「F」rontale×「F」ormula。競技の垣根を超えたコラボはどうやって実現したのか【後編】

川崎フロンターレ
チーム・協会

横浜FC戦の勝利後にサポーターと一緒に記念撮影 【©KAWASAKI FRONTALE】

7月8日の横浜FC戦のホームゲームで開催された「Fサーキット2023」。川崎フロンターレ事業部の天野春果部長と日本レースプロモーション(JRP)の上野禎久社長が語り尽くす対談も後編に。9年ぶりに復活した背景とともに、今後に向けた展望も明かしていく。
—9年ぶりに「Fサーキット」が復活した背景も聞かせてください。どういうきっかけで「またやりましょう」となったんですか。

天野「昨年の6月に僕が記者の松沢さんと久しぶりにご飯を食べていたんですよ。その時に上野さんの話になって… 上野さんが社長になったのはいつでしたっけ?」

上野「2021年の暮れ。あの連絡をくれた半年くらい前かな」

天野「上野さんがJRPの社長になったんだよという話になった時に、これは上野さんともう一回組みたいなと思っていて。去年、陸上コラボイベント『Rick&Joe』をやったじゃない? あれもその一環なんだけど、等々力陸上競技場の改築が決まっていて陸上トラックがなくなる。あのトラックがあるうちにできる最高に面白いことやりたいって思っていた。確か、その場ですぐ上野さんに電話をかけたと思う。『またフォーミュラと組みたいんですけど』っていう話をして…」

上野「自分もその場でOKした記憶がある(笑)」

天野「何も日程が何も決まってないのに『いいね。やろうよ!』って言う。そこですよ!」

上野「恋ちゃんが退社して、天野さんが東京オリンピックに行ってしまって、フロンターレで交流があった人たちと少し疎遠になったのは事実なんですよ。オリンピックが終わって天野さんが帰ってきたという話を聞いて、僕自身、あのイベントにすごく思い入れがあったので、また機会があったらぜひ走らせたいなと思っていたところに電話をもらったんです」

今年1月の新体制発表会見で登壇した上野禎久社長。実はこの時点では日程も決まっていなかった 【©KAWASAKI FRONTALE】

—タイミングも良かったと。

上野「それに私たちも『SUPER FORMULA NEXT 50』というプロジェクトを立ち上げて、いろんな新しいファンを増やしていくフェーズでした。自分が社長になってプロジェクトを始めて、どうやって新しいファンを増やしていくのか。そこに天野さんが帰ってきたので、不思議なご縁を感じますよね」

天野「本当にそうですね」

上野「そうしたらマッチも会長になってね。ちょうどあの頃、近藤真彦会長になるって話があって彼自身も新しいファンを作れるよねと言っていた。株式会社トムスさんがEVレーシングカートを開発したりして、まさにそういうフィールドを探してたんです。我々にとっても渡りに船になったところもありましたよ」

天野「ただ実施する日程に問題がありましたね。Jリーグって結局、シーズンが終わってからじゃないとホームゲームがいつになるか分からない。新体制発表会見も1月じゃないですか。だから、あの発表の時には日程がまだ決まってなかったんじゃないかな」

上野「決まってない、決まってない。だって、あの時は走るマシーンも予算の段取りもまだ何もしてなかった」

天野「だから新体制で発表して上野さんに登壇してもらっておきながら、何も決まってなかった。普通だったら話せることないから話さないってなるのに、『もう登壇して話すよ』って(笑)。ああいう時間で話せるんだから、上野さんはすごいですよ」

上野「僕はバックステージでサポーターのみんなから声かけてもらって、あれが本当にうれしくてね」

天野「上野さんもそうだけど、結局、協力してくださる方々をつないでくれてるのはクラブスタッフだけじゃなくて、サポーターなんですよ。だから今回も10年前とはJRPのスタッフもだいぶ変わってますけど、まだ残ってる方もいて。サポーターは覚えてるから『お久しぶりです!』みたいな話になって、サポーターの存在が大きいですよ」

上野「それは本当に感じます。羨ましいよ、ああいうサポーターの存在が」

天野「始球式で幕を出すのも、別にクラブがお金を払って発注してるわけでもなんでもないからね。『フロンターレのために、川崎のためにやってくれてる人たちだから』ってサポーターが言って幕も作ってくれる。渡すパイナップルの用意とかもそう。マッチさんもびっくりしてたよ。もちろん、我々クラブスタッフもゲストには本当に感謝してるんだけど、僕らクラブスタッフが言うだけじゃなくて、来場してるお客さんでもあるサポーターが『本当に楽しかった。またやりましょう!』と言ってくれるのは、協力してもらってる人たちにとって大きいなって思う。『またやりたいな。フロンターレっていいな』って思ってもらえる要素にはなってるんだろうなって思います。だって上野さん、サポーターと仲いいですから(笑)」

