【横浜F・マリノス】法人営業部のアフターコロナ実行
プレミアムパーティーでは、約60名のお客さまと監督、選手が懇親の時間を楽しんだ 【©1992 Y.MARINOS】
「ファミリー」と「プレミアム」で高めるスポンサー満足度
クラブ史上初! VIPファミリーデー開催の道のり
Jリーグのチームは、ホームゲームとアウェイゲームを戦う。18チーム(2023年シーズン現在)が展開するJ1リーグなら、17チームとそれぞれ2回戦総当たり計34試合。そのうちの17試合が、そのクラブ主催のホームゲームとなる。ホームスタジアムに多くのファン・サポーターに足を運んでもらうことと同じように大切なのが、クラブのパートナー企業に横浜F・マリノスの価値を感じていただくことだ。そのために、どのクラブにもVIP席が用意されている。専用の受付を用意し、飲み物と食事が並ぶ特別な部屋を用意。メインスタンド中央には、VIP専用の特等席が用意されている。そこは、パートナー企業だけのおもてなしのスペースであり社交場の様相もあることから、18歳未満の入場をお断りしているクラブも多い。
横浜F・マリノスもそうだ。「落ち着いた雰囲気の中で、クラブの価値を感じていただく」ことを念頭に、18歳未満の来場はご遠慮いただいている。ただ、法人営業メンバーの耳には、来場者からこんな声も届いいていた。
「今日は、うちの小学生の息子たちもバックスタンドで観戦しているんですよ。一緒に見たかったけど、ここ(VIPルーム)には来られないから試合後に合流して、家に帰ります」
この言葉の深層は明白だ。VIPルームで一緒に飲食を楽しみながら試合観戦をしたい。ただ、ゆっくりと観戦をされたいお客さまもいる。この二つの想いを同居させることができれば、お子さまの来場も実現できるのではないか。
法人営業チームが、ここ2、3年で模索を重ねてきた「ファミリーデー」の思案を鈴木によって提案までこぎつけられたのは、2月に新設された会議体の「雑談」の存在が大きい。社内の組織変更に伴い鈴木の上司となった森川晃の発案だった。それまでの会社全体の連絡事項や各メンバーの報告事項の定例会議とは一線を画し、眉間にしわを寄せず肩に力を入れず、日ごろの考えていること、やってみたいこと、突飛なアイデアを含めて、雑多にトークをしながら形づくりをする。そんなイメージの会議体だ。
雑談で発表された鈴木の資料の目的を抜粋しよう。
「試合を限定し、18歳未満のお子様の入場を解禁し、お客さま満足度の向上とVIP空間の新しい価値創造につなげる施策を検討したい。」
全員が「ぜひやろう」、「ぜひやりたい!」の気運になったことを確かめた森川は、すぐに次のステップとなる対象試合決めに進んだ。これは、ゴールデンウイーク期間中の4月29日の名古屋戦、5月7日の京都戦にすんなりと決まった。休日のデーゲームであること。そして、29日の名古屋戦はクラブとしても「F・マリノス キッズスタジアム」と銘打って、さまざまなイベントを打ち出す試合だった。
会議室にての「雑談」からクラブ史上初のイベントがキックオフされた 【©1992 Y.MARINOS】
18歳未満といっても、どの年代のお子さまが多いのか?
乳幼児、未就学児の割合はどのくらいか?おむつを替える場所は?
お子さまに、大人用のお食事を用意するべきか? お子さま用を用意するべきか?
