【マイルCS】ナミュール直線一気の15頭ごぼう抜き、代打で大仕事の藤岡康太「馬の頑張りに尽きる」

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マイルチャンピオンシップはナミュールが優勝、代打・藤岡康太騎手に導かれ豪快な伸び脚で突き抜けた 【Photo by Shuhei Okada】

第40回マイルチャンピオンシップが11月19日、京都競馬場1600メートル芝で行われ、藤岡康太騎手騎乗の5番人気ナミュール(牝4=栗東・高野厩舎、父ハービンジャー)が優勝。4コーナー最後方から最後の直線、一気の追い込みで前を行く15頭をごぼう抜きしGI初制覇を飾った。良馬場の勝ちタイムは1分32秒5。

 ナミュールは今回の勝利でJRA通算13戦5勝、重賞は2022年チューリップ賞、23年富士ステークスに続き3勝目。騎乗した藤岡康太騎手、同馬を管理する高野友和調教師ともにマイルチャンピオンシップ初勝利となった。

 なお、クビ差の2着にはジョアン・モレイラ騎手騎乗の3番人気ソウルラッシュ(牡5=栗東・池江厩舎)、さらに半馬身差の3着には坂井瑠星騎手騎乗の7番人気ジャスティンカフェ(牡5=栗東・安田翔厩舎)が入線。1番人気に支持されていたクリストフ・ルメール騎手騎乗のシュネルマイスター(牡5=美浦・手塚厩舎)は7着、川田将雅騎手騎乗で連覇を狙った2番人気セリフォス(牡4=栗東・中内田厩舎)は8着に敗れた。

ムーア騎手の落馬負傷により急遽の乗り替わり

急遽の代打騎乗となった今レース、数々の経験をしてきた藤岡康太騎手ですら「なかなか感じたことがないプレッシャーだった」と明かした 【Photo by Shuhei Okada】

「コウタ、おめでとうー!」

 観客席から飛ぶ大きな声援を受け、ナミュールの馬上では藤岡康太騎手の大きな笑顔がはじけた。2009年にジョーカプチーノで制したNHKマイルカップ以来、実に14年ぶりのGI勝利……というだけではない。自身2度目のビッグタイトルはライアン・ムーア騎手の落馬負傷による急遽の代打という、思いがけない形で巡ってきた。

「GIでこれだけ力のある馬の依頼をいただきましたが、急遽の依頼というのもあまりないことですので、今回はなかなか感じたことがないプレッシャーだったと思います」

 デビュー17年目を迎え、11月18日時点でJRA通算767勝、重賞勝利も21を数える一流ジョッキーですら感じたことがなかったという重圧。それをはねのけての勝利だっただけに、まずは嬉しさよりも「ホッとした」というのが鞍上の偽らざる心境であり、だからこそファンも大仕事をやってのけた藤岡康太騎手に惜しみない拍手と声援を送り続けた。

腹をくくって直線勝負「あとは自分が間違わなければ」

直線で馬群をこじ開けて一気の伸び、まさに気迫の騎乗だった 【Photo by Shuhei Okada】

レースで1つのポイントとなったのはゲート。「タイミングが合わず、伸び上がるような形になってしまった」と、藤岡康騎手。同じく発馬機内でエキサイトしてしまい、その上、スタート直後にソーヴァリアントと接触してしまった1番人気シュネルマイスターとともに道中は最後方グループのポジションになってしまった。レース前には高野調教師と短時間ながら細かい箇所まで打ち合わせし、前走の手綱をとったモレイラ騎手からも特徴を聞くなど、テン乗りながらイメージを膨らませていた藤岡康太騎手としても、この位置取りはあまり想定していなかったという。

「リラックスして走らせてあげることが最後の伸びにつながる。そこを一番、意識しました。スタートのタイミングが合いませんでしたが、あのポジションになってしまったのでもう気持ちを切り替えて、変にリズムを崩すよりは馬にとって良いリズムとバランスで直線を迎えられるようにと意識した道中でした」

 腹をくくった後方待機策。3コーナー下りからジワリとポジションを上げに行ったシュネルマイスターとは対照的に、藤岡康太騎手とナミュールはまだ動かない。4コーナー手前ではとうとう一番後ろの位置取りとなった。だがそれは“イチかバチか”のギャンブルではない。手綱を通して伝わってくる手応えは、間違いなく『勝利』を確信させてくれるものだったからだ。

