台湾在住記者がファイターズファンに送る、「台湾の宝」孫易磊徹底ガイド
10月16日に台北市内で行われた記者会見、子どもの頃からこの日を夢見ていたという孫易磊は笑顔 【(C)CPBL】
10月16日に台北市内で行われた入団記者会見を終えた後、孫は10月22日から開催された日本の国体に相当する全国運動会に新北市代表の一員として主に野手で出場、ヒットを放ったほか、24日のチーム最終戦では登板し、1回を無失点に抑えた。そして29日、日本へと飛び立った。
8月31日から9月10日まで地元台湾で開催されたU18ワールドカップで、孫易磊は自己最速を更新するMAX156キロの直球と、キレのいいチェンジアップ、フォーク、スライダーなど変化球のコンビネーションで、決勝の日本戦を含め4試合14回、被安打5、15奪三振、防御率0.50という圧巻の投球をみせた。堂々としたマウンド上での姿が印象深いが、マウンドを下りれば、この9月に中国文化大に入学したばかりの18歳だ。ファイターズの綿密な育成計画、外国人選手に対する手厚いケアは知られており、チームメイトも暖かく迎えてくれるだろうが、とはいえ、言葉や文化の異なる国で、ファンの声援が励みになることは間違いないだろう。
10月30日、「エスコンフィールド HOKKAIDO」で入団記者会見が行われたが、この記事では、特にファイターズファンの皆さんに孫易磊のことをより身近に感じ、応援してもらえるよう、プロフィール、台湾球界関係者の証言、台湾メディアの報道、知られざるエピソードなどを紹介しよう。
記者会見は終始、和やかなムードのなか、行われた 【(C)CPBL】
中学時代も、ポニーリーグワールドシリーズでは準決勝で勝ち越し本塁打、決勝では先発で勝ち投手となり優勝に貢献するなど各大会で活躍。高校は兄の母校で、ファイターズの“先輩”王柏融のほか、陳冠宇、王彦程らを輩出している台湾を代表する強豪、穀保家商に進学すると、入学直後からレギュラー入りを果たした。1年時はほぼ野手専任、2年時からは主軸を打ちながら登板機会が増加、新3年で迎えた昨夏のU18ワールドカップでは、「二刀流」選手の一人として外野手登録も、オーストラリア戦では先発し3回1失点、登板日以外はDHやライトで出場、バットでも準優勝に貢献した。
高3進級後は、投手が主となり、重要な試合でマウンドを任せられることが増えた。台湾プロ野球のドラフトへ参加なら上位指名は確実とみられていたが、夢である海外球界挑戦を希望し、今年の年初にはオファーを待つために大学へ進学することを表明した。2月から3月にかけ行われた主要大会のひとつ、高校野球リーグでは決勝で先発、好投しMVPを受賞すると、5月末から6月初旬にかけ開催されたU18ワールドカップ代表候補選抜大会、玉山杯の4強入りを決める一戦では、MAX149km/hの直球に、千賀滉大を参考にしたというフォークを交え、4回2/3、被安打2、無四球、自己最多の10奪三振と好投、ピッチングに凄みが増し、スカウトの評価もうなぎのぼりとなっていった。
しかし、これほどの存在感を示しながらも、この時点では台湾の高校球界で最も脚光を浴びていたわけではなかった。当時、メディアの関心は、高校のチームメイトで、昨年のU18ワールドカップ日本戦で勝ち投手となったもう一人の「二刀流」、MAX154km/hの剛腕、林盛恩をめぐる日米球団の争奪戦に注がれていたのだ。結局、林は6月6日、シンシナティ・レッズと契約、当初、林は今年のU18ワールドカップでも主戦投手として期待されていたが、レッズは林をまず野手で育成することを決定、帰国して投手として代表合宿に参加することが困難となった中、最終的に選外となった。 こうした経緯もあり、代表候補に選出された時点では外野手登録だった孫易磊は、代表合宿でも好調なピッチングを維持、代表のエースに指名され、U18本大会では投手に専念し、大黒柱として活躍した。