お子さまがつまずいて、机の角に頭をぶつけるかもしれない。
アレルギーがあるお子さまもいるだろう。
試合観戦に飽きる未就学児のためにキッズスペースは必要ではないか。
ベビーカー置き場はどのくらいのスペースが必要か。
一つ一つ、想像と解決策を練り、実施に向けて行動に移していった。
例えば、乳幼児、未就学児が来場されてもいいように、普段は使っていないスペースをキッズルームに改装。これは、日産スタジアム内に既存している赤ちゃん休憩室を模した。この赤ちゃん休憩室を。約15年前に立ち上げたのは森川だった。そのときの経験を生かし、車のおもちゃをはじめ、幼児番組の放映、おむつ替えスペースの設置など、必要なものをリストアップ。不測の事態も想像して、必要以上にそろえることをモットーとした。
VIPラウンジ内に新設したキッズルーム。既存の赤ちゃん休憩室をブラッシュアップさせた 【©1992 Y.MARINOS】
塗り絵展開にしたお子さま用のお弁当パッケージ 【©1992 Y.MARINOS】
お子さま用のお弁当。事前にアレルギーもヒアリングのうえで用意した 【©1992 Y.MARINOS】
階段の角には、クッション性のセーフティーグッズを張り付けて、もしもの転倒に備えた 【©1992 Y.MARINOS】
営業チームの8人に加え、この日、二人増員した12人のアテンダーとの打ち合わせは、通常の倍の時間を使った。
「お客さまとお子さまにとって、特別な体験になる1日にすること」
「お子さま連れではないお客さまに、いつもどおり楽しんでいただくこと」
「すべてをセーフティファーストとし、品と和やかさをもって運営すること」
当日行われた事前ミーティングでは、ファミリデーに関わるすべてのスタッフで目的の共有と統一をした 【©1992 Y.MARINOS】
「パネルが剥がれ落ちています!」
この日、新たな空間つくりを考えて、選手パネルをVIPルーム内にデザインした。こちらも初めてのことだったが、どうやら貼り付けの強度が弱かったようだ。100センチ四方のパネルが落ちて、お客さまに当たればそれこそ一大事。張り直して臨んだが、もしはがれてもお客さまに当たらないように、張る場所を急きょ変更をした。
お客さまの受付が開始されると、無線ではいつもとは違うアナウンスが流れる。
「乳幼児連れのお客さまが上がられます。キッズルームのご案内をお願いします」
「ベビーカー置き場を、受付から見える位置に変更します」
「おむつを捨てる場所を用意していなかったので、状況を確認して設置をしました」
「スタンドを走っているお子さまに、お声がけをお願いします」
「キッズルームは、現在満員状態です。ご利用されそうな方がいたらお伝えください」
前半が終わるころにこんなこともあった。日産スタジアムの空模様は、それまでとは一転し黒い雲が覆いつくした。突然の雨とともに舞い込んできた冷気に、この日の出番はないだろうとバックヤードにしまっていたブランケットを急きょ用意。営業チームのメンバーやアテンダーが、お客さまに瞬時に配り終えることができたのは、そこにいたスタッフ全員が、この日の目的をすべてが踏まえていた証だろう。
VIP席に子どもたちの笑顔と声があふれた 【©1992 Y.MARINOS】
いつものとは違う声のトーンや表情が見られたVIPラウンジ 【©1992 Y.MARINOS】
好評をいただいたキッズルーム 【©1992 Y.MARINOS】
〇子どもに対する設備が整っていてよかった
〇にぎやかで楽しかった。子供にも夢を与えられる素敵な企画だと思いました!
〇子どもが喜びそうな軽食(小さいおにぎりやサンドイッチ)があれば、もっとよかったです。
当日のアテンダーの意見、お客さまの声を踏まえて、法人営業チームのメンバーで振り返りをし、次戦の5月7日京都戦で改善。アンケートの結果、満足された方が9割に達したのは、一つの成果としてメンバーに達成感を与えた。そして、多くのお客さまに要望にお応えし、夏休み期間中の8月12日ガンバ大阪戦、19日FC東京戦の2試合でも、スムーズにファミリーデー実施に至った。創造、設計を経て成功を得たことで、横浜F・マリノスの法人営業チームに一つのおもてなしの形が加わった。
ファミリーデー後日。会議体の「雑談」同様に、森川の発案により加わったイベントの「打ち上げ」会場に向かうメンバーの足取りもとても軽かった。
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テーブルを囲むパートナー、監督、そして選手 制限のなき会話に弾けた笑顔
「プレミアムパーティー」は、トップパートナー、オフィシャルパートナーのお客さまをご招待した 【©1992 Y.MARINOS】
「プレミアムパーティー」の目的は、日ごろサポートいただいているパートナー企業の皆さまに感謝の気持ちを伝えること。キーは、トップチーム全員が参加をし、監督、選手がそれぞれのテーブルでホストとして、お客さまをおもてなすことだ。森川は、4月上旬から動いていた。チームをつかさどるチーム統括本部に目的と趣旨、内容を説明し了承を得て、候補日を2つ引き出した。
