オリンピック追加競技決定で注目のスカッシュ。魅力、戦略”T”とは…?

笹川スポーツ財団
チーム・協会

ピラミッドの前で試合を開催 【写真:PSA World Tour】

2028年ロサンゼルスオリンピックの新規正式種目に採用され注目度が高まる「スカッシュ」。本日まで第52回全日本スカッシュ選手権も開催中です。

「スカッシュ」と聞いたことがある人も多いはず!でも、内容やルールなど詳細を知らない方が多いかもしれません。今回はスカッシュのルール、戦略などを紹介します。戦略には「T」「ニック」など聞きなれない言葉が…そして「こんなところで試合!?」と、スカッシュの魅力が目白押しです。

本文:植松 大介(笹川スポーツ財団 経営企画グループ/日本ワールドゲームズ協会 事務局/日本スカッシュ協会 理事)

壁の中で繰り広げられる熱き戦い

日本時間の2023年10月16日夕刻、世界中のスカッシュ競技関係者が歓喜に沸いた。2028年ロサンゼルスオリンピックの新規正式種目に採用された瞬間であった。しかし「スカッシュという競技を耳にしたことはあるが、どういうものかは・・・」という人は意外と多い。

スカッシュは「3次元ビリヤード」とも呼ばれ、敏捷性、耐久性、戦略、精神的・物理的な強さなど、様々要素と面白さを備えたスピーティーでダイナミックなラケットスポーツである。その運動量はテニス、バドミントン、卓球など他のラケット競技より上と言われている。競技人口は愛好者を含めると世界2500万人。またForbes Magazineは、スカッシュは最も健康的なスポーツの1つとして選ばれており、年齢、性別、競技能力も問わない、年間を通して楽しめる室内競技※ であると発表している。

※近年の世界大会では写真のように屋外開催も実施されており、2019年の世界選手権はエジプトのピラミッドの前に特設コートを建設し大きな話題となった。

昨年開催された第51回全日本スカッシュ選手権大会の様子 【写真:(公社)日本スカッシュ協会】

ルール

幅6.4m、奥行き9.8m、高さ約5.6m、四方を壁で囲まれた空間の中で小さな中空のゴムボールを使う。ボールがサーブされたら、プレイヤーは交互にボールをフロントウォールに打ち返す。ボールはいつでもサイドまたはバックウォールに当たっても構わないが、アウトラインより下、ティン(フロントウォール床下から43cmのエリア)より上でなければならない。ボールは床にワンバウンド以内で返球、プレイヤーはコート内のどこにでも移動が可能である。

■得点
試合は3または5ゲームのベストオブマッチで、各ゲーム最初に11ポイントを獲得した選手が勝者となる。ただし10対10の同点の場合はどちらかが2ポイントリードするまで続行される。(タイブレーク)サーバーはラリーに勝利すると1ポイントを獲得し、サーブ権を継続。レシーバーがラリーに勝利すると1ポイントを獲得し、サーブ権が移動する。

聞きなれない言葉…スカッシュの戦略 ”T”!

コートの中央近くの赤い線の交差点“T” 【写真:AdobeStock】

スカッシュでの最も基本的な戦略の一つで、コートの中央近くの赤い線の交差点“T”にいち早く戻ることである。この位置がプレイヤーにとって最短最速でコート内を移動できるポイントとなる。スカッシュ競技はこの”T“の陣取り合戦と言っても過言ではない。この場所を制することで最も得意とするラリーの展開、ウィニングショットを繰り出すことができる。トップレベルでの試合ではラリー時間が長くなり、お互いの体力勝負となることは少なくない。大抵勝つのはTの占有率が高い選手である。

■戦略 ”ニック”
壁と床の接着している部分を“ニック”と呼ぶ。この部分にボールが入るとボールは弾まず、転がるのでウィニングショットとなる。このニックを目がけてボールを打つことを“ニックショット”と呼び、試合中選手達はこのニックショットを打てるよう、様々なショットのバリエーションを用いてゲームを展開する。

■戦略 ”壁際”
四方を壁に囲まれている競技の特性故に、横の壁と正対することが多い。選手は互いに意識的に壁際を這うボールを打つ。相手選手のラケットコントロールが非常に難しく、自身にとってのチャンスボールを作る機会が増える。

妨害について

選手はラリー中、常に相手にラケットやボールが当たる(妨害)危険がある。もし相手がプレーへの妨害を感じた場合、その選手はそのまま続行するか、もしくはプレーを中止し、審判へ申告“レット“することができ、審判に判定を委ねる。 審判は2人の位置、ボールの状況を判断して判定を下す。

判定のコールは3種類で、
「レット」:攻撃的なショットは無理でも、返球はできると判断。ノーゲームとして、サービスからやり直しをする。
「ストローク」:ウィニングショットが打てたと判断。申告した選手にポイントが与えられる。
「ノーレット」:申告を却下、相手側にポイントが与えられる。

余談だが、世界で最も長いラリーは公認試合では7分、非公認試合では10分34秒という記録が残っており、どちらも「レット」と判定が下された。

スカッシュの魅力

昨年開催された第51回全日本スカッシュ選手権大会。ショッピングモール「トレッサ横浜」で行われた。 【写真:(公社)日本スカッシュ協会】

コンパクトなコートで行われるスカッシュ。冒頭の写真のようにピラミッドの前に設置したり、全日本スカッシュ選手権大会はョッピングモール内で試合が開催される。スポーツのイメージが湧かない場所で競技が行われるので、非日常を味わえる。

技術戦略はもちろんのこと、精神的な駆け引き、1つのショットから生まれるラリー展開で勝敗が大きく変わってしまう繊細なゲームでもある。「床から1cmボールが浮いていれば拾える」とも言われており、試合によっては1つのラリーが数分にも及ぶ事もある。1点を取るために繰り出される選手達のプレースタイルや多彩なショット、戦術展開、表情の変化は様々で、そこも競技の魅力の一つといえるであろう。

2028年ロサンゼルス大会での追加競技決定が決まった今、機会があるときに、スカッシュの試合会場へ足を運んで頂き、その競技の面白さを体験して頂けたらこんなに幸せなことはない。

※本記事は、2023年11月17日に笹川スポーツ財団ホームページに掲載されたものです。
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著者プロフィール

笹川スポーツ財団は、「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進するスポーツ専門のシンクタンクです。スポーツに関する研究調査、データの収集・分析・発信や、国・自治体のスポーツ政策に対する提言策定を行い、「誰でも・どこでも・いつまでも」スポーツに親しむことができる社会づくりを目指しています。

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