マイナビ仙台レディース 2023-24シーズンインタビューvol.5
「スプリントトレーニングで女子サッカー界に革命を起こす。“正しい走り”でサッカーは変わる」 スプリントコーチ 秋本真吾さん(いわきFC所属)
【©mynavisendai】
――マイナビ仙台レディースで今季から始まった「スプリントトレーニング」。秋本さんはスプリントコーチとしてどのようなことを指導されていますか?
「『スプリントコーチ』とは、僕が現役を引退してから自分で新しく作った職業なんです。スプリントには『短い距離を速く走る』という意味合いがあります。現場でコーチングしていく中で、僕も学んでいるのですが、良い走りとは、正しく走ることです。けががなくなったり、足がつらなくなったりするとか、エコで効率よく走るという要素があります。実際に選手からは『足がつらなくなった』『90分走り切れるようになった』という声を聞きます。」
――「正しく走る=エコで効率よく走る」ということなんですね。
「僕も自分でやっていた競技を振り返ると400mを走ってハードルを飛ぶという効率を求められる種目をしていました。良い走りをしている時は、がむしゃらにゴリゴリ走っている訳ではなく、リズムやフォームに矢印を向けて走っている時なんですよね。サッカーは相手主導で動かなければいけないシーンもありますが、そこでいったん自分に矢印を向けて、フォームを整えていくという意味合いですね。正しい接地、正しい腕振り、正しい姿勢をすることによってフォームがどんどん整えられていき、速度が上がっていきます。」
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「これまでも、INAC神戸さんや、浦和レッズさんなど女子のチームを見させてもらいました。中島(依美)さんもI神戸時代に見させてもらっているんです。それから被災地支援の一環で、JFAアカデミー福島にも、毎年走りの授業に行っていたのですが、そこで高平(美憂)さんや太田(萌咲)さんにも教えていました。いろいろな人に教えていたので、女子サッカー選手の指導自体は初めてではないですが、継続的に教えていくのは、マイナビさんが初めてです。回数が多く、頻度も高ければ成果が出やすいです。そういうところで貢献したいと思っています。」
――秋本さんのスプリントトレーニングは毎週火曜日のメニューに組み込まれています。継続的に取り組めるのは良いことですね。
「そうですね。スポット的な指導になると教わったものを忘れてしまうことがあるんです。何か月に一回という頻度だと、フォームが元に戻ってしまって、また直してということになり、成長が見えにくい。いわきFCも毎週水・木曜日にトレーニングに行っていますが、頻度が高い方が結果にコミットしやすくなります。ここから、マイナビ仙台レディースもリーグ戦に向けての期間が勝負だなと思っています。」
――秋本さんはいわきFCでも深くチームと関わりトレーニングを継続してこられました。そこで選手たちの変化はどう感じられたのですか?
「いわきでは、JFLで優勝した後に、J3で最初のシーズンから年間を通してトレーニングを続けてきましたが、全選手が最高速度を更新しました。チームの総走行距離もJ3で優勝した時は140%くらい走れていた試合も5、6試合ありました。最高速度は今年さらにベストを更新している選手もいます。目に見えてわかる変化として、シンプルに足が速くなり、スプリント回数も増えている。組織で継続してやらせてもらうとこれくらい変わるということは、僕もいわきでやらせてもらって自信がついたところです。個人で契約している選手は、カタパルト(選手のコンディションを管理するためのGPSデバイス)を常につけられるわけでもないので、マンツーマンでフォームを撮影して確認して、それが試合でフィードバックされて本人たち感覚として良くなっているかどうかですね。いわきに関してはデータが全て取れるので、数値化して選手の変化も出せています。」
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「いわきで起こった良い循環なんですが、彼らは筋力トレーニングをかなりやるんです。長い時間頑張って力を発揮するということが、みんなすでに得意だったんですが、スポーツにおいて、そういう瞬間は実はあまりないんです。ボールを奪って長い時間キープするというシーンはありますが、そう頻繁にあるわけではない。どちらかと一瞬で『ドンッ』と力を発揮することが求められる。スプリントがまさにそれなんです。」
――そこをサッカーにつなげるとどうなりますか?
「その動きって、サッカーにおいては何なのかと考えた時に、パスやシュートなど、瞬間的に大きな力を出すことなんです。走りでそういう動きを体得して、サッカーに“横移動”させるということができたらいいなと思います。『足が速くなる引き出しを身に着けていったら、サッカーでの切り返しにも役立ったんですよ』という選手の声がヒントになりました。それでは、方向転換は?守備時の構えは?と僕からもアイディアを出してメニューを作っていって、選手たちがトライしてどんどん良くなっていってという形です。選手と一緒にトライ&エラーを繰り返してきました。」
――陸上の技術や考え方をサッカーに置き換えてメニューを作るのですね。選手たちにとっては、具体的な変化があると、自信ややり甲斐にもつながっていきますね。
「サッカーのトレーニングの中で、スプリントトレーニングは冒頭の20~30分くらいなんですが、それをやるのとやらないのでは大きく違ってくると思います。マイナビの選手たちは本当にまじめなので、全体トレーニングが終わった後も、集まってきてまた一緒にトレーニングをやってくれたりします。続けることができればしっかり成果は出てくるんじゃないかと思います。」
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「勝手なイメージだったんですが、取り組む前は、選手にとってスプリントトレーニングは『あぁ、走りのトレーニングかぁ…‥』という感じのテンションなのかなと思ったんです。でも、それは全く違っていて、皆さんまじめに、目の色を変えて取り組んでいることがわかります。やってくださいと示したメニューを確実にやってくれる人たちばかりです。だからこそ、走りで自信を獲得できるということを狙っています。」
――サッカーは勝敗のあるスポーツなので、試合で結果が出ないと、つい自信を失いがちです。
「僕はポジティブに捉えていて、カップ戦の試合を見せてもらって、走りの課題は全部わかりました。この練習をすれば絶対良くなるということもわかりました。サッカーの戦術的なところは素人なのでわかりかねるところもありますが、試合中、練習中の選手の走り方を見れば、こういうことを続けてやれば絶対に変わるという確信があるので、あとはやるか、やらないかです。それと、ただ『やってくれ』とお願いするのではなく、『どうしてこれが必要なのか』を説明すれば選手はわかってくれます。それはこちらのオーガナイズの問題なので、そういうところは気をつけ、現場のスタッフとも話し合いながら続けていきたいと思います。」
――これからの変化が楽しみですね。
「僕の中ではひとつ成果が出るのは指導してから3ヶ月後くらいと考えています。その頃にようやく走れるようになってきたかな?という感じだと思います。そこまでは時間はかかりますけど、ここからリーグ戦までの期間も強度を落とさず継続してできれば、リーグ戦での結果は大きく変わってくるはずです。スプリントトレーニングはサッカーへの親和性は高いと思っています。いわきFCはJリーグで初のスプリントコーチ導入。WEリーグではマイナビ仙台レディースです。必ず女子サッカー界に革命を起こしたいと思います。」
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