上野「ずっと年賀状をもらってますから(笑)。サポーターっていう枠ではもう当てはまらないぐらい一緒にイベントを作ってますよね」

天野「試合に勝ってGゾーンの前でフォーミュラカーを止めてね。そこで肩を組んでバラバラを歌う時に、サポーターが『スタッフの皆さんも間に入りましょう』って言ってきたから。『天野さん、これだけ協力してもらって一体感を作れたからマッチさん、関口さん、上野さんだけじゃなくて、他のJRPのスタッフの人も一緒に中に入った方がいい!』って、そういう指示を僕に出してくれるわけですよ。だから、ああいう最高な雰囲気を作れる」

上野「あれはKONDO Racing Teamのメカニックもめちゃくちゃ喜んでましたよ」

天野「あれも非日常なんでね。サッカーの試合なのに、レーシング場の人がそこにタイムスリップしてる状況になるじゃないですか。ああいう異空間みたいな雰囲気がめちゃめちゃ幸せですよ。あの姿を見た時にも本当にやってよかったと思うし、疲れるなんて吹っ飛ぶ。あれを求めてやってる感じです」

スタッフの皆さんも選手と肩を組んで、勝利の「バラバラ」を歌う 【©KAWASAKI FRONTALE】

—先ほど名前が出たマッチこと近藤真彦会長についても聞かせてください。上野さんは社長として接していて、どんな印象を感じていらっしゃるんですか。

上野「彼は3つの顔を持っているんですね。1つは自分の会社(JRP)を経営する経営者の顔、もう一つはレーシングチーム(KONDO Racing Team)の監督という顔。そして近藤真彦、マッチというスーパースターの顔です。近藤が会長に就任して様々な会見で彼と並んで会見をする機会があるんですけども、メディアを前にして質疑応答してる時ってのはすごく普通なんです。ただぶら下がりの囲み取材で目の前にマイクとカメラが集まっているとスイッチが入る。ものすごく気の利いたコメントと、素敵なパフォーマンスをするわけです。一方、オーナーになったら経営をしっかりシミュレーションしますし、監督としてはチームが勝つために適材適所でいろんな投資をしている。本当にマルチな才能をうまく使い分けている人ですね」

天野「俺もいろんな芸能人とイベントをしてきましたけど、マッチさんは突き抜けている。オーラもあるし、本当のエンターテイナー。バックステージにいると、いろんな人が『マッチさん!マッチさん!』となるのだけど、そういうところでも嫌な顔一つしないし、むしろそれを楽しんでる。ハーフタイムのYMCAショーもやらされてるのではなく、全部自分のものにしてやっていた。サービス精神も素晴らしいし、今まで始球式に来てもらった芸能人の中で一番と言っていいぐらいインパクトがありました」

上野「始球式前の挨拶といい、始球式のパフォーマンスといい、お客様を喜ばせることの何たるかを知ってる人ですからね」

天野「あとはマッチさんって昭和40年代後半とか僕らの世代なんです。だから、若い人からの知名度ってどうなのかなって思ったんだけど、知ってるんだよね、若い人も含めた全世代が。ステージに移動するときのあの囲まれ具合は、これまで経験したことないよ(笑)。『三笘薫より人気ありますよ!』ってマッチさんにも直接言ったぐらい。本人は『そんなことないよ』って笑ってましたけど。あとマッチさんの登場でスタジアムの温度が上がったってサポーターからも言われました。『最初から応援の声が大きかったし、雰囲気すごく良かったでしょ?』って」

上野「エンターテイメントのショービジネスの世界で戦ってきた人なので、お客様の喜ばせ方を体現できる特殊なスキルがあるんですよ」

ハーフタイムのYMCAショーでも“エンジン全開” 【©KAWASAKI FRONTALE】

天野「サッカーはピッチ上で行われていて、選手たちはそこに集中しているし、みんなそこに対して応援も集中するものだけど、実際はそんなことでもないと僕は思っていて。会場の熱がグッと上がることがすごく大事だし、それができるのが試合前のエンターテイメントだと思っている。今回はそういうのがまざまざと感じることができたし、サポーター自身がそれを言っていた。実際、僕も『声がでかいな。雰囲気がいいな』って感じました。首位争いじゃない試合だったけど、こういうエンターテイメントで人間の気持ちが『よし、応援するぞ!』っていうのに繋がるんだよって。これは別物では絶対にないなって思いましたね」