「道中、3コーナーの下りから凄く手応えが良くて、(手綱を)放せばすぐに反応してくれそうな雰囲気がありました。ギリギリまで追い出しを我慢して、あまり外を回らないように内めも意識しながら進路を探していました」

 あとは自分がコース取りを間違わなければという気持ちだった、とも語っていた藤岡康太騎手。その気迫が馬群をこじ開け、ビクトリーロードへと導かれたナミュールはまさに弾丸のような伸び脚。一方で、「少し強引な進路取りで、そこは反省点」と振り返ったように、レッドモンレーヴを外にはじく形にもなってしまい、この外側斜行により過怠金3万円の制裁が科せられた。しかし、あの進路だからこそ最後は突き抜けたのだろうし、藤岡康太騎手のコース取りは間違いではなかったとも言えるだろう。

ついに迎えた充実期、一番の成長要因は飼い食いの改善

高野調教師(右)はナミュールの成長について「飼い食いが一番。馬体のつくりが2、3歳とは全然違う」と語った 【Photo by Shuhei Okada】

「貧弱だったころのナミュールだったら、あの場面はそのまま閉じ込められていたと思う。それを跳ね返してくれました。まず馬体を見ても分かるように、2、3歳のころとは馬のつくりが違います。今日のような馬体になったら凄い馬になると思ってきましたが、まさに今、そうなってきていますね」

 直線を豪快に突き抜けたシーンを振り返り、高野友和調教師は愛馬の成長に目を細めた。2歳時からGIで1番人気になるなど高い評価を受けつつも、あと一歩のところで結果を出せず、4歳秋にしてついにつかんだ悲願タイトル。「心の底から嬉しいというのはこういう気持ちなのか……と。涙も出てしまいました」と、言葉にならない心境を語った。そして、1年半ぶりの勝利となった前走の富士ステークスから連勝でのGI勝利と、ここに来てナミュールが充実期に入った一番の要因は“飼い食い”だと明かす。

「食欲が増したので、その食べた物がしっかり身になっている。そこが一番だと思います。以前は馬が食べられる餌を模索しましたが、食べられない時というのは何をやっても食べられない。これは本当に馬の成長によるもので、体力がついて普段の調教や競馬が肉体的に楽になってきた。それで内臓も強くなって、よく食べられるようになった。本当、馬自身の成長ですね」

同じ勝負服の偉大な先輩リスグラシューを目標に

今後はマイル以外の距離にも視野に入れているナミュール、目指すは同じ勝負服の偉大な先輩リスグラシューだ 【Photo by Shuhei Okada】

2歳時からの人気とこの馬の素質を考えれば、GI獲りに少し時間はかかってしまったものの、まだ4歳。遅咲きのGI牝馬として、高野調教師は同じ勝負服のあの名牝を目標に掲げていることも明かした。

「同じキャロットクラブさんの先輩にリスグラシューという素晴らしい馬がいます。後々、同じような成長曲線を描ければいいなと思っていたのですが、そのリスグラシューに近づけるような一歩を踏み出せているのではないかなと思っています」

 ナミュール自身は今回の勝利を含めキャリアの5勝すべてがマイル戦。しかしながら、完成前の3歳時にオークス3着、エリザベス女王杯5着の実績があることから、トレーナーは「距離のレンジはもう少しこなせると思う」と、今後はマイル以外のレースも視野に入れている。

藤岡康太の騎手人生は日々の積み重ね

騎手としてのここまでの道のりを「日々の積み重ね」と語った藤岡康太騎手、近い将来のGI・3勝目を期待したい 【Photo by Shuhei Okada】

また、時間がかかったと言えば、2度目のGI制覇までに至る藤岡康太騎手も同じだ。こちらはデビュー3年目の若手時代に初GI勝利を成し遂げていた分、「レースを重ねるごとにGIの重みを感じていました。本当に勝つことができて嬉しいです」と、改めて14年ぶりの美酒をかみしめた。そんな藤岡康太騎手がこれまでの騎手人生で大事にしてきたものとして挙げた1つのワードが“積み重ね”。

「ここまで来られたのも日々の積み重ねだと思っていますし、こうして巡り合ったチャンスに結果で答えることができて本当に良かったです。ここからさらに頑張っていきたいですし、時間はかかりましたがGI・2勝目を挙げることができました。これからも一つひとつ積み重ねて、次のGIに向けて頑張ります」

 そして、今回の好騎乗を称賛する声に対してはひと言、「今日はナミュールの頑張りに尽きると思います」と、自らのことには触れず、どこまでも謙虚に新マイル女王を讃えたのだった。(取材:森永淳洋)
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