【浦和レッズ】「僕はショルツと同じ立場」「日々試されている」酒井宏樹と岩尾憲のルヴァン杯への強烈な欲【前編】
【©URAWA REDS】
チームミーティングの際にキャプテンの酒井宏樹が「憲さん、頼みます」と言って差し出した右手を、岩尾憲はがっちりと握り返した。
時間にしてほんの1、2秒――。
しかし、それだけで十分だった。
第1戦の終盤にレッドカードを提示され、第2戦に出場できない酒井は、自身に代わってキャプテンマークを巻く岩尾に思いを託した。
一方、岩尾にも思うところがあった。レッドカードのひとつ手前のシーンで相手のカウンターを止め切れず、カバーに入った酒井がファウルを犯さざるを得なくなったのだ。
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責任の一端は自分にあるという思いが、胸中に渦巻いていた。
「僕が止められなかったこともあって、宏樹が出られない状況になったので、キャプテンマークを巻いて次に進めるかどうかは、僕の人生において重要なことだと位置付けていました」
もっとも、岩尾がこの第2戦に懸けていたのは、そうした責任感だけが理由ではない。
第1戦で負った1点のビハインドをひっくり返してファイナルに進む――。
そのミッションに、岩尾は浦和レッズにおける自身の存在意義を懸けていたのだ。
「この日のために僕は浦和に来たんだ、と感じていました。このシチュエーションを乗り越えられなければ、浦和は変わらない。僕は未来を作っていかなきゃいけないと思っていました。そこに、自分がこのチームに来た意味がある、と――」
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じりじりする試合展開をスタンドから眺めていた酒井は、チームメイトの戦いぶりに手応えを感じていた。
「みんなのパフォーマンスは良かったし、マリノスは少し良くなかった。これは(2試合合計で)逆転できるなって。ただ、(早川)隼平のゴールが取り消されたように、勝負事には運も絡んでくる。僕としては、このパフォーマンスで勝てないのならしょうがない。そんな気持ちでみんなを信じ、勝利を祈るだけでした」
スコアが動くのは63分だった。早川が倒されてPKを獲得すると、アレクサンダー ショルツがゴール右に決めて2試合トータル1-1の同点に追いついた。レッズサポーターの声量も増していく押せ押せムードのなか、後半アディショナルタイムに再びPKを獲得し、ショルツが今度は左隅に決める。
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「こういうゲームでしっかり勝てるっていうことは、僕たちは持っているのかなって。今シーズンは大崩れすることなく、粘り強く戦えるようになったと感じています。リーグ戦で勝ち切れない試合が多いのは課題ですけど、選手もスタッフも120%の力を出して戦ってきたことも事実。浦和ってなんで勝っているんだろう、なんで負けないんだろうっていうゲームが今シーズンは多いと思うんですけど、それこそが浦和が強くなってきた証かなって」
そこで酒井が持ち出したのは、レアル・マドリーだった。歴代最多となる14度の欧州制覇を誇る“スペインの巨人”は、試合内容がいつも良いわけではないが、それでもラ・リーガを制し、欧州チャンピオンズリーグでも上位に進出する。
そういうチームに浦和もなりつつある、と酒井は実感しているのだ。
「僕が加入した2年半前、浦和はプロ意識が少し足りないなって感じたんです。当時の浦和はスタイルにこだわる傾向があった。形から入るというか、綺麗に崩そうとするというか。もちろん、それも大事なんですけど、僕が9年間過ごしたヨーロッパでは、勝つか負けるか、それがすべて。
負ければ、自分のポジションに新しい選手がやってきて、自分の立場が危うくなる。そうやって日々、勝利に執着して戦うのがプロの集団だと思っていて。そういう意味で、今の浦和はプロ意識が強くなってきたと感じます」
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「ACL(AFC チャンピオンズリーグ)決勝が4月にあったから、そういうチーム作りにせざるを得ない部分もあったのかもしれませんが、監督の方向性や方針にブレがないので、チームとして勝利を目指して前に進みやすいのかなって思います。ただ、僕や他のベテラン選手も、プロとしての姿勢を示してきたつもりです」
まさに横浜FMとの第2戦は、そうした浦和の成長を表すゲームだったのだ。
一方、試合終了後にピッチで咆哮した岩尾に込み上げてきたのは、安堵だった。
「浦和の未来を作るうえで何が必要なのか、何をしないといけないのか、自分の中ですごく大事に捉えていましたし、同時にプレッシャーも感じていました。自分がここでプレーする意義というか、価値のある選手なのかどうかが問われる試合だと思っていたので、みんなの頑張りのおかげですけど、良い結果で終われて良かったです。延命できたというか(笑)」
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自分は浦和レッズから必要とされる選手なのか。
自分は浦和レッズに何を残せるのか。
例えば、酒井や興梠慎三、西川周作はJ1リーグや日本代表、欧州での実績と、実績が証明する実力が評価され、三顧の礼で迎えられた選手たちだろう。
だが、自分はそうではない、と岩尾自身は捉えている。
「これは僕の感覚ですけど、おそらく浦和が僕を獲ってくれた理由は、あまりないと思うんです。エビデンスもあったかもしれないですが、どちらかと言うと、監督がリカルド(ロドリゲス)だからという文脈で獲って、『あなたに何ができるんですか?』と試されている。そこで結果を出せなければ、アウト。また新しい選手を獲ってタイトルに向かって戦う。
ここって、そういうクラブじゃないですか。だから、僕は日々テストされているという感覚です。自分に何ができるか証明しないといけない。証明し続けないといけない。それができなければ、僕の浦和でのキャリアは終わってしまう。これは自分との戦いです」
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「そもそもACLの出場権自体(21年天皇杯優勝)、自分で掴んだものではないし、厳密に言うと、あれは2022年の大会なので。2023年で言えば、天皇杯は負けてしまったし、リーグ戦はまだ可能性があるものの他力に頼らなければならない。ACL(2023/24)のグループステージも厳しい状況にある。
そのなかで、このルヴァンカップが唯一、自分たちが残せた希望というか、目の前の相手を倒せば掴めるタイトル。もしこれを逃して、リーグ優勝にも届かなければ、『23年に何も獲れなかった人ですね』っていうことになる。それはすごく嫌なんです。『じゃあ、お前じゃなくていいよね』って。だからこそ、ここでルヴァンカップのタイトルをしっかり掴みたい。そんな欲求に強烈に駆られています」
チームにおける自身の存在意義――。
それはもちろん、選手によってさまざまだろう。岩尾とは異なる形で、酒井もしっかりと認識している。
「周作くんや慎三さん、阿部(勇樹)さんもそうですけど、彼らはクラブにとってレジェンド的な存在ですよね。でも、僕はそういう存在になりたいとは考えてなくて。どちらかと言うと、僕はショルツやマリウス(ホイブラーテン)、ホセ(カンテ)と同じ立場だと思っている。つまり、助っ人というか。その覚悟で来ているし、そうじゃないといけないと思って常にプレーしているので、居心地が良くなるようにはしていないんです――」
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