上野「観戦、応援の満足度を上げるためのプレイベントの価値みたいなものが感じられました。そこには僕たちも学ぶところがあって、粛々とスタートするのもいいんだけど、やっぱり盛り上げるのが大事。ちょっと話が飛ぶんですけど、鈴鹿8耐っていう8時間耐久ロードレースがあるんですよ。あれってスタートがちょうど11時半で、その時報に合わせて走り出す。そうすると、お客さんがカウントダウン始めるんです。カウントダウン始めて11時29分50秒から数万人のお客さんが声を揃えてカウントダウンするんですよ。だんだんお客さんのボルテージが上がってきて、1コマの声がものすごくなる。あの時の雰囲気を思い出しました。なんだろう… 着火剤みたいな効果があったのかな」

天野「おっしゃる通りで、着火剤になってるんですよ。サッカーじゃないのに、それが着火剤になるというのはすごく感じた。それと僕の心を打ったのが、マッチさんがスタートの時に言った『Start Your Engine』という言葉。これってサッカー界では聞いたことないし、ものすごくいい言葉だなと思って。サッカーって『Kick Off』じゃないですか。『Start Your Engine』ってエンジンをスタートさせないと進まないんだよっていう、まさしくフロンターレが求めてる、自分自身も求めてるような言葉だったんで、すごく励まされました。上野さん、あの『Start Your Engine』ってメジャーな言葉なんですか?」

上野「もともとIndy 500のスタートセレモニーに使われてたんです。昔は『Gentlemen, start your engines』と言って、おじいちゃんやおばあちゃんがやったんです。インディの歴史をずっと見てきたようなお年寄りに言わせて、それと同時にエンジンスタートすると会場のボルテージが上がるっていう。さっきの着火剤の効果ですよね。今は子どもにやってもらってます。子ども2人が代表で選ばれてグリッドの一番先頭に立って、ステージの上で『Gentlemen, start your engines』と言った瞬間に、22台が一斉にエンジン鳴らす。子どもがその体験をしていますね」

天野「なるほどね。じゃあ、富士スピードウェイに視察に行った時も言ってたんだ。そこは僕は気が付かなかった。あれは痺れたな」

場内のフォーミュラカー走行の合図を出す近藤真彦会長。「Start Your Engine!!」 【©KAWASAKI FRONTALE】

—お話は尽きないですが、今後の話も。8月には栃木県で開催される全日本スーパーフォーミュラ選手権の第6戦にフロンターレサポーターの観戦ツアーが組まれていますね。申し込みがすでにかなりあると聞きました。

天野「今の時点で70人かな。最大で80人なんで」(※ツアーの申込期間は7月31日で終了)

上野「じゃあ、もう埋まっちゃうね。すごくうれしいですよ」

天野「スタジアムで走ったのを見ると『生で見たい。どうなってんだろう』っていう興味関心は湧くだろうし、フォーミュラカーとサッカーが好きな人っていうのはそこまで多いわけじゃないじゃない。それ考えると現時点で70人の申し込みというのは、すごく反響あったんだなって思いますね」

上野「たぶん近藤監督のチームを応援してくれるはずなので、みんなでブルーの旗をもって応援してくれるとうれしいですね」

天野「スタジアムで掲げていたマッチの弾幕を出して、選手のやつも出して総合応援っていいですよね。今は川崎市内の相撲部屋がなくなってしまいましたけど、大相撲でも観戦ツアーをやりましたし。自由席なんだけど、フロンターレの今回の観戦ツアーはみんなが一緒のとこで見られるように。そういう雰囲気でやりたいですね」

—最後に。来年に向けた展望などがあれば。

天野「来年、川崎市が100周年なんですよね。100周年事業は生涯一度じゃないですか。そこに向けて川崎市ともいろいろと話はしてはいるんですけどね。例えば、川崎市はCO2削減にすごく力を入れてるから、環境に配慮したものを考えていくところでは、フォーミュラカーはその最たる例になる。そこをくっつけてイベントを実施したら面白いだろうなって思いますよ」

上野「そうですね。僕たちはカーボンニュートラル(環境中の炭素循環量に対して中立。CO2純排出量をゼロにするということ)を掲げていて、川崎市さんが挙げられてるテーマと同じですから、そういった意味ではコラボできる関係はあるのかなと思ってます。我々も川崎市の100周年のテーマに沿う形で協力ができたら、ぜひやりたいと思ってますよ」

天野「そうだ、川崎駅前の道路を全部封鎖して、あの公道の直線を信じられないスピードで走ってもらいましょうよ(笑)。やりましょう、上野さん!」

上野「さすがにこのネタはすぐには『いいよ』って言いづらいよ(笑)」

(取材・構成:いしかわごう)

Fサーキット当日のプロモーション部を追った「1カメ」

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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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