ファミリーデーと並行して進められた「プレミアムパーティー」の視察 【©1992 Y.MARINOS】
「大樹さん、お疲れ様です。今日はお願いします!」
法人営業チームのメンバーが集まった本社会議室の画面に、久里浜のクラブハウスの一室が映し出されている。そこにいるのは、ゴールキーパーの飯倉大樹選手だ。前回のプレミアムパーティーを知るチーム最年長。そして、チームのまとめ役的存在でもある飯倉選手は、選手側の意見を聞くにうってつけだ。鈴木から趣旨と内容を説明すると、飯倉選手が身を乗り出した。
「ぜひやりましょう! コロナ渦で、ファン・サポーターやスポンサーのみなさんとの接点が限られていた中で、直接お会いして感謝を伝えるのはすごく大事なこと」
法人営業チームから多くの質問を投げかけられ、メンバーの西田祐太郎は次のように質問をした。
「スポンサーのお客さまとお話をする中で、必要なものはありますか」
飯倉選手が答える。
「それ、すごくいい質問。選手たちは、スポンサーの皆さまに感謝していることはもちろんだけど、そのスポンサーさんのことについて知っていることは本当にわずかだと思う。お呼びする会社の情報や、お越しになるお客さまの情報を事前に知ることで、よりいい時間の過ごし方にできると思いますよ」
法人営業チームのメンバー全員がヒザをたたいた。ミーティング終了後に、西田が法人営業チームのメンバーに投げかける。
「パートナー企業の各担当者がお呼びするお客さまの企業紹介シートを作って、選手一人一人に直接説明するのはどうでしょうか。法人営業チームのメンバーの顔も覚えてもらいたいですしね」
コロナ渦でなかなかできなかったチームとのコミュニケーションは、クラブスタッフも同様だった。フェイストゥフェイスで、事前に選手たちに目的を伝えることは、最良の準備の一つになる。西田が作った企業紹介シートのフォーマットに、各担当が記していく。シートにQRコードをつけて、スマホで企業のホームページにすぐに飛べるようにするなど、“今風”の工夫も施した。
パーティー当日。お客さまをお迎えする前に、選手たちにあらためて目的を説明した 【©1992 Y.MARINOS】
〇お土産はうれしかったが、少し重くて電車帰りにはこたえた
月日がたっても、お土産を見てパーティーを思い出してもらいたい。そんな思いを込めて、お土産選びをしていた担当の小林玲は、いくつかの候補を挙げていた。キーワードは、軽くて、実用的で、横浜F・マリノスを連想させるもの。ご家族も喜んでもらえるものとして、菓子の選定はほどなくして決まったが、メインは何か…。
「会議で何度も思案して決まったのがタオルでした。軽くて実用的。そして、F・マリノスらしさは、色で表現をすることにしました」
小林は、その素材と色にもこだわった。素材は、評価が高く、使用感もよいものにし、メーカーと直接やりとりを始める。趣旨を説明し、F・マリノスのチームカラーであるトリコロールの3色を選定。梱包もチームカラーが際立つよう工夫をこらしてくれた。
すべては整った。開演90分前に集まったトップチームの面々は、一様に楽しそうだった。法人営業チームのメンバーが事前に来場する企業の説明をしたこともあって、構える必要がなかった。クラブスタッフ、チームスタッフともに準備は万端だ。
トリコロール柄に梱包された色合いのタオルをお土産としてお持ち帰りいただいた 【©1992 Y.MARINOS】
和やかな雰囲気で開催された約2時間のパーティーは、キャプテンの喜田拓也選手のあいさつで締めくくられた 【©1992 Y.MARINOS】
〇テーブルについていただいた選手とたくさんお話ができました。欲を言えば、ほかの選手ともお話をしたかったです。
2019年のお客さまアンケートに記されていたひと言。どこまでも、お客さまファーストに徹した。ふれあいタイムですべてが笑顔だったのが、その一つの結果だった。
来場いただいたお客さまを監督、選手のチーム全員がお見送り。ふれあいの時間を用意したのは、過去の教訓からだった 【©1992 Y.MARINOS】
「これまでも多くのパートナー向けイベントを企画、実施してきましたが、どこか業務が属人的になっていたり、内容が一方通行になり、参加者全員の一体感を感じられる場面は、そう多くはありませんでした。しかし、今回のファミリーデー、プレミアムパーティーは、準備や当日も含め、感想をひと言で表すと『楽しかった』です。お招きする私たちが楽しくなければ、笑顔でお客さまをお迎えすることはできません。今年2月、新法人営業チームが立ち上がった初日に、森川がミーティングでメンバーに伝えた仕事のテーマは「楽しもう」でした。お客さまのために、仲間を信頼して、自分の業務に責任を持ちながら、チームワークで仕事をしていく。その言葉の意味を、私を含めメンバー全員が今回の取り組みを通して、身をもって理解することができました。これからも、クラブの価値を高める努力を継続していきます」
横浜F・マリノスの法人営業チームは、さらなる施策を考えている。すべてのお客さまが、F・マリノスの価値を感じていただくために。そして、まだ見ぬパートナーのために。
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