なでしこジャパンのW杯優勝から12年

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悲劇的な震災を乗り越えたなでしこジャパンの奇跡のW杯制覇までの道のりをFIFA+が振り返る。

 信じられないことが起きた。当時のサッカーファンの気持ちを代弁するならこの言葉であろう。2011年7月17日、日本代表の「なでしこジャパン」はPK戦の末に、それまで一度も勝ったことのないアメリカ女子を下し、初優勝を果たしたのだ。FIFAの主催大会で日本が優勝したのは、男女を通じて初めてであり、歴史的な偉業だった。

 主将としてチームを引っ張り、大会MVPと得点王に輝いた澤穂希も「信じられない」とコメントを残している。事実として、この大会が始まる前、日本は未曾有の自然災害によって大きな損害を被っていた。

 3月11日、日本に東日本大震災が直撃した。前代未聞のこの自然災害は、多くの人の家族や住む場所を無情に奪い、人々に拭い去ることができない大きな心の爪痕を残した。東日本大震災は、物的・人的に大きな被害を残したが、それ以上に、先が見えない復興、原発事故処理、さらに電力危機などによって、日本中に暗い雰囲気が漂っていた。

 そんな背景がある中で6月に開幕した女子ワールドカップ。この当初は日本での女子サッカーの人気は今ほど高いわけではなかった。清楚(せいそ)で凜(りん)とした美しさを持つ日本女性をたたえる言葉である「大和撫子(なでしこ)」からの「なでしこ」に、世界に羽ばたくようにと「ジャパン」を組み合わせた「なでしこジャパン」という愛称も浸透しておらず、この大会に関するメディアの報道はほとんどなかった。

 加えて、震災によって国内リーグの中断も余儀なくされ、選手たちは自分たちの大会参加さえ不透明な状況だった。ナイターの電気すらつかない状況の中で「本当に自分たちはサッカーしていていいのか。もっと他にやるべきことがあるんじゃないか」と宮間あやはFIFA+のドキュメンタリーで語っており、いかに彼女たちの当時の心境が不安定だったかを物語っている。

 それでもなでしこジャパンの選手たちはこの逆境に屈しなかった。「私たちのプレーで勇気を送りたい」という一心でチームが団結し、それが大躍進の原動力になった。

 日本は1次リーグ初戦のニュージーランド戦を2-1で白星発進を飾ると、続くメキシコ戦は4-0の大勝で2連勝。そして迎えた第3戦は引き分け以上で1位通過が決まる状況でイングランドとの試合に臨んだ。なんとかイングランドの猛攻を凌いでいたなでしこだったが、その日は攻撃陣が不発で、相手守備の牙城を崩せずに0-2で敗れてしまう。

 彼女らにとってグループリーグ首位から転落して2位通過という結果は大きな喪失感をもたらした。何故なら次の相手は過去一度も勝ったことのないドイツだったからである。FIFA+のドキュメンタリーで、岩清水梓も「もう次で大会は終わるかもしれない」と正直に当時の感想を話しており、日本にとってドイツの壁は非常に大きく、絶望的に見えるものだった。

 しかし、イングランド戦で何もポジティブなことがなかったわけではない。宮間は「イングランド戦で悪いところが全て出たから、次の試合に向けて修正ができた」と話しており、チームは逆にこの敗戦で気持ちの切り替えがうまくできたという。

 迎えたドイツ戦。付け入る隙を窺いつつドイツの波状攻撃になす術もない日本は、ひたすら我慢の時間が続いた。海堀あゆみも「全くボールが前に進まない」と防戦一方だったことを認めているが、開催国であり前回大会の優勝国であるドイツにとっても、この試合のプレッシャーは相当大きなものであり、数ある決定機を決めきれずにいた。

 そしてなんと日本はドイツに勝ったのだ。延長後半3分、丸山桂里奈が決勝ゴールをあげ、番狂わせを起こしたのだ。その時の過程について丸山は「(裏にスルーパスが出た瞬間)ゴールまで繋がる一筋の光が見えた」と語っており、文字どおり勝利に導いた奇跡のゴールはこの後の日本の快進撃にさらに勢いを加えた。

 波に乗った日本は準決勝でスウェーデンを3-1で破ると、決勝の相手は世界ランク1位の女王であるアメリカ代表だった。日本はアメリカ代表にもこの時まで一度も勝った経験がなく、過去の1999年には一本のシュートも撃てずに0-9で完敗した試合もあった。直前のアメリカ代表との親善試合でも完敗を喫しており、鮫島彩は「恐怖心しかなかった」と言うように、前評判では圧倒的にアメリカが有利だと見られていた。

 日本はフィジカルで勝てない相手に真っ向から挑むのではなく、細かいパス回しとクリエイティビティで勝負した。そして、日本とアメリカの決勝戦は大会史に残る死闘となった。ドイツ戦と同じく相手のスピードに圧倒されて、防御に徹するしかなかった。

 それでも目に見えない何かの力に守られているかのように日本は耐え凌いだ。「日本のみんなに元気を届けよう」という合言葉を胸に、全員が一致団結してなんとかアメリカに食らいついた。延長を含め、2度のリードを許し途中何度も心が折れそうになりながらも、延長後半12分に澤穂希の劇的同点ゴールでPK戦に持ち込んだ。

 PK戦の主役は間違いなく日本のゴールキーパーの海堀だった。丸山が「いつもすごいが、あの時は神がかっていた」とコメントしていたとおり、海堀は驚くべきことにアメリカの4本のPKのうち3本をストップ(うち一本はカーリー・ロイドが枠を外したもの)し、日本の優勝に大きく貢献したのである。

 最後は熊谷紗希が左隅に蹴り込み、なでしこジャパンは悲願の栄誉を手にした。東日本大震災という逆境から最高峰の舞台の頂点まで彼女たちは見事に成し遂げたのだ。この優勝のおかげで、日本の女子サッカー文化に火がつき、今の日本の女子サッカーの人気につながっている。

 どんなに苦しい状況にあっても自分自身と仲間を信じ、力を合わせて戦うヒロインたちの姿に日本列島は大きな勇気を与えてくれた。当時の社会へのインパクトも含め、彼女たちが起こした奇跡は日本のサッカーファンにとって永遠に忘れられることはないだろう。
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