『個』は組織を破壊する
真っ赤に染まったカシマスタジアムは試合開始前には両チームのサポーターによる大声援が鳴り響いていたが、試合終了直後は静寂に包まれた。
この試合は両チームの守備意識の高さが目立った一方で、攻撃面での物足りなさも垣間見えた。そんな両チームの攻防についてまとめていく。
リソースの割き方
鹿島は4-4-2のシステムでFW垣田が最前線でターゲット役になったり、背後を取る役目だ。そして鈴木が割と自由に左右に動いてボールを受ける。この2トップのタスク分けが非常によくハマっている。
鹿島は垣田の空中戦の強さを活かしてシンプルに垣田めがけて押し込む形が多く見られた。かなりラフなボールでも垣田や鈴木に対してはどんどん配球してセカンドボール勝負へと持ち込む。例えば5:20では早川からのロングフィードに垣田がホイブラーテンとの空中戦に競り勝ちボールをフリック、背後には仲間が走り込んだが、ショルツが上手くカバーに入った。
鹿島のビルドアップと個人戦術
鹿島の大きな課題はビルドアップにリソースがかかりすぎて、いわゆる『後ろに重い』状態になっていることだろう。植田と関川のCBがボールを運ぶことや縦パスを入れるといったことをあまり得意としていないため、ボランチのピトゥカや佐野がサポートに入ることがデフォルトとなっている。その影響で中盤の選手のスタートポジションが後方からになるため2トップが孤立気味となる。
鹿島の2トップが孤立状態の中で後方から中盤が上がってくる時間を作ることができると相手陣内に押し込めるのだが、収まらないとセカンドボールを拾えずに苦しい展開となる。従って鹿島は垣田と鈴木の2トップは欠かせない存在となっている。
例えば21:55ではピトゥカ、佐野、仲間がCBのサポートに入ってビルドアップ。右サイドの広瀬へと展開すると広瀬からラフなボールを垣田が収めたところからアタッキングサードへと侵入した。基本的に2トップに収まる前提なので、その前提が崩れるとビルドアップは崩壊してしまう。
そんな中で試合終盤に見せたRSB佐野は鹿島に新たな攻撃のオプションを与えた。途中からボランチからRSBにコンバートされた佐野は広瀬のようにただ外に張り出すのではなく、ゲームを組み立て、時にはオーバーラップやアンダーラップで背後を取るような場面があった。例えば、81分のアンダーラップでPAのポケットで土居からボールを受けた場面や、86:54の大外から斜めの動きで背後に抜け出して明本に倒された場面など、鹿島の攻撃を活性化させた。
ボールサイド圧縮vsサイドチェンジ
例えば21:50では右サイドから左サイドへと浦和はボールを動かしたが、鹿島もしっかりとスライドを行い、ボールサイドで数的同数にして対応。結局、荻原がドリブルで1枚剥がそうと無理をして突っ込んでいったところを仲間と広瀬でボールを奪った。
ただ、下の図の8:32のようにスペースを潰して奪いどころの要所でボールが奪えないと一気に鹿島は苦しくなる。この場面ではRCBのショルツから縦パスがハーフレーンにいた髙橋へと通る。佐野と関川が慌てて寄せたが、伊藤のサポートもあって浦和がプレス回避。素早く左サイドへと展開して一気に浦和はアタッキングサードまで侵入した。
後半に入ると浦和はサイドチェンジのテンポを速めていった。また、リスクをかける機会も多少増えて、47:52のようにショルツがドリブルで運ぶことで数的同数に+1するアクションは効果的だった。
特に浦和は試合前に怪我をした大久保の不在は痛かった。大久保の個人戦術は浦和の攻撃の核を担い、1つの状況を打開するツールになっている。ドリブルがあるとパスも活きてくるのだが、この試合ではサイドで仕掛けることができる選手の不在はスコアレスという結果に大きく影響を与えた。
また、浦和は徹底してサイドからの攻撃を見せていたが、もう少し中央からも攻撃ができると、もう少しサイド攻撃の威力も高くなったのではないかと思う。
55:42ではホイブラーテンからホセカンテへパスが通り、中央で起点ができたことで鹿島の守備陣は中央へ絞る。従ってサイドにはより大きなスペースが生まれるため、ホセカンテからボールを受けた荻原は余裕がある状態でプレーすることができた。
ポケット管理
前半1:55の浦和の右サイドでの攻撃では伊藤が酒井にパスを出した後にポケットを取りにスプリント。しかし、鹿島の安西と佐野も伊藤の動きに合わせてポケットを消しにかかりパスを出させなかった。
浦和としては後半に入ると何回か良い形でサイドからPA内に侵入する場面があったので、シュートまで繋げたかったが、ゴール前の人数が足りなかったり、折り返しのパスの質が低かったりでなかなか上手く噛み合わなかった。荻原の折り返しに髙橋がシュートを打って小泉に当てた場面が唯一のポケット侵入からのシュートだったはずだ。イメージの共有でアタッキングサードを攻略している浦和にとって今シーズンは終盤になってもなかなかイメージが共有できていない場面があることがチーム作りの難しさを物語っている。
※リンク先は外部サイトの場合があります
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