域へ出向き、現地のアスリートや子どもたちと交流する機会をつくっています。昨年からはJICA(ジャイカ、国際協力機構)海外協力隊の活動視察やサポートとしての訪問を実施していて、昨年は南アジアに位置するバングラディシュへ、今年は10月に東アフリカのルワンダを訪れました。
冒頭にも述べた通り、ダイヤモンドアスリートの目指す姿には、競技だけでなく、豊かな人間性を持つ国際人となることも掲げられています。田原コーディネーターは、そのロールモデルともいえる活動に取り組むに至った経緯や実際に行っていることを飯塚選手に尋ねていきました。
そこで出たのは、「特に、深い理由はなくて、楽しいから」という言葉でした。最初は、「ユニバーシアード(2013年カザン大会)でアフリカ(エスワティニ)の200mの選手(シブシソ・マツェンジワ選手)と仲良くなったのがきっかけ」で、2018年に単身でエスワティニへ行った際、現地の子どもたちに陸上教室を行うなどの交流を経験したことが、「すごく楽しかった」からだと言います。
「貧困にある地域や貧富の差が大きな国に行って、いろいろな子どもたちと会うが、日本を知らない子どもたちもいれば、陸上競技というものを知らない子どもたちもいる。そこでは、まさにスポーツは共通語というイメージ。走りを見せたり教えたりするなかで仲良くなれるし、いろいろな国のことを知る機会にもなる。僕自身は、走りを教えた子どもたちが、家に帰ってご飯を食べるときの話題にしてくれたらなという気持ちだし、それがきっかけでスポーツを好きになってくれたらいいなと思っている」と話しました。
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質疑応答では、「いろいろなところで示されている事柄以外で、海外に出たときに気をつけたほうがいいことはあるか?」という問いに、飯塚選手はまず「自分は基本的にアドリブで動いている」と茶目っ気たっぷりに応えたうえで、「“そういうものだ”と思うこと。オリンピックや世界陸上はきちんとしているけれど、それ以外の試合の場合は、何があってもおかしくない。時間が変わることもあれば、場所が変わったり、いきなり種目が変わったりなくなったりすることもある。期待せずに、“そういうものなんだ”と思って、流れに任せていくこと。いい話のネタができたと受け止めたほうが、気が楽になる」とアドバイスしました。
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取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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