小学校時代から本人を知る解説者の陳師正氏は、こうした急成長について、まず母校、穀保家商の育成力が台湾高校球界屈指であること、並行して、兄・易伸と親しく、海外挑戦について度々相談をしていたというMAX159km/h右腕、劉致榮(レッドソックス2A)が通う施設で、フィジカルの強化を行ってきたことも大きかったと指摘、「元々素晴らしい選手だったが、本人の努力もあり、今年に入ってからストレートは8キロから10キロアップした。変化球も、代表合宿で他校のエースたちと球種や握りについて情報交換をしあい、特に初戦のオーストラリア戦で決め球となったチェンジアップは、キレが大きく増した」と分析した。
また、穀保家商の元監督、周宗志氏は、高1から卒業まで停滞期がなかったと指摘、「何をすべきかよく知っており、自分を厳しく律することができる。高校生でここまでできる選手はなかなかいない」と称賛、伸びしろは計り知れないと断言した。15年の在任期間中、日米含め70人近くのプロ選手を産んだ名指導者の言葉だけに、説得力がある。
高3進級後、特に今年に入ってからピッチングの凄みが増していった 【(C)CPBL】
記者会見では「子どもの頃から、自分の入団会見の日を夢みてきた」と語り、司会者から今日のメディアの人数は満足かと聞かれると、茶目っ気たっぷりに「十分です」と答えて笑わせるなど「強心臓」はもちつつ、いざ一対一で話を聞くと、姿勢を正し、しっかり相手の目をみながら、自分の言葉で答える、そんな誠実さと賢さも兼ね備えている。
稲葉GMは10月16日に行われた記者会見で、ファイターズが海外のアマチュア選手と契約するのは孫易磊が初めてであること、そして、その歴史的一ページにふさわしい投手だと思っていると述べたうえで、本人の将来的な夢だという米球界挑戦についても考慮してか、「『台湾の宝』であり、将来的に世界で戦える投手になれるよう、大切にしっかりと育てたい」と語った。
台湾メディアから、孫易磊の魅力や、視察したU18ワールドカップで、獲得を決めた瞬間について問われると、稲葉GMは、何といっても力強いストレート、さらに、今春から急成長し伸びしろに期待できること、頭の良さなども挙げたうえで、3対0で迎えたアメリカ戦の最終回、7回裏一死一塁で救援登板した際、「強気のまっすぐで押し、逃げなかった姿」と打ち明けた。
また、支配下登録のタイミングや、「二刀流」育成の可能性について稲葉GMは、「打撃についてもおもしろいものをもっている」と評価したうえで、「まずはピッチャーとして、しっかり、じっくり育てていきたい」と答えた。
一方、孫易磊は、MLB球団を含め複数球団からのオファーがあった中、ファイターズを選んだ理由について、ファイターズが唯一、まず両親を尋ね、丁寧に育成プランを伝えるなど、家族をしっかり重視してくれたことに心を動かされた、と説明した。ファイターズは両親が日本の孫易磊を訪ねやすいよう、往復の航空券も契約に盛り込んだと言われており、マネージメント会社はその枚数からも「誠意」は十分伝わってきたと語った。孫易磊は、渡航前の多忙なスケジュールの中、両親と兄・易伸が出場する台湾プロ野球の二軍チャンピオンシップを観戦にいくなど、家族思いでもある。
記者会見にはご家族もかけつけ、記念写真 【(C)CPBL】
また、ファイターズファンのフィーバーぶりを伝えると、「入団できてとても嬉しいです。温かい声援ありがとうございます。日本でも精一杯頑張るので、よろしくお願いします」と話してくれた。現時点の日本語は、五十音は覚えたものの、文字はまだ書けないレベルだといい、当面は通訳さんを通じてのコミュニケーションになるだろうが、18歳、吸収は早いだろう。
10月30日の記者会見でも明らかにされたように、ファンには「イーレイ」と呼んで欲しいとのことだ。国頭や鎌ケ谷で背番号「196」をみかけたら、是非、「イーレイ、加油(チャーヨウ)!」と声援を送ってもらいたい。
日本で対決したい打者について問われると、間髪をいれず佐藤輝明(阪神)の名前を挙げた。実現は一軍、交流戦でということになる。台湾でも話題沸騰の新球場のマウンドで、孫易磊がファイターズファンを歓喜させるピッチングをみせてくれるのはいつの日か、今からその日が楽しみだ。
※情報は10月30日時点のもの
文・駒田